中小企業の「スタートアップ思考」…プロダクトの進め方とは

※本連載では、公認会計士・米国公認会計士の資格を持ち、数々の企業でコーポレートファイナンスを通じて新たなスキームを構築してきた株式会社H2オーケストレーターCEO、一般社団法人M&Aテック協会代表理事および公認会計士久禮義継事務所代表である久禮義継氏が、新時代に中小企業が生き残るための経営戦略を提案していきます。

「特定の顧客層」に焦点を絞りプロダクトを思案する

今回は、前回に引き続きスタートアップ思考についての2回目、「プロダクト」編について整理していきたいと思います(関連記事『中小企業の「スタートアップ思考」…アイデアの生み出し方とは』参照)。

 

[図表1]
[図表1]

 

なお、ここでいう「プロダクト」とは製品・サービスのみならず、営業、サポート、コピーライティングなども含め、会社と顧客とつながるすべての部分を指すと理解してください。

 

<スタートアップ思考その4>

「多数の好きより少数の愛を」の法則

 

【概要】

初期段階においては、特定の顧客層に焦点を絞り、その顧客層から「好き」ではなく「愛」を受け取ることが重要です。つまり、大衆に好かれるようなプロダクトを作る必要はなく、この少数の顧客だけが好みそうな機能だけを出来るだけ高い水準で提供すれば十分なのです(すべて中ぐらいで特長のないプロダクトは一番避けるべき)。

 

当然ですが、プロダクトを用意するだけでは「愛」を受け取ることはできません。実際に使ってもらわなければ、新たな価値が出ません。したがって、中途半端なものであったとしても、なるべく早い段階でプロダクトを顧客に提供して、会話を重ねるべきなのです。スピードがとにかく重要です。愛があれば、プロダクトを使いっぱなしにしないで、貴重なフィードバックが得ることができるでしょう。ちなみに、この場合、必ずしも完全に新たなプロダクトを提供せず、既存のプロダクトを改良してそれを好みそうな少数の顧客に提供してフィードバックを受け取るということでも構いません。

 

なお、「戦略」編にて後述しますが、少数に愛されるプロダクトの方が、後々スケールしやすいという事実もこの法則を肯定する理由となります。あとは、「バーベル戦略」(こちらも「運」編で解説します)を当てはめて、多くの時間とコストをかけ、大多数の顧客ニーズに叶う機能を実装させます。

 

【考察】

スタートアップは一から会社を立ち上げ、顧客開発を行っていく必要があります。したがって、少数の顧客に狙いを定めても実際に接触して有益なフィードバックを得るのにかなりのコストと労力が必要になります。

 

一方、中小企業の場合には既存顧客がいます。長年取引していて深い関係性を築いている場合も多くあります。だから、稚拙なプロダクトであったとしても懐深く壁打ち相手となってくれることが期待できますし、いい加減なものでなく真摯なフィードバックを得ることができます。既存事業の顧客だからといって、まったく関係のないプロダクトを提案するのはどうかと尻込みしてしまうかもしれません。

 

しかし、ここはこれまで築いてきた関係性を最大限利用して、遠慮なくどんどんアイデアをぶつければいいと思います。実際、顧客もそのような積極的な行動を逆に望んでいるのではないでしょうか? 

「まだできてない状態で営業してしまう」という戦略

<スタートアップ思考その5>

「顧客の声を鵜呑みにしてはいけない」

 

【概要】

当たり前の話ですが、顧客ニーズをつかみ、人の欲しがるものを作ることが一番重要です。逆にいえば市場にニーズがないにもかかわらず我を信じて追いかけていくことが一番のリスクとなります。自分の作りたいものや、誰かがきっと欲しがると決めつけているものを作ってもよくない結果となる可能性が高くなります。

 

その対処として、「誰も買わないものを作ってから営業する」のではなく、思い切って「まだできてない状態で営業してしまう」という戦略を採用しましょう。この手法を用いると、お金と時間の両方のコストを抑えることができます。しかしながら、ここでネックとなるのは、新奇性が高いプロダクトであればあるほど、顧客自身も本当に欲しいものなのかどうかよくわかっていなかったり、顧客からのフィードバックが必ずしも正しいとは限らない場合があることです。

