富裕層が愛する、日本を代表する高級住宅地
日本にはさまざまな高級住宅地がある。その代表といえるのが、田園調布と成城だ。両エリアとも都心からのびる私鉄沿線に位置し、東京駅を起点とすると、どちらも15km程度と、地理的にも似た位置にある。今回は、このふたつの高級住宅地のポテンシャルを分析していこう。
田園調布は東京の南西部、大田区に位置する街で、「田園調布」駅には、東急東横線、東急目黒線の2路線が乗り入れる。東横線は東京メトロ副都心線、東武東上線、西武池袋線、横浜高速鉄道みなとみらい線と相互運転を行っており、渋谷、新宿、池袋、さらには埼玉や横浜方面にもダイレクトに行ける。東急目黒線は東京メトロ南北線、都営地下鉄三田線と相互運転を行っており、南北線では「永田町」、三田線では「大手町」へ、乗り換えなしでアクセスできる。
田園調布は、大正7年、東急電鉄の母体である田園都市株式会社が宅地開発を始めたのがきっかけに誕生した街だ。開発にあたっては、渋沢栄一らが理想とする「田園都市(=英国で提唱された都市形態)」の考えが踏襲された。駅は1923年、当時の地名をとり「調布」駅として開業。その3年後、街の開発のコンセプトでもある「田園」を冠にすることになった。
街の雰囲気は、駅を挟んで西口と東口でガラリと変わる。西口エリア、住所でいうと田園調布三丁目あたりが、多くの人がイメージする田園調布である。駅前には噴水を中心とした広場が整備され、そこから扇状に道が広がる。これはパリの凱旋門に見られるエトワール式道路をモデルにしているそう。
美しい街並みは、紳士協定である「田園調布憲章」により守られている。「建物の高さは9m、地上2階まで」「土地は165平米以上」「ワンルームの集合住宅はNG」など、守るべき規定は細かい。商業施設をつくることも制限されているため、スーパーはもちろん、自動販売機もない。買い物をするには、必然的に駅前や東口エリアに行かなければいけない。
東口には駅の地下化に伴い、2000年に誕生したショッピングセンター「東急スクエアガーデンサイト」のほか、飲食店も豊富。ひと通りの買い物は、東口エリアですますことができる。
一方、成城は東京の西部、世田谷区にある街で、玄関口となる小田急電鉄小田原線「成城学園前」駅から「新宿」へは15分程度。また小田急線には東京メトロ千代田線が乗り入れており、「表参道」や「国会議事堂」、「大手町」など、都心へのアクセスもいい。
元々この一帯は雑木林が広がる地域だったが、1925年の関東大震災後、今も新宿区にある成城中学校・高等学校の併設校「成城第二中学校」が移転してきたのがきっかけで開発がスタート。学園は周辺の土地を購入・開発を進め、1927年には駅が開設された。
成城が日本有数の高級住宅地になったのは、民俗学者・柳田國男が街づくりに関与したり、北原白秋や大岡昇平など多くの文化人が移り住んだりと、アカデミックな雰囲気をたたえることができたことが大きい。加えて地域住民の意識も高く、2002年には紳士協定「成城憲章」が制定され、塀ではなく生け垣を推奨するなど、美しい街並みを保全する活動が行われている。
いわゆる高級住宅地は、駅の北口、住所でいうと成城六丁目を中心としたエリアに広がる。駅周辺は商業地域になっており、高級スーパーとして知られている「成城石井」は、この地に1927年に創業した。2006年に誕生した商業施設「成城コルティ」には、スーパーやグロッサリー、セレクトショップのほか、クリニックや保育園も入る。
駅南口エリアは閑静な住宅街が広がるほか、国内の撮影スタジオでは最大規模の「東宝スタジオ」がある。映画人、文化人が成城に居住したのは、このスタジオの存在が大きい。
「人口減」が見込まれる高級住宅地
