本連載は、毎回東京23区内の1つの駅とその周辺を取り上げ、不動産投資の観点で地域のポテンシャルを分析していきます。今回は、台東区・「蔵前」駅。

職人とクリエイターが集う、新旧が共存する街

「蔵前」駅は東京の東側、台東区に位置しています。蔵前の地名は、江戸時代、諸国から集めた年貢米を貯蔵するための「倉庫(浅草御蔵)」が隅田川沿いに作られたのが発祥と言われています。

 

蔵前は基本的にはビジネス街です。駅周辺にはオフィスビルやマンションが立ち並んでいます。住環境も整っており、街並みはとても穏やか。食料品を扱うおかず横丁商店街やコンビニ、飲食店、スーパーなど生活するのに必要なお店もそろっているため不便は感じないでしょう。近年では古い建物や倉庫をリノベーションしたお洒落なカフェなどの飲食店もどんどん増えてきています。

 

蔵前は台東区らしい下町情緒あふれる街並みが広がっており、蔵前の街を歩くとおもちゃや花火などの問屋が多く見られます。台東区では区をあげて「モノづくりの街」をアピールしており、『カチクラ』と呼ばれる御徒町~蔵前にかけての地域は地元のモノづくり企業と新しいクリエイターが共存する独特の文化を形成しています。ものづくりワークショップも開催されているため、モノづくりが好きな人にはぴったりの街といえます。

 

 写真左より、外観に木を多くあしらった温かみのあるデザインの蔵前小学校/隅田川沿いに整備された遊歩道「墨田川テラス」/オリジナルのインクが作れる「ink stand(インクスタンド)」
「蔵前」駅周辺の風景
写真左より、外観に木を多くあしらった温かみのあるデザインの蔵前小学校/隅田川沿いに整備された遊歩道「墨田川テラス」/オリジナルのインクが作れる「ink stand(インクスタンド)」
 

多種類の交通網に恵まれた利便性豊かな街​

[図表1]都営地下鉄が2路線利用可

 

「蔵前」駅は都営浅草線と都営大江戸線の2路線が利用可能です。

 

地下の山手線と言われている都営大江戸線は「六本木」や「汐留」といったオフィスエリアへアクセス可能です。また、都営浅草線も「大門(浜松町)」「三田(田町)」「高輪(白金)」「五反田」など山手線内側のオフィスエリアをカバーしています。ほかにも台東区内では一律100円で利用できる「めぐりん」という循環バスが3ルート走っており、区民の足として親しまれています。10~15分ほど歩けば東京メトロ銀座線「田原町」駅や中央・総武線「浅草橋」駅、つくばエクスプレス「新御徒町」駅の利用も視野に入ります。

高いリノベーション効果が期待できるエリア

■「蔵前」駅周辺の賃貸市場

蔵前駅の賃貸市場を分析していきます。まずは賃料相場と築年数の比較(図表2)です。賃料相場は23区の3,339円/㎡よりやや高めな3,420円/㎡。築年数の比較を見ると平均築年数、最頻値ともに23区平均より低い値が出ており、新築・築浅物件が賃料相場を押し上げていることがわかります。

 

次に重回帰分析で「築年数」「徒歩分数」「面積」の3つの変数が賃料にどの程度影響を与えているかを分析します。「■徒歩・築年・面積による賃料の重回帰分析結果一覧」(図表4)を見てみると、「蔵前」駅の単身者物件の月額賃料は「d.切片」の52,039と円からスタートし、徒歩1分ごとに「a.徒歩」の514円ずつ値下がり、築年数1年ごとに「b.築年」の646円ずつ値下がり、面積1㎡ごとに「c.面積」の1,968円ずつ値上がることがわかります。

 

「賃料に対する影響割合の比較」(図表4)から「蔵前」駅の賃貸市場の傾向を分析すると、築年による影響割合「b.築年/d.切片」は23区平均より低く、標準偏差の割合「e.標準偏差/d.切片」は23区平均よりやや高い値です。安定した賃貸経営が期待でき、地域特性もリノベーションとマッチするエリアといえます。

 

[図表2]蔵前の賃貸市場分析

 

[図表3]蔵前の築年数別平米賃料の分布図

 

