開業医が目指す在宅医療…成功の鍵は「他職種との緊密な連携」

在宅医療を目指す開業医なら、介護・福祉といった業務に携わる人々とのネットワークが重要です。お互いが信頼関係で結ばれれば、患者さんにもよりよい医療を提供できるからです。本記事では、開業医が地域医療で活躍の場を拓くために必要なネットワークどのように築き、維持するか、その具体的な方法を見ていきます。

意見交流会等を開き、連携の維持に努めよう

医師以外の医療・介護・福祉事業者との連携は、作るより維持するほうが何倍も大変です。常に維持し続ける工夫をしなければ、人の関係は経年とともに確実に風化します。特に医師以外の職種とは元々接する機会が限られているので、意識的に顔を合わせて話をする機会を設けることが大切です。いろいろなやり方が考えられますが、例えば意見交流会を開くのも有効な手段の一つです。

 

例えば、私のクリニックがある泉北地域では、地域の医療・介護・保健・福祉の連携を密にすることと顔の見える関係づくり、地域ネットワーク構築を目的として、「泉北ニュータウン地域における 医療・介護・保健・福祉の連携のための意見交流会」を年に4回程度開催しています。参加メンバーは医師、歯科医師、薬剤師、訪問看護師、区の福祉課職員、地域包括支援センターの職員、地域にある認知症専門の医療センターの関係者、介護施設職員、地域の主任ケアマネージャー、介護支援専門員協会の役員などです。

 

意見交流会ではさまざまな意見が出やすいよう、医師やケアマネージャーが実際に遭遇した困難事例を挙げ、対応策として地域にどういった取り組みや組織、制度等が必要なのかを参加者全員で検討します。

 

地域の医師がお互いに講師になる講演会が「診診連携」に役立つのと同じく、医師やケアマネージャー、訪問看護師、地域包括支援センターの職員等、医療や介護、福祉に関わる専門家がそれぞれ講師を務める勉強会を開き、意見交流を行うのです。

 

また、訪問看護師やケアマネージャーなどの集まりで、医学的な知識を高めるために講演を企画するケースがあります。他職種との交流を図る上で、講演会等のお手伝いは非常に大切なチャンスです。普段から交流のある医師に依頼することが多いのですが、いざ講演をやるとなると、パソコンで資料を作るなど準備に手間がかかります。講演当日を含め、貴重なオフの時間を費やすことになるため、気軽に引き受ける医師は限られます。

 

私も実際に、これまで講演を行ってきました。講師を引き受ければ、主催した訪問看護ステーションやケアマネージャーたちから感謝され、より良い関係にもつながっていきます。もちろん手間はかかりますが、得られる感謝や信頼はそれを大きく上回ります。

 

もう一つ、私は「三つ葉の会」と名付けた団体を主催して活動を行っています。「三つ葉」という名前は、地域包括ケアシステムを象徴するシンボルマークに由来します(図表)。

 

[図表]地域包括ケアシステムのシンボルマーク 出典:平成25年3月地域包括ケア研究会報告  「地域包括ケアシステムの構築における今後の検討のための論点」
[図表]地域包括ケアシステムのシンボルマーク
出典:平成25年3月地域包括ケア研究会報告「地域包括ケアシステムの構築における今後の検討のための論点」

 

その名の通り、地域包括ケアシステムの充実を目的とする団体として、医療、介護、福祉、住まいに携わる多職種の方々と連携を組みながら、地域の高齢者や若者の問題などについて積極的に勉強・議論し、行政の方々とともに理想の街づくりを実現していこう、という目的で設立されました。

 

地域包括ケアシステムを円滑に機能させるためには、密な人間関係が欠かせません。それゆえ「三つ葉の会」は地域のサロンとして、顔の見える関係づくりにつながるよう、さまざまな活動を行っています。

 

例えば勉強会、意見交流会、行政との意見交流、地域住民に対するシンポジウムや機関誌等による情報提供など、活動は多岐にわたります。

 

一般的な他職種連携の団体では、各業界の役職者が集まりますが、活動に関心がある医療関係者の方であれば誰でも参加できるのが「三つ葉の会」の特徴です。堺市内に施設があったり、事業所を設けている関係者(医師、看護師、薬剤師、ケアマネージャー、大学病院関係者、介護施設経営者、各種介護事業担当者、医療機器メーカー、医療関連企業等)の方々の参加を募っています。

 

