クリニックの開業資金準備…意外に有益な「転職」という選択肢

クリニックの開業にあたり、潤沢な自己資金は不可欠です。そのためには、同じ医局に勤め続けるのではなく、医師のための就職斡旋会社を活用し、経済的なメリットが大きく経験も積める勤務先を探すのもひとつの方法です。ここでは、スムーズな開業を目指す医師がやっておくべき事前準備を解説します。

好条件の融資は「潤沢な自己資金」とワンセット

金融機関が事業計画を評価する際には、自己資金の額もチェックされます。自己資金が多いほど、借り入れを少なく抑えられるため、健全な事業計画を立てることができます。また、ある程度の額をしっかり用意できている医師は、堅実にお金を管理できる人だと評価されるため、好条件で融資を受けられるのです。

 

自己資金は開業後の生活をまかなうためにも必要です。診療所を開業したからといって、すぐにたくさんの患者が来てくれるわけではありません。診療所の存在が近隣に周知されるには時間がかかりますし、地域の人たちの信頼を得て口コミが広がり、たくさんの患者が来てくれるようになるまでにはある程度長い期間が必要だと考えておいたほうが良いでしょう。

 

勤務医の多くはまとまった給与所得が安定的に入るので、生活を切り詰めることには慣れていません。住宅ローンや子供の学費など、節約しにくい出費もあるなか、支出を抑えて暮らすのは家族にとっても負担です。いつまで節約すればいいのか、期間が分かっていればまだ良いのですが、患者数が一定を越えて診療所の経営が軌道に乗るのがいつなのかは誰にも分かりません。事業計画書には目安となる数字が書かれているものの、あてにはならないと認識しておくべきです。

 

安心して開業するためには、一定以上の自己資金が欠かせないのです。

 

自己資金を貯めるためには、報酬面で条件の良い病院を選ぶという方法があります。多くの勤務医は医局からの紹介や指示で勤務先を選びますが、その際、報酬を重視するケースはあまり多くありません。どの病院を選んでも、一般的なサラリーマンに比べればかなり高額の報酬をもらえるので、たいていの勤務医はお金に無頓着です。

 

最近では、勤務先を紹介してくれる会社が多々あるので「そろそろ開業資金を準備したい」と考える年代になったら、医局ではなく、そういった会社を利用するのも賢明なやり方ではないでしょうか。医局の紹介で勤務した場合には、意に沿わない病院でもなかなか辞められませんが、斡旋会社経由の就職なら、紹介者の意向や立場を心配する必要はありません。より経済的なメリットが大きく、しかも多様な経験が積めるよう、非常勤を含めた働き方を自由に組み合わせられます。

クリニックの立地における「3つ重要ポイント」とは?

診療所を開業する上で重要なのが立地の選択です。不特定多数の顧客を呼び込む必要があるビジネスでは、立地が成否を分ける大きな要素となります。同じ医師が同じ医療を提供しても、どこで開業するかによって結果はまったく違います。ですから、開業を計画するなら早い段階で、どこにクリニックを開業するのかを考えておく必要があります。クリニックの立地を考える上で重要な要素は主に3つあります。

 

①市場規模

 

クリニックの規模で異なりますが、経営が成り立つためには損益分岐点を超えるだけの患者数が必要です。一昔前は「家族の数だけ患者が来れば大丈夫」などといわれていた時代もありました。現在では医療資材などランニングコストが膨らんでいるため、「4人家族だから1日に4人以上の患者が来ればいい」というわけにはいきません。

 

開業したら何人の患者を呼び込めるかは、クリニックの人気と診療圏における患者数──すなわち市場の規模によって異なります。診療圏はクリニックに来てくれる患者の居住範囲です。競合がひしめく都市部と、競合が少ない地方では捉え方が違うので、地域の事情に照らして設定する必要があります。

 

一般的には「クリニックを中心とする半径○キロ以内」などといった考え方をしますが、実際には人の動きは直線距離だけで区切れません。傾斜のきつい坂道があったり、川や線路で分断されていたりするエリアからはなかなか来てくれないので、候補とする場所があるなら、患者が使うと想定できる交通手段(自動車や自転車、徒歩など)で、近隣を見学して回るのがお勧めです。

 