 

そこで、顧客の声の裏に潜む本当の欲求が何なのかを捉える必要が出てくるのですが、そこで役に立つのが「仮説検証プロセス」となります※1。仮説検証プロセスを通じて、次のような点を高速回転させながらチェックしていくことで、顧客の真なるニーズに迫るのです。

 

・ビジネスモデルが機能するのかどうか

・顧客の課題と自社が提供する価値がマッチしているかどうか

・自社が提供する価値が実際にプロダクトに実装されているかどうか

 

※1 仮説検証とは「仮説の真偽を事実に基づいた実験や観察などを通じて確かめること」を意味し、仮説検証プロセスとは「現状把握とその分析」・「仮説の設定」・「仮説の検証」という3つのプロセスを繰り返し行う「思考のプロセス」のことをいいます。

 

ちなみに、場合によっては、顧客からニーズを引き出すのみで止まらず、こちらから積極的に顧客ニーズを作り出すという行動も必要になることがあります。

 

【考察】

自分の作りたいものや誰かがきっと欲しがると決めつけたものを作る、というような暴走リスクについては、スタートアップであろうとなかろうと注意しなければなりません。それを回避するために、「まだできてない状態で営業してしまう」という戦略は有効です。これはこれまで持ち合わせていなかった視点ではないでしょうか?

 

ちなみに、中小企業の場合、新奇性が著しく高いプロダクトを検討するということは多くないでしょうから、顧客からのフィードバックはさほど懐疑的に受け取る必要はないと思われます。したがって、スタートアップのように「仮説検証プロセス」を高速回転する必要性はあまりない風に感じられます。以上、今回はスタートアップ思考のうちの「プロダクト」に絞って考察を試みて見ました。その結果、全体をまとめてみると次のようなことがいえるのではないかと思います。

 

[図表2]
[図表2]

 

さて、次回から2回に分けて「戦略」について考察していきます。

 

参考資料:「逆説のスタートアップ思考」(馬田隆明:中公新書ラクレ578)

株式会社H2オーケストレーター・CEO
一般社団法人M&Aテック協会・代表理事
公認会計士久禮義継事務所・代表
 

1994年、同志社大学経済学部在学中に公認会計士第2次試験合格。1995年、同校卒業後、中央監査法人に入所。1998年、日本興業銀行ストラクチャード・ファイナンス部へ出向。2000年、同法人金融部に配属。2001年、ドイツ証券投資銀行本部に転じる。2006年、ミシガン大学ビジネススクールを卒業後、The Bridgeford Group(ニューヨーク)にて勤務。2007年に帰国し、JPモルガン証券投資銀行本部、みずほ証券グローバル投資銀行部門、Deloitteなど数社を渡り歩く。2013年、NEC経営企画本部に転じ、2019年独立。これまで、規模・地域・業種を問わず数兆円超(企業価値)のM&Aアドバイザリー、民事再生法を活用した事業再生スキーム(国内初案件)におけるM&Aアドバイザリー、事業法人グローバルIPOにおける共同主幹事(2002年国内最大案件)、特殊法人の民営化関連アドバイザリー、退職給付信託や各種証券化スキームの開発等、投資銀行業務における重要案件を幅広く担当した経験を有する。NECでは、上級役員の参謀役として経営の中枢に携わり、中長期戦略・グローバル戦略の立案・実行部隊として、ダボス会議事務局、グローバルアライアンス推進、新規事業開発、中期経営計画立案などに従事。公認会計士、事業承継士、米国公認会計士(未登録)。著書に『流動化・証券化の会計と税務』(中央経済社)、「スモールM&Aの教科書 −売買当事者が安心して取り組める実務知識−」(中央経済社)など。

著者紹介

連載令和時代に生き残る!中小企業のための新しい経営戦略

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