※本連載は、『無敵のグローバル資産 航空機投資完全ガイド』(幻冬舎MC)から一部を抜粋し、航空機市場の今後の需要傾向や航空機投資の具体的な戦略について解説します。今回は、航空ファイナンスおよび航空機への主な投資手法について解説します。

世界の「航空ファイナンス」市場を支える日本の資金

航空機は公共性の高さに加え、経済に与える影響の大きさからも国の最重要インフラの一つといえるものですが、1機の価格が50億~150億円と高額であるため、資金調達がどうしても必要です。

 

 

この航空機の購入に関わる資金調達を『航空ファイナンス』と呼びますが、特に成長を控えている途上国の政府とエアラインにとって航空ファイナンスにどう取り組んでいくかは、国家戦略レベルで取り組まれるべき課題とみなされることもあるほどです。

 

このような背景のもと、過去においてはECAファイナンス※1が広く活用されましたが、近年においてはオペレーティングリースが航空機の主たる資金調達手段として急速に普及しており、公的な資金に代わりグローバルな投資資金が航空機需要を支えるようになりました。

 

※1 Export Credit Agency(輸出信用機関)による信用をベースとしたファイナンスの総称。ECAは元来各国政府が自国の輸出および対外投資促進のために貿易保険、保証および貿易金融等を行うことを目的に設立した公的機関だが、現在では、それぞれの組織形態や業務範囲は各機関によって異なっており、ECAとは総称に過ぎない。なお、日本のECAは、NEXI(日本貿易保険)とJBIC(国際協力銀行)である。

 

このオペレーティングリースの急速な発展を牽引したのは、実は日本の資金であり、JLL(日本型レバレッジドリース)※2から始まったタックスリースは現在もJOL(日本型オペレーティングリース)やJOLCO(コールオプション(購入選択権)付日本型オペレーティングリース)として世界の航空ファイナンス市場を支える重要な資金供給源であり続けています。

 

※2 1985年にオリエント・リース(現、オリックス)によって初めて組成された日本型レバレッジドリースは、1988年に発表されたリース通達により税務上の取り扱いが明確化された結果、邦銀も日本型レバレッジドリース市場に相次いで参入。その結果、1990年前半までには世界の新造航空機市場の約3分の1が日本型レバレッジドリースによりファイナンスされるほど急成長した。

 

航空機製造会社を持たない日本が航空ファイナンスの重要な地位を占めることができたのは、このタックスリースに依るところが大きいともいえますが、海外では税法の違いにより通常のオペレーティングリースが航空機投資の主たる投資手法として広まっており、米国を中心にEETC(ダブル・イー・ティー・シー)も存在感を増しています。このように航空ファイナンスにはさまざまな手法が存在しますので、理解のために①レッシー(エアライン)の信用と②アセット(航空機)そのものの価値をどれだけ重視するかでマッピングとしてまとめましたので[図表1]をご参照ください。

 

 

[図表1]航空ファイナンスの手法
[図表1]航空ファイナンスの手法

 

「耐用年数」のあいだ複数回にわたり航空機を賃貸する

(1)オペレーティングリース

オペレーティングリースとは賃貸人(レッサー:リース会社等)と賃借人(レッシー:エアライン)との間の契約で、賃借人はリース料そのほか債務の支払いを対価として一定期間の間(資産の耐用年数より遥かに短い場合がほとんど)リース会社が持つ航空機を使用することをいいます。

 

 

リース期間が終了した航空機は同じエアラインに再リースされるかリース会社に返却され、ほかのエアラインに再びリースされます。航空機の耐用年数は25年程度であるため、リース会社はその耐用年数のあいだ3回から5回にわたり航空機を賃貸するのが通常です。

 

オペレーティングリースそのものは基本的にはほかのリースと大きく変わるものではありませんが、航空機投資戦略の特徴として『すでにリース契約が締結されている航空機をリース契約付きで売買する』という点が挙げられます。シンプルに考えるとボーイングやエアバスから新造機を購入してエアラインにリースするという形が浮かぶのですが、新造機の購入は5年以上待つ必要がありますし、OEMやエアラインとの信頼関係を構築するのも時間がかかるため現実的ではありません。

 

航空機のオペレーティングリースが脚光を浴びている理由や利点については本書(『無敵のグローバル資産 「航空機投資」完全ガイド』)の別章で詳細に触れましたので、ここではストラクチャー(構造)についてご紹介いたします。[図表2]は航空機オペレーティングリースのシンプルなストラクチャー図ですが、投資家は設立した特定目的会社に対して銀行融資と合わせて資金を拠出し、中古市場からリース契約付きの航空機を取得・登録を行います。

