再開発で「ムサコ」は大きく変わる
真のムサコはどこだ——。このような議論が度々インターネット上で繰り広げられている。そもそもムサコとは、東京や神奈川にある「ムサコ」と略される地域のこと。東京都品川区の「武蔵小山」、東京都小金井市の「武蔵小金井」、神奈川県川崎市の「武蔵小杉」(「武蔵小杉」は、「ムサコ」ではなく「コスギ」だ、という住民の意見も多いが)を指す。今回、この3地域を不動産投資の観点で比較してみた。
「武蔵小山」は東急目黒線の駅で、東京都の南西部、品川区に位置するが、駅の西側はすぐに目黒区に接する。JR山手線に乗り換えができる「目黒」駅へは1駅4分。東急目黒線は、東京メトロ南北線、都営地下鉄三田線と相互運転をしており、南北線では「永田町」、三田線では「大手町」と、それぞれ都心の重要拠点へダイレクトに行ける。また東急目黒線は終着駅の「日吉」で東急東横線に接続。横浜方面へのアクセスも良い。
開業当初は「小山」駅だったが、JR東北線に同名の駅がすでに設置されていた(読み方は「おやま」)ため、このあたり一帯の旧国名である「武蔵」をつける形になった。
駅周辺は様々な店が集積する商業地域となっているが、なかでも有名なのが、東洋一とうたわれる「武蔵小山商店街パルム」。全長800mのアーケード街は平日でも多くの人で賑わい、飲食店や惣菜店など、多彩な店が軒を連ねている。
どこか下町情緒を漂わせる地域だが、駅前では大規模な再開発プロジェクトが進行中。「武蔵小山パルム駅前地区」では大手ディペロッパーのタワーマンションを中核とした複合施設が2020年に完成し、ほか「武蔵小山駅前通り地区」などでも同様の再開発が進んでいる。
一方「武蔵小金井」は東京都西部の小金井市に位置する、JR中央線の駅。「新宿」まで快速で最短23分、「吉祥寺」や「立川」といった人気の街にも10分と利便性は高い。こちらの駅も、JR東北線に同名の駅があったため、旧国名を冠にした。
JR中央線といえば、長らく「開かずの踏切」が代名詞でもあったが、2009年に「三鷹」~「立川」間で高架化が完了。それを機に、駅直結の「nonowa武蔵小金井」をはじめ、「イトーヨーカドー武蔵小金井店」、「MEGAドン・キホーテ武蔵小金井駅前店」がオープン。駅前は大きく変化し、生活利便性が向上。駅周辺は再開発が進行中で、大手ディペロッパーによるタワーマンションを有する複合施設が、2020年に完成予定だ。
「東京学芸大学」や「東京農工大学」、「東京経済大学」と、小金井市やその周辺には大学が多いのも特徴で、「武蔵小金井」駅周辺には若者をターゲットとした飲食店も多い。そのほか『千と千尋の神隠し』のモデルとなったといわれている「江戸東京たてもの園」を有する「都立小金井公園」の最寄り駅でもあり、花見シーズンは特に多くの人で賑わう。
最後に「武蔵小杉」は川崎市中原区に位置し、近年、「住みたい街」ランキングでも軒並み上位にランクする注目のエリアだ。JRは南武線、横須賀線、湘南新宿ライン、東急電鉄は東横線、目黒線と2社5路線が乗り入れ、「東京」など都心方面はもちろん、「新宿」や「横浜」方面にも乗継なしに行けるなど、交通の利便性は非常に高い。
「武蔵小杉」も設置時にはすでに富山県に同名の駅があったころから、旧国名が冠につくことになった。元々この一帯は工業地帯で多くの工場や事業所が広がっていたが、80年代に次々と移転。空き地が広大だったこともあり大規模な開発が計画され、現在10を超えるタワーマンションが建ち並ぶ。
再開発に伴い、商業施設も続々オープンしている。元々、大型スーパーが1店舗あるほかは個人商店が並ぶだけのエリアだったが、駅ビル「武蔵小杉東急スクエア」や「ららテラス」、2014年11月には、セブン&アイ・ホールディングスによる「グランツリー武蔵小杉」が誕生。他方からも多くの買い物客が訪れる街へと変貌した。
