本連載は、毎回東京23区内の1つの駅とその周辺を取り上げ、不動産投資の観点で地域のポテンシャルを分析していきます。今回は、世田谷区・「奥沢」駅。

落ち着いた雰囲気に包まれた「世田谷の奥座敷」

奥沢は東京23区の南西部、世田谷区に位置しています。おしゃれな街と知られる自由が丘と、高級住宅地として有名な田園調布の間にあり、「世田谷の奥座敷」とも呼ばれる落ち着いた住宅街です。ちょうど自由が丘のおしゃれさと、田園調布の上品さが重なりあったような雰囲気が、街全体から感じられます。

 

駅南口に降り立つと「せたがや百景」にも選ばれた噴水があり、駅前は落ち着いた印象です。住宅地なので駅前に大きな商業施設はありませんが、駅ビルのスーパーのほか、駅近くに24時間営業のスーパーTOPがあり、生活の利便性は高いエリアです。駅前から伸びる「奥沢銀座」という昔ながらの商店街には青果店や飲食店などが並び、人情味あふれる雰囲気もまた、このエリアの魅力のひとつです。

 

写真左から、奥沢神社は緑が多く、パワースポットとしても有名/住む人の健康を守る病院がエリア内にあるのも、嬉しいポイント/駅ビルには人情味溢れるスーパーもある
写真左から、奥沢神社は緑が多く、パワースポットとしても有名/住む人の健康を守る病院がエリア内にあるのも、嬉しいポイント/駅ビルには人情味溢れるスーパーもある

 

「自由が丘」駅も徒歩圏内。東急電鉄の3路線が使える交通の利便性が魅力

 

[図表1]東急電鉄目黒線のほか、東急電鉄東横線も利用可能
[図表1]東急電鉄目黒線のほか、東急電鉄東横線も利用可能

 

「奥沢」駅を通るのは東急目黒駅の1路線のみですが、徒歩圏内に東急東横線「自由が丘」駅、東急大井町線「緑が丘」駅があるため、交通網は充実しています。

 

「奥沢」駅から「目黒」駅までは約15分程度でアクセスができます。直通運転で都営三田線、東京メトロ南北線へと繋がっているため、都心まで電車一本で行くことができます。下りは東急東横線への接続駅「武蔵小杉」「日吉」駅があるため、横浜方面へのアクセスも良好です。

 

また、徒歩10分で「自由が丘」駅まで行けるため、「渋谷」までは15分。「渋谷」からは複数路線が利用可能なため、都心のあらゆるエリアへのアクセスが可能になります。

賃貸相場の幅が広い「奥沢」…リノベ効果は期待大

■「奥沢」駅周辺の賃貸市場

奥沢駅の賃貸市場を分析していきます(図表2)。まずは賃料相場と築年数の比較です。23区平均と比較すると、賃料相場は23区の3,339円/m2に対し、奥沢は3,398円/m2。落ち着いた住環境が人気のエリアですが、都心からはやや離れており、平均的な賃料です。

 

「築年別平米賃料の分布図」(図表3)を見ると、約50年前から安定的にマンションの供給がされていたことがわかります。

 

次に重回帰分析で「築年数」「徒歩分数」「面積」の3つの変数が賃料にどの程度影響を与えているかを分析します。「■徒歩・築年・面積による賃料の重回帰分析結果一覧」(図表2)を見てみると、奥沢駅の単身者物件の月額賃料は「d.切片」の54,996と円からスタートし、徒歩1分ごとに「a.徒歩」の1,178円ずつ値下がり、築年数1年ごとに「b.築年」の964円ずつ値下がり、面積1m2ごとに「c.面積」の2,249円ずつ値上がることがわかります。

 

「賃料に対する影響割合の比較」(図表2)から奥沢駅の賃貸市場の傾向を分析すると、奥沢は徒歩分数による影響「a.徒歩/d.切片」、築年による賃料下落「b.築年/d.切片」、標準偏差の割合「e.標準偏差/d.切片」のすべて23区平均よりもやや高いことがわかります。開発が盛んなエリアや高級住宅地に見られる傾向で、賃貸市場の相場の幅が広く、リノベーションの効果が期待できる市場といえます。

 

[図表2]奥沢の賃貸市場分析
[図表2]奥沢の賃貸市場分析

 

[図表3]奥沢の築年数別平米賃料の分布図  ※[図表2、3共通]リズムマンションDBより作成(データは2015年12月末日現在のデータです)※賃料単価は平均値であり、平米数を乗算した価格が必ずしも相場と一致するものではありません※重回帰分析は築10~30年、16㎡以上30㎡未満の物件から算出しています
[図表3]奥沢の築年数別平米賃料の分布図