 

[図表2]航空機オペレーティングリースのストラクチャー①
[図表2]航空機オペレーティングリースのストラクチャー①

 

日本の所有者が日本のエアラインにリースを行うときはこのようにシンプルな形で完了するのですが、海外の所有者になると急にストラクチャーが複雑になります。その大きな理由としては、日本では日本人または日本法人でなければ航空機の登録を行うことができないためですが、この問題を避けるために[図表3]のようなストラクチャーが考案されています。

 

[図表3]航空機オペレーティングリースのストラクチャー②
[図表3]航空機オペレーティングリースのストラクチャー②

 

このスキームでは、はじめに日本の商社等に依頼し機体所有権登録用のSPC(=代理人となる日本法人)を設立します。海外の所有者はここで設立したSPCに航空機を売却し、所有権を日本に移動させます。

 

SPCは取得した航空機を元の外国法人に売り戻すのですが、その時に使われる手法は所有権留保付割賦売買を活用し、リース満了までは1ドルがSPCに残るようにしておくことでリースが満了するまでは日本法人であるSPCに所有権が残るようにしているのです。 ほかにも海外へのリースをサブリース(転貸)の形式でストラクチャーを組むこともあり、投資戦略や投資家の属性などによって最適なストラクチャーは異なります。

投資家は投資額を限度に「税の繰延べ」が可能に

(2)タックスリース(JOL/JOLCO)

タックスリースといっても、その本質はオペレーティングリースであり、オペレーティングリースが持つ税的効果を最大限に活用したものです。タックスリースと呼ばれる理由は、このリースに参加した投資家は投資額を限度として税の繰延べを行うことができることに由来します。

 

 

具体的な例としては、タックスリースに10億円投資したとすると、例えば、初年度で7億円、次年度で3億円の減価償却費(税費用)を得る事ができ、投資家もそれを目的にこのスキームに参加します。投資したのに損をするという不思議な商品ですが、投資回収はもちろん考慮されておりリース期間終了時には投資額+αで分配を受ける計画がほとんどです。

 

この税費用によって課税所得を一時的に減らすことを『税の繰延べ効果』と呼び、突発的または経常的に多額の利益が発生している企業や決算書が悪くなっても事業の継続に問題がない企業などが代表的な投資家です。本業の利益に対してタックスリースから分配される税費用を相殺させることで課税所得を下げていくことを投資の目的としており、繰延べた税によって発生した内部留保で設備投資や再投資を行うことで運用益を得たりするのです。

 

JOLは通常のオペレーティングリースに税の繰延べ効果を追加したもので、定率法の減価償却を活用してリース期間の前半で損失を先行させ、後半に黒字化するまで利益を繰り延べていく手法です。なお、JOLCOはさらにレッシーであるエアラインに対してコールオプション(買戻し条項)を与えたもので主にエアラインが購入した新造機に対するセール・アンド・リースバックの形式で組成されることが一般的です

「エアラインの信用」をより重視した投資戦略

(3)EETC(Enhanced Equipment Trust Certificate)

EETCは米国で発達した航空ファイナンス手法で、『ダブル・イー・ティー・シー』と呼びます。EETCは複数のETCを束ねたものですが、その元となるETCとは航空機を担保とする設備信託のファイナンス手法になります。

 

ETCについて簡単に仕組みを説明すると、エアラインは航空機の調達にあたり約3割前後の出資を行い、残りの7割程度を出資に対して優先する担保付債券(ETC)として資金を募ります。投資家はエアラインが支払う金利によってリターンを得る仕組みです。ETCは航空機1機ごとに組成しますが、EETCは複数のETCから構成されるため様々な機種・機齢の航空機を内包するポートフォリオ型の商品になります。

 

 

オペレーティングリースとは航空機への投資という広義のカテゴリーは同じですが、EETCはエアラインに対する担保付融資、コーポレート・ファイナンスに近い特性を持ちます。オペレーティングリースが機体そのものを重視した投資戦略であるのに対し、EETCでは債務者となるエアラインは1社に限定され、エアラインの信用をより重視した投資戦略になります。

 

EETCの特徴は強固な債権者保護の仕組みを有しているところにあり、例としてエアラインが米国連邦倒産法第11章(チャプター11)を申請してもEETCの債務履行を可能とする工夫が組まれており、EETCの債権者が元本を満額回収できなかった事例は極めて少ないです。

 

また、本質的にエクイティ投資であるオペレーティングリースと異なり、EETCは債券投資にあたり、格付会社によるレーティングがされやすいことも特に機関投資家には投資判断が行いやすい特徴かもしれません。