おおよその診療圏が設定できたら、エリア内の人口は市役所等で調べられます。もちろん、エリアの住人がすべて病気になるわけではないので、診療所にやってくるだろうと思われる人の数は人口に「受療率」をかけて割り出します。

 

「受療率」とはある特定の日にクリニックや病院を受診した人の割合を人口10万人当たりの数で示す数値で、厚生労働省により発表されています。「性・年齢層別」や「傷病分類別」「都道府県別」などがあるので、それらを利用することで、おおまかな患者数をつかむことができます。

 

 例えば、神経内科の医師が開業しようと考えている診療圏の人口が3000人だったとします。専門とする神経系疾患の受療率は136人/10万人(2014年10月の統計)なので、そのエリアでは一日当たり4人程度の受診があることが分かります。私も含めて、神経内科医は専門以外の内科全般を診る医師が多いので、実際にはもっとたくさんの患者を見込むことが可能です。消化器系の受療率は1031人/10万人なので、胃痛や下痢なども扱えば、一気に30人程度の需要が発生します。

 

その他にも、循環器系や呼吸器系の疾患も診療するなら、市場はさらに膨らむと考えて良いでしょう。

 

②競合

 

市場規模が大きくても、競合するクリニックが多い地域では、一つの診療所当たりの患者数が限られます。仮に人口と受療率から一日当たり100人の患者が発生すると見込める地域であっても、同じ診療科を掲げるクリニックが10件あれば、来院する患者は平均10人程度です。

 

実際には、患者の好みは偏るので、人当たりが良く真摯に対応する医師のクリニックは流行り、そうでない医師のクリニックでは閑古鳥が鳴きますが、平均値は一つの基準になります。

 

さらに言えば、新規開業したクリニックが地域の患者を獲得するのは容易ではありません。たいていの人は内科など頻繁に受診する診療科については、かかりつけ医をすでに持っています。ですから、新参の医師が割って入るためには、地域ですでによく知られている医師よりも優れているという評判を確立する必要があるのです。

 

評判や信頼は一朝一夕には得られません。時間をかけて醸成するものであり、競合が多いほど、彼らに伍ご して地域で認められるのには長い時間を要します。その間は来院する患者数が伸びにくいので、経営的には苦しい期間が長引くことになります。

 

③ 構想との適合

 

クリニックを開業する医師は、理想とする医療の構想を想い描いているものです。理想の医療はそれぞれの医師の診療科や考え方により異なります。

 

例えば、私のように地域密着で家族のかかりつけ医として活動したい医師にとっては、ファミリー層が多く住む住宅街での開業が向いています。一方、バリバリ働いているビジネスマンを支えたいというのが理想なら、オフィス街の一角や、大きな駅の近くに診療所を構えるのが適しているでしょう。

 

 

嶋田 一郎

嶋田クリニック院長

 

嶋田クリニック 院長

大阪市立大学医学部卒業後、大阪市立大学医学部附属病院第2内科に入局。その後、長野県佐久市立国保浅間総合病院内科にて内科医として地域医療に従事。さらに(旧)国立泉北病院・神経内科にて約10年間勤務を経て、1996年に嶋田クリニックを開院。
勤務医時代から通院できなくなった患者を訪問診療し、開院後はさらに医療と地域との連携を考えた医療を実践し続けている。
大阪市立大学医学部非常勤講師、大阪府保険医協会副議長・地域医療対策部部長、泉北医師協議会会長、「三つ葉の会」(堺市南区周辺の多職種連携推進の会)会長、大阪府介護支援専門員(ケアマネージャー)協会堺支部南区地区顧問、堺市認知症サポート医。高齢者の在宅医療、またパーキンソン病をはじめとする神経難病と認知症に対する専門診療・保健活動も行い、通院が困難な患者の訪問診療に注力している。
日本内科学会・総合内科専門医。日本神経学会・神経内科専門医。

著者紹介

連載40歳からの勝ち組ドクター戦略…高齢化社会を支える「町医者」という選択肢

医師は40歳までに「病院」を辞めなさい 超高齢社会に必要な町医者のススメ

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嶋田 一郎

幻冬舎メディアコンサルティング

本書では、これからの医師に必要な緩和ケアや終末期医療の知識や技術、QOL向上を目的とした医療処置がどのようなものか、事例を取り上げて解説しています。また、これから開業を目指す医師に向けて、外来診療と訪問診療をミッ…

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