肩書きにとらわれず対等な関係で交流できるので、地域包括ケアシステムにおける現場の連携につながりやすいのではないかと考えています。

患者と医師の行き違いも、信頼関係があれば解決できる

経験したことのある医師が少ないため、医師の中にも在宅医療について誤解している人がしばしば見受けられます。患者の家に行って診療を行うだけ──そんなふうに認識している医師が少なくありませんが、現実は大きく違います。

 

患者や家族の認識にはさらにバラつきがあり、なかには過度な期待を抱いている人も見られます。「病院と同じく高度な治療を受けられる」「状態が良くなれば、病院で完治を目指す治療を受けられる」「24時間医師が対応してくれる」など、在宅医療の機能や目的とはかけ離れた認識をしている人が少なくないのです。

 

誤った認識のまま在宅医療を始めてしまうと、後に大きなトラブルが発生します。そのため懇切丁寧な説明が不可欠ですが、医師がしっかり説明したつもりでも、理解してもらえないケースもあります。

 

ただし、多少言葉の行き違いがあっても、信頼関係ができていれば大きな問題にはなりません。信頼している医師の言うことであれば、患者は「この先生がごまかすわけはないから、自分がちゃんと聞いてなかったんだな」と冷静に判断してくれます。

 

一方、信頼関係がまったくできていない場合には、状況が同じでも反応はまったく違います。説明を受けているにもかかわらず、「そんな話を聞いた覚えはない。適当なことを言って騙したな」と怒り始めることが少なくないのです。

 

ここで問題になるのが、いざ在宅医療が必要な状態になってから信頼関係を築くのは難しいという事実です。あまり馴染みがない在宅医療について、患者が正しく理解してくれる前に関係がこじれる危険性があるのに加え、通院ができない患者の中には、理解力や記憶力に問題を抱える人が少なくないためです。

 

そのため私はできる限り、通院診療の段階から関わった患者を在宅医療の対象にしています。長年にわたって通院する間に信頼関係を築いてきた患者なら、いざ在宅医療が必要になったときも、円滑に移行できます。お互いに理解し合っているため、トラブルなく情報を共有できるのです。

勤務医時代に「訪問診療」を行う医院でアルバイトを

自転車の乗り方についてどれほど詳しい説明を受けても、初めて自転車にまたがった人は間違いなく転倒します。どうやってバランスをとればいいのか、ペダルにどう力を入れればいいのかなどは、トライ&エラーを繰り返す中で身に付けるしかありません。

 

在宅医療についても同じことが言えます。外来と異なるのは診療する場所だけではないのです。患者の状態やそれに伴う患者、家族の精神状態、医師との関係、地域の医療・介護関係者の介入など、むしろあらゆる事柄が外来診療とは違うと考えるべきでしょう。

 

したがって、在宅医療についてどれだけ座学を重ねても、手がけた当初はさまざまなトラブルにぶつかります。なかには患者との密な関係に慣れていない医師にとって、まったく予期できない問題もあり、勤務医だった人がいきなり対応するのは難しいと思われます。

 

そこで私がお勧めしたいのは、勤務医時代に「練習」を重ねておくことです。非常勤の医師を雇用している病院や診療所には、「訪問診療」を手がけているところがあります。勤務医として働く際、そういった病院や診療所でアルバイトをすれば、在宅医療を体験できます。

 

実際に私も研修医時代に体験して驚きましたが、医師のホームグラウンドである診察室と患者のホームグラウンドである自宅とでは、先にも述べたようにコミュニケーションの取り方がまったく違います。患者の住まいを訪れて患者や家族と接し、彼らに対応することは、そういった違いを体感できる得難い学びの機会です。

 

近年は医師会の取り組みとして、在宅医療を行う医師に付き添って、現場を見学できる研修なども実施されているので、少しでもイメージをつかみたい医師はぜひ利用してもらいたいと思います。

ミニカンファレンスで積極的に情報交換をする

他職種とうまく連携するためには、綿密な情報交換が必須です。訪問看護師やケアマネージャー、ヘルパー、理学療法士など、患者の支援に関わる人たちはそれぞれが専門家ならではの視点で、日々変わる患者の様子を観察しています。また、患者や家族と接する中で得られる情報もあるので、それらを共有できれば、よりニーズに合う支援を提供できます。

 

医師には言いにくいことでも看護師やヘルパーの前なら口にする患者は少なくありません。「痛み止めが本当はもうあまり効いていないようだ」といった情報をヘルパー経由で聞ければ、医師は薬の処方を変えられます。「家族が精神的にかなり追い込まれている」と気づいた看護師が医師に教えてくれれば、一時的な入院を打診できます。