 

レーティングについては興味深いことに、担保付であることから発行体のエアラインよりも高いレーティングが付くこともありますし、さらに発行体がチャプター11を申請して格付けが下がっても、必ずしもEETCも連動して下がらず、場合によっては高い格付けのままとどまることもあります。

古くなった旅客機に「付加価値」を見つけ出す投資戦略

(4)貨物コンバージョン

コンバージョン(用途転換)とは、古くなった旅客機を貨物機に改造して売却するリサイクル戦略を指し、Passenger(旅客機) to Freighter(貨物機)、略してPTFまたはP2Fと呼ばれることもあります。貨物機は旅客機と異なり(貨物は文句を言わないので)内装は不要でかつ求められる品質性能も低くなり、古い機体でも現役で飛ぶことができることから旅客機と比較して長く価値を保つことができるのです。

 

いわゆるリサイクル戦略となりますが、対象となる機種はB767-300ERなど一部ワイドボディ機やB737-400/800といった一部ナローボディ機に限られますし、また売却価格は旅客機市場ではなく変動が大きい貨物機市場に依存しますので、より高度な戦略設計と市場を見通す力が求められます。

 

(5)パーツアウト

パーツアウトは古くなった航空機を退役させ、機体を分解してエンジンやそのほか部品ごとに売却するもう一つのリサイクル戦略になります。特にエンジンはパーツアウトの主役で、航空機ジェットエンジンは5年程度でオーバーホールを繰り返しますが、そのたびに価値が大きく回復するために、古い機体からエンジンだけを取り外して売却することで高い収益が期待されるのです。

 

古い機体を解体して、エンジンだけをリースすることで、航空機をリースする以上のリース料が得られることもよくあります。特に人気機種である、現行のボーイング737-800やエアバスA320ファミリーのエンジンであるCFMインターナショナル製CFM 56-7B、CFM 56-5Bやインタナショナルアエロエンジン製のV2500エンジンは需要が高く、パーツアウト戦略により、高い収益性を得られる可能性があります。

 

 

貨物コンバージョンと同じく、パーツアウトも古くなった旅客機に対し、付加価値を見つけ出すやり方ではありますが、安定性が特徴の旅客機市場とはまったく異なる原理で動く中古部品市場を収益の源泉とした戦略になりますので、導入に際しては細心の注意が必要です。

パーツアウトを検討する際の「タイミング」に注意する

ここではパーツアウトで気をつけるべき点を2点ご紹介します。一つ目は中古部品市場のピークアウトのタイミングが早くかつ動きが急速であることです。次の[図表4]は、A330-200の運航機数と退役数を表したものですが、2019年をピークに退役数が増加するのに呼応して運航機数が減少していることがわかります。

 

[図表4]A330-200の運航機数と退役数 出所:各社資料より作成
[図表4]A330-200の運航機数と退役数 出所:各社資料より作成

 

中古パーツはスクラップになる航空機がなければ市場に出回りませんので、退役機数が増えてくれば徐々に中古パーツが供給されていくことになります。しかしながら、同時にパーツを必要とする航空機も徐々に減少していくために中古パーツの供給が増していくなか、需要が減少していくという需給バランスが崩れた市場になる傾向があります。

 

30年以上の長期間、現役で使われる機種であればこの影響はかわされますが、中古パーツが本格的に供給されるのは初号機がデリバリーされてから20年以上が経過した後になりますし、そのときには次のモデルが開発されていることも少なくないため、中古部品市場の見極めは容易ではないことがご理解いただけると思います。

 

もう一つはエンジンメーカーや部品メーカーの価格の値下げです。機体の場合は新造機の値段が下がっても中古機に与える影響は軽微ですが、パーツはメーカーのカタログ価格の変動の影響を強く受けます。逆にメーカーからすれば、中古パーツが出回ると自社の純正部品が売れなくなってしまうので、中古部品市場に対して値下げで対抗するのはメーカーとしては至極当たり前の戦略です。パーツアウトを検討する際には注意深く動向を見極める必要があります。

 

 

荒井邦彦

株式会社マーキュリアインベストメント/資産投資部バイス・プレジデント

 

 

無敵のグローバル資産 「航空機投資」完全ガイド

無敵のグローバル資産 「航空機投資」完全ガイド

航空機投資研究会、澁田 優一、野崎 哲也

幻冬舎メディアコンサルティング

航空機市場が世界経済とともに成長を続ける理由や航空機投資はエアライン企業への株式投資と何が違うのか、他の現物投資と比べた場合の圧倒的なメリット、どの機体を選んで投資すべきなのかなどをわかりやすく解説。

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