単身者人気の「武蔵小山」と家族人気の「武蔵小杉」
3つの地域を分析していこう。まずは人口増加率(図表1)。どのエリアも人口が増加しており、特に武蔵小山を有する品川区と武蔵小杉を有する川崎市中原区は増加率5%と高水準。ここ数年の「武蔵小杉」の急激な人口増加はこの国勢調査による統計には表れていないが、それを加味すると同地域はさらに上をいっていると考えられる。
世帯数を見ると(図表2)、品川区の単身者世帯率は54.91%と、他の2地域と比べて高い水準を示している。東京駅を起点にした距離で見ると、「武蔵小山」は8㎞、「武蔵小杉」は15km、「武蔵小金井」は23㎞となっており(いずれも直線距離)、都心に近い品川区は単身者需要が高く、郊外の武蔵小金井有する小金井市や川崎市中原区は家族層から支持されている結果だと考えられる。
住宅事情を見ていく(図表3)。住宅総数に対して空き家の数は小金井市が最も高く、空室率は9.43%。一方都心から遠い川崎市中原区のほうが、品川区よりも空室率は低くなっている。これは近年、武蔵小杉周辺で新築物件が続々とできていることで、空室率を押し下げている結果だと考えられる。
駅周辺に的を絞って分析していく。まずは世帯数を見ていく(図表4)どの駅周辺も一世帯当たりの人数は2人以下となっており、駅近は単身者向けの物件が多いと考えられる。また賃貸世帯の割合を見ると、「武蔵小杉」がほか2地域より約2%高くなっている。これは駅周辺の大規模開発の結果、多くの賃貸物件が供給されたためと推測される。
次に直近で取引のあった中古マンションを抽出し、不動産マーケットの状況(図表5)を見ると、武蔵小山は平米数の狭い単身者向けの物件が、武蔵小金井や武蔵小杉は平米数の広い家族向けの物件の取引きが多いことが推測される。また1平米当たりの平均取引価格が武蔵小山と武蔵小杉で拮抗しているのは、武蔵小杉のほうが築浅物件が多く取引されている結果だと考えられる。
2040年に「武蔵小杉」は人口減少へ
3つの「ムサコ」が今後、どのようなポテンシャルを持っているのか、将来人口の推移から見ていこう。まず品川区(図表6)は、今後も徐々に人口は増え続け、2040年には440,336人になると予測されている。2015年を100とすると、2040年は113.8となり、不動産市場にも好影響が期待できる。
次に小金井市(図表7)だが、2030年の125,177人をピークに減少へと転じ、2040年には124,038人になると予測されている。2015年を100とした際には、2040年には102となり、居住者ニーズをいかに捉えるかが不動産投資のカギとなるエリアといえる。
最後に川崎市中原区(図表8)だが、今後も人口は増加し、2040年には277,240人に達すると予測。2015年を100とした際、2040年は112となり、不動産市場においても好影響が期待される。しかしここが人口のピークでその後は減少局面に入るといわれているので、注意が必要だ。
まとめ
今回3つの「ムサコ」を不動産投資の観点で見てきたが、都心から近い武蔵小山が不動産マーケットにおいて頭ひとつ抜けているといえるだろう。また急激に人口が増加している武蔵小杉も注目である。しかし2040年以降は人口減少の局面に入ることのほか、もうひとつ注意すべきことがある。それは武蔵小杉エリアの急激な人口増加の反動である。
現在、武蔵小杉ではファミリー層が増えているが、この先、「ムサコ」のなかでは最も高齢化が進む地域だと予測されている。2015年の75歳以上の人口を100とした際、2045年に武蔵小山は141、武蔵小金井は164であるのに対し、武蔵小杉は183に達する。
急激な高齢化への対応が、武蔵小杉での不動産投資の成否を握っているといえるだろう。