 

ただし、私を含め多くの医師は多忙なので、高頻度でカンファレンスを開くのは困難です。そこでお勧めしたいのが、訪問診療時にミニカンファレンスを開くことです。

 

例えば、患者宅を訪問する際、訪問看護師と日時を合わせ一緒に訪れるようにすれば、診療時間内にカンファレンスを行えます。同じ車で患者宅に向かい、車中で話をするのも良いでしょう。高頻度で情報交換していれば、一度に話すべき事柄はそれほど多くないので、短時間のミニカンファレンスで充分こと足ります。

 

さらに可能であれば、ヘルパーや栄養士、理学療法士など、関連する職種ができるだけたくさん集まって患者の前で情報を交換し、患者の希望を聞きながら、支援の方針を調整することが望ましいでしょう。

 

医師やその他の専門職種にとっては、能率良く仕事ができるという利点があるのに加え、患者からの信頼感が高まるというメリットもあります。「私のためにこれだけの専門家がわざわざ集まって話し合ってくれている」と感じた患者は、支援してくれる人たちの助言や指導を積極的に受け入れてくれるようになります。

要望の明確な伝達が、他職種とうまく付き合うコツ

質の高い在宅医療を提供するためには緊密な連携が欠かせませんが、接する機会が増えるほど、そのぶん、時間を取られてしまうのは悩ましいところです。時間を有効に使う方法として、前項ではミニカンファレンスを推奨しました。もう一つ、連携する他職種に対して、要望を明確に伝えておくことも大切です。

 

例えば私は、訪問看護師やケアマネージャーに対して、次のような要望を伝えています。

 

① アポなしの面会やいきなりの電話は、緊急時以外は避けてほしい。

② 面会の際は事前にFAXやメール等で用件を知らせた上で、簡潔に伝えてほしい。

③ 担当のケアマネージャーになったら、ケアプランの概略、週間予定表、利用業者の一覧(連絡先)等を教えてほしい。

④ ケアプランを作成するときは、訪問診療の日時とバッティングしないよう、主治医の都合や希望をなるべく早めに聞いてほしい。

⑤ 関係する業者の選定にあたって主治医の希望をなるべく反映してほしい。

⑥ 在宅医療への移行には、業者の手配や物品、薬剤の準備等にある程度の時間がかかることを認識しておいてほしい。

 

ただし、在宅医療はチームであたるものであり、医師もその一員にすぎないので、希望を一方的に伝えるのではなく、関連する各職種からの要望を聞く姿勢も大切です。私自身はケアマネージャーや訪問看護師について、言葉は少し悪いのですが医師が「しつこいなぁ」と辟易するくらいでちょうどいいのではないかと考えています。熱の込もった要望や希望をぶつけられることは医師の成長につながります。

 

 

嶋田 一郎

嶋田クリニック院長

 

嶋田クリニック 院長

大阪市立大学医学部卒業後、大阪市立大学医学部附属病院第2内科に入局。その後、長野県佐久市立国保浅間総合病院内科にて内科医として地域医療に従事。さらに(旧)国立泉北病院・神経内科にて約10年間勤務を経て、1996年に嶋田クリニックを開院。
勤務医時代から通院できなくなった患者を訪問診療し、開院後はさらに医療と地域との連携を考えた医療を実践し続けている。
大阪市立大学医学部非常勤講師、大阪府保険医協会副議長・地域医療対策部部長、泉北医師協議会会長、「三つ葉の会」(堺市南区周辺の多職種連携推進の会)会長、大阪府介護支援専門員(ケアマネージャー)協会堺支部南区地区顧問、堺市認知症サポート医。高齢者の在宅医療、またパーキンソン病をはじめとする神経難病と認知症に対する専門診療・保健活動も行い、通院が困難な患者の訪問診療に注力している。
日本内科学会・総合内科専門医。日本神経学会・神経内科専門医。

著者紹介

連載40歳からの勝ち組ドクター戦略…高齢化社会を支える「町医者」という選択肢

医師は40歳までに「病院」を辞めなさい 超高齢社会に必要な町医者のススメ

医師は40歳までに「病院」を辞めなさい 超高齢社会に必要な町医者のススメ

嶋田 一郎

幻冬舎メディアコンサルティング

本書では、これからの医師に必要な緩和ケアや終末期医療の知識や技術、QOL向上を目的とした医療処置がどのようなものか、事例を取り上げて解説しています。また、これから開業を目指す医師に向けて、外来診療と訪問診療をミッ…

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