[図表2~4共通] ※リズムマンションDBより作成(データは2015年12月末日現在のデータです。) ※賃料単価は平均値であり、平米数を乗算した価格が必ずしも相場と一致するものではありません。 ※重回帰分析は築10~30年、16㎡以上30㎡未満の物件から算出しています。
[図表4]蔵前の徒歩・築年・面積による賃料の重回帰分析結果一覧 [図表2~4共通]
※リズムマンションDBより作成(データは2015年12月末日現在のデータです。)
※賃料単価は平均値であり、平米数を乗算した価格が必ずしも相場と一致するものではありません。
※重回帰分析は築10~30年、16㎡以上30㎡未満の物件から算出しています。

 

■蔵前の居住者特性

蔵前の居住者特性を見ていきます。まずは単身者世帯の比較(図表5)です。東京都ならびに台東区の人口のうち単身者世帯の割合をみると、東京都全体で約47%、台東区で約56%です。2010年から2015年で台東区の単身者世帯は約5%ほど増加し、蔵前においても総数で23.92%、単身者で16.55%と大きく増加しています。対象エリア内の居住者の年齢構成(図表6)は若い世代が多く、30~40代の年代だけで全体の38%を占めています。

 

[図表5]地域別1人世帯と2人以上世帯の割合

 

[図表6]地域別男女・年齢構成比

ゆるやかに人口減少…需給バランスに要注意

■借家数(供給)は伸びるが、人口(需要)減少が予測される中野区​

「蔵前」駅の所在する台東区は中央からやや北東寄りに位置しており、東京で最も古い市街地のひとつである浅草や、北関東・東北地方からの玄関口と知られる「上野」などがあり、区は全般的に商業地となっています。

 

住宅・土地統計調査「借家数の変化」(図表7)によると、2008年から5年の間に23区全体で約190千戸の賃貸物件が増え、同調査による「空き家の変化」(図表8)を見ると、空き家数も5年の間で全体的に増えています。台東区を見てみると、供給にあたる借家数は5年の間に23.5%増加しているものの、空き家数は0.5%とほぼ横ばいです。

 

エリア別に貸家の住宅着工数(図表9)を見ると、東京都と23区の各年の増減は相関していることがグラフから読み取ることができます。台東区の供給傾向も東京都や 23区の増減と似たような動きを見せおり、2000年頃から着工数の増加し、2006年以降は低い水準で抑えられていることがわかります。2009年以降はまた増加傾向が伺えますが、2016年以降は増加傾向が抑えられており徐々に減少サイクルに入ると予測されます。蔵前においては開発余地がまだ残っているエリアですので、今後の供給動向には注意が必要です。

 

台東区の人口の推移(図表10)を見てみると、年1%程度の割合で毎年増加を続けています。台東区は東京23区の中でも人口増加率が高く、2005年からの平均増加率では6位です。また、東京都の予測によると台東区の人口は2030年まで増加。単身者数も2035年まで増加傾向と予測されており、2005年比で162%と予測されています。不動産市場においても人口増加による良い影響が期待できます。

 

[図表7]地域別借家数の推移

 

[図表8]地域別空き家になっている賃貸住宅数の推移

 

[図表9]地域別住宅着工数の推移

 

[図表10]台東区の人口推移

 

◆まとめ 

「蔵前」は東京の東側、台東区に位置しています。駅周辺にはオフィスビルやマンションが立ち並んでいます。住環境も整っており、街並みはとても穏やか。食料品を扱うおかず横丁商店街やコンビニ、飲食店、スーパーなど生活するのに必要なお店もそろっているため不便は感じないでしょう。近年では古い建物や倉庫をリノベーションしたお洒落なカフェなどの飲食店もどんどん増えてきています。『カチクラ』と呼ばれる御徒町~蔵前にかけての地域は地元のモノづくり企業と新しいクリエイターが共存する独特の文化を形成しています。

 

賃貸市場に目を向けると、築年による賃料下落は23区平均よりもやや低い割合。一方、賃料のばらつきを表す標準偏差は23区平均よりも高い値です。地域特性も考えるとリノベーションに向いている市場と言えるでしょう。また、単身者世帯も増加傾向にありますが、蔵前は供給戸数が多いエリアであるため、今後の動向に注意が必要なエリアでもあります。

 

本連載は、リズム株式会社が発信する「エリアレポート」の記事を抜粋・編集したものです。

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