二つの高級住宅地を分析していく。まず人口増加率(図表1)だが、田園調布を有する大田区も、成城を有する世田谷区も、共に増加率3%台と顕著な伸びを見せている。続いて世帯について(図表2)。単身者世帯の割合は共に50%前後と、都心と比べて低水準。家族層と単身者層がバランスよく居住しているエリアだと言えるだろう。
住宅事情を見ていく(図表3)。二つの区を比較すると空室率は大田区が10.9%に対して、世田谷区は6.1%と低水準となっている。この原因のひとつとして考えられるのが、建物の築年数(図表4)。大田区のほうが築40年以上の建物が多い。一般的に築浅物件のほうが賃貸ニーズは高く、結果、世田谷区のほうが空室率は低くなっていると推測される。
駅周辺に的を絞って分析していく。まず人口や世帯についてみていく(図表5)。「田園調布」、「成城学園前」、共に持ち家率が7割近くと高水準であることは、両地域とも高級住宅地であることが一因だろう。「田園調布」の西口にはほとんどマンションは見当たらず、「成城学園前」も駅周辺を除けば瀟洒な一軒家が多い。
このことは、直近で取引のあった中古マンションを抽出し、不動産マーケットの状況を表した[図表6]にも影響していると考えられる。今回抽出できた物件は、「田園調布」はすべて駅東口エリアで、「成城学園前」は駅南側を中心としたエリア。つまり不動産投資でマンションが取引されているのは、「高級住宅地」のイメージではないエリアに限られると推測される。
ちなみに地価公示見ると、「田園調布」駅西口エリア、駅から280mの住宅地で1,080,000(円/m²)、「成城学園前」駅北口エリア、駅から550mの住宅地で845,000(円/m²)と、高級住宅地にふさわしい価格である。
将来人口の推移を見ていくと、大田区(図表7)は、2035年の755,705人をピークに人口減少の局面に突入する。2015年を100とすると2035年は105.4という水準だ。さらに将来人口の増減率をメッシュ分析(図表8)で見る。赤系は10%以上の人口増加、緑系は0~10%の人口増加、青系は人口減少を表しているが、「田園調布」駅周辺は、人口減が見込まれている。今後「田園調布」での不動産投資は、物件選びに慎重にならないといけないだろう。
一方、世田谷区(図表9)のピークも2035年。926,681人をピークに減少へと向かう。2015年を100とすると2035年は102.6となっていて、人口増加率は大田区より低い水準となっている。将来人口の増減率をメッシュ分析(図表10)で見ると、「成城学園前」は駅の北口エリアで人口減が目立つものの、南口エリアはわずかながら人口増加が見込まれる。「田園調布」との比較であれば、「成城学園前」のほうが不動産投資の面ではポテンシャルが高いと言えるだろう。
まとめ
「田園調布」も「成城学園前」も、日本有数の住宅地である。不動産投資を行う場合、いわゆる高級住宅街のイメージとは異なる、「駅の反対側」が対象と、エリアは限定される。また両エリアとも、周辺の人口は微増、または減少が予測されるため、物件選びに慎重にならないといけないエリアだと言えそうだ。
さらに今後、両エリアが高級住宅地であり続けられるか。そのことを占うのに、ひとつ気になることがある。高齢化の影響だ。今後の高齢化率をメッシュ分析(図表11)で見ると、2020年に「田園調布」の西口エリア、「成城学園前」の北口エリアで、高齢化率が30~40%と高い数値を示しているが、2040年には、エリア一体に広がっているのがわかる。
高齢化は日本全体の流れではあるが、「田園調布」「成城学園前」の両エリアは特に顕著である。紳士協定により美しい街並みを保存しようとする活動の結果、人口流入が停滞し高齢化が進む、という流れが加速すると推測される。
高齢な既住民だけが取り残され、高級住宅街のイメージまでもが崩壊する。そんなシナリオも考えられるのだ。