※[図表2、3共通]リズムマンションDBより作成(データは2015年12月末日現在のデータです)※賃料単価は平均値であり、平米数を乗算した価格が必ずしも相場と一致するものではありません※重回帰分析は築10~30年、16㎡以上30㎡未満の物件から算出しています

 

■奥沢の居住者特性

奥沢の居住者特性を見ていきます。まずは単身者世帯の比較(図表4)です。東京都ならびに世田谷区の人口のうち単身者世帯の割合をみると、東京都全体で約47%、世田谷区で約50%です。奥沢の単身者割合を見てみると50%と世田谷区全体と同じ割合です。2010年からの推移を見ても、数・割合ともに大きな増加は見られません。

 

対象エリア内の居住者の年齢構成(図表5)をみると男女ともに30~50歳までの割合が高く、この年代だけで30%を占めています。世田谷区はファミリー層に人気があることから、住環境のよさが伺えます。

 

[図表4]地域別1人世帯と2人以上世帯の割合
[図表4]地域別1人世帯と2人以上世帯の割合

 

[図表5]地域別男女・年齢構成比

[図表5]地域別男女・年齢構成比

今後、街に大きな変化はなく、人口の伸びに停滞感!?

■借家数(供給)、人口(需要)ともに伸びる世田谷区

「奥沢」駅の所在する世田谷区は東京23区の南西部に位置し、都区のなかでは都心からは遠い場所にあります。「成城」に代表される閑静な住宅街や、「シモキタ(下北沢)」「サンチャ(三軒茶屋)」「ニコタマ(二子玉川)」など世代を超えて人々を魅力するエリアが多いのが特徴です。

 

住宅・土地統計調査「借家数の変化」(図表6)によると、2008年から5年の間に23区全体で約190千戸の賃貸物件が増え、同調査による「空き家の変化」(図表7)をを見ると、空き家数も5年の間で全体的に増えています。世田谷区を見てみると、供給にあたる借家数は5年の間に約7.9%減っているのに対し、空き家数は約38.3%増えています。賃貸住宅の供給が高まるなかで、いかに居住者のニーズを捕まえるかが求められるエリアといえます。

 

エリア別に貸家の住宅着工数(図表8)を見ると、東京都と23区の各年の増減は相関していることがグラフから読み取ることができます。世田谷区の供給傾向も東京都や23区の増減と似たような動きを見せおり、2000年頃から着工数の増加が見られ、2006年以降は低い水準で抑えられていることがわかります。2009年以降はまた増加傾向がうかがえ、2016年も東京都と同じく増加傾向と予測できます。

 

人口の推移(図表9)を見てみると、世田谷区の人口は年々増加していることがわかります。東京都によると世田谷区の人口は2025年以降に徐々に減少を始めますが、2040年の段階でも2005年人口比で約106%と高い水準を保っています。一方、世田谷区の単身者数も2035年まで増加傾向と予測されています。

 

一方で奥沢近辺の人口は2010年からの推移を見ても、数・割合ともに大きな増加は見られません。今後、目立った開発も予定されておらず、人口は停滞する可能性があります。

 

[図表6]地域別借家数の推移
[図表6]地域別借家数の推移

 

[図表7]地域別空き家になっている賃貸住宅数の推移
[図表7]地域別空き家になっている賃貸住宅数の推移

 

[図表8]地域別住宅着工数の推移
[図表8]地域別住宅着工数の推移

 

[図表9]世田谷区の人口推移
[図表9]世田谷区の人口推移

 

 ◆まとめ 

奥沢は東京23区の南西部、世田谷区に位置しています。おしゃれな街と知られている自由が丘と、高級住宅地として有名な田園調布の間にあり、落ち着いた住宅街として人気のエリアです。商業施設は駅前にコンパクトに集積し、生活のしやすさがあります。

 

賃貸市場に目を向けると、徒歩分数による影響「a.徒歩/d.切片」、築年による賃料下落「b.築年/d.切片」、標準偏差の割合「e.標準偏差/d.切片」のすべて23区平均よりもやや高く、リノベーションによる賃料向上の効果が期待できる市場です。

 

世田谷区の人口は増加予測の一方、奥沢の人口は2010年からの推移を見ても、数・割合ともに大きな増加は見られません。大きな開発も予定されておらず、今後の動向に注意が必要なエリアでもあります。

 

 

本連載は、リズム株式会社が発信する「エリアレポート」の記事を抜粋・編集したものです。

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