※本連載は、『無敵のグローバル資産 航空機投資完全ガイド』(幻冬舎MC)から一部を抜粋し、航空機市場の今後の需要傾向や航空機投資の具体的な戦略について解説します。今回は、航空機投資における機種の選定方法等について解説します。

エアラインが好む航空機と投資向けの航空機の違い

航空機投資戦略は、なによりもまず投資戦略や求めるリターンに適した航空機を選択することから始まります。リターンのボラティリティを管理するのであれば、信頼性、価格の安定性、流動性等の観点からも、世界的に広く使用されている「標準機」を選択すべきですし、積極的なリターンを取るためにあえて経年機やリスクの高い地域のエアラインへのリースを行うこともあります。

 

ところが機種の選定は単純ではなく、自動車を例にとっても、年式、クラス、色、走行距離、改造の有無、修復歴、オーナーの数等多くの要素を検討するかと思いますが、航空機も例外ではなく、それ以上に複雑です。

 

どのメーカーのエンジンがついているのか、その出力特性はどうなっているか、内装や整備状況等々すべてが、航空機の価値に直結する重要な要素になります。言い換えると、これら一つひとつが航空機投資のリターンに直結するのです。

 

 

機種だけを見ても、ボーイング767のなかでもボーイング767-200とボーイング767-400ERでは航続距離や定員が異なりますし、エアバスA320のようにエンジン特性で枝番が分かれているものもあります。例えば、A320 -216とA320 -233はエンジン製造業者とエンジン推力が違うのですが、それだけでも中古機市場の価格に影響するのです。

 

さらに当然のことですが、エアラインが好む航空機と投資に向いている航空機は必ずしも合致しません。特にフルサービスキャリアと呼ばれるエアラインは航空機を経済的耐用年数が終了するまで保持することもできるので、人気がなく流動性に欠ける機種でも自社の航空機ラインナップとして使い続ける融通性があるのです。さらに任務や環境対応のため特殊な航空機(流動性が極端に低くなる)を選択する場合もあります。

 

例えば、「ホット・アンド・ハイ」(気温が高くかつ海抜高度が高い場所にある)空港を拠点とするエアラインは、条件に適した航空機とエンジンを特注で所有したりするのですが、ほかのエアラインにとってはまったく魅力がない航空機になります。

 

一方、航空機投資戦略の基本は最も汎用性の高い航空機を選択することです。その航空機の人気が高ければ高いほど、経済的耐用年数にわたり繰り返しリースできることが見込めるからです。大まかな目安としては、使用しているエアラインが50社以上あり、運航されている機数が500機以上あれば、それなりに汎用性の高いリース向きの優れた機種といえ、売買に必要な流動性を確保できると評価できます。

 

特殊な機種や流動性の低い機種は資産価値の変動が大きく、投資資産としてリスクを取ってまで、そうした種類の航空機を取得する必要はないと考えます。最近の航空機市場においてリスクが高いことが明らかになっている機種の例としては、ボーイング777-200LR、737 -300、747 -400、エアバスA318、A380などが挙げられます。

 

航空機投資の対象を選ぶこと、つまりターボプロップなのかナローボディなのかワイドボディなのか、旅客機なのか貨物機なのか、航空機メーカーはエアバス、ボーイング、ボンバルディア、エンブラエルのどこなのかと、すべての組み合 わせから投資目的に最適な機材を選択するのは容易ではありません。

 

 

加えて、エンジンもGEなのか、P&W(プラット・アンド・ホイットニー)、RR(ロールス・ロイス)なのかを戦略的に選び購入する必要があります。エアラインは使用する機種とエンジンメーカーを細かく特定しますので、これらの要素をうまく選択しなければリターンを狙うどころか流動性に悩む結果になる可能性もあります。

 

少々細かなところまで踏み込んでしまいましたが、[図表]に参考として主要な航空機を成長性と流動性で評価したものをご紹介しましたのでご参照ください。

 

[図表]主要な航空機の評価 出所: 各社資料から作成。成長性は筆者評価、流動性は運航者の数と受注残から評価、バルーンの大きさは2018年時点の機数(運航機数+受注機数)をベースとしている
[図表]主要な航空機の評価
出所: 各社資料から作成。成長性は筆者評価、流動性は運航者の数と受注残から評価、
バルーンの大きさは2018年時点の機数(運航機数+受注機数)をベースとしている

航空機投資における「パートナー」の選び方

航空機投資は非常にシンプルなコンセプトから成り立っています。航空機を新規または中古で購入し、エアラインにリースすることでリース料とリース終了時の機体売却で収益を得ることを目的とします。

 

コンセプト自体はシンプルですが、そこにはやはり非常に深い専門知識が求められ、誰でも簡単に参入できるものではありません。航空産業に対する理解やコネクションはいうまでもなく、航空機の性能や特徴に対する知識、テクノロジーや整備に対する知見、さらにはスキームや中古機市場に対するファイナンス的な理解等が必要であり、航空機+テクノロジー+金融という総合力が求められる戦略になります。

 

したがって航空機投資戦略には信頼できるパートナーの存在が必須です。パートナーは達人(エキスパート)で、かつ航空機と航空業界に深い愛情を持った存在であるべきと考えます。実際に選ぶ際には、ノウハウ・実績、体制・インフラ、そして業界コネクション等の要素をバランス良く考慮することになっていきます。

 

 

以下にパートナー選びの要素を列挙しました。航空機投資のリスクとパートナーの選び方は表裏一体で、リスクをしっかりと把握し、そのリスクに対してどのような解決力を持っているかでパートナーを評価していただければと思います。

 

・機体購入ルートの確保、およびその情報ソースの選別

・需要動向、技術的価値を踏まえたうえでの機体選別

・金融機関からの資金調達能力

・為替変動による為替リスク検証、および回避オプションの提示

・航空機の整備状況の管理

・リース終了時の機体返還時の機体状況の調査

・レッシー(エアライン)の経営状況分析

・機体返還時の転リース先の発掘

・売却タイミングの判断、売却先の発掘、価格やそのほか条件の交渉能力

・世界的な視野での、航空業界の動向分析(新規路線の展開、撤退動向。合併、提携、共同運航の動向。行政当局の方針変化、各国間の航空協定の締結など)

・世界的な視野での、航空産業の動向分析 (航空機の発注、キャンセルの発生、中古機取引状況の分析。次世代航空機の開発動向分析など)

徹底した「リスク管理体制」の構築が最重要事項である

これは航空機投資だけに限りませんが、購入する航空機やエアラインとのリース契約、ファンド形式での投資の場合はファンドスキームなどがすべて法的に保護・保証されていることは、投資管理の観点からは最も重要視すべき事柄です。投資を実行するにあたっては必ずグローバルと各地域の法律顧問を用意し、航空機投資の実効性について十分な検討を行う必要があります。

 

リース先の国の法制度、融資の実行可能性、リース契約、航空機登録、所有者登録、担保設定、担保権の実効性、エアライン破綻時の強制執行等、投資に際して定めるべき事柄は多岐にわたりますが、アセットリスクの管理は契約を基礎としますので、熟知した専門家による網羅的な検証が必須となります。

 

リスク管理の観点でもう1点重要となるのは、どれだけしっかりとした契約書を作ったとしても実際に不測の事態に対して航空機の担保権を行使し、航空機の取り戻しおよび売却などの処分まで完了できなければ、航空機に対する担保権は絵に描いた餅にすぎないということです。

 

エアラインの倒産時における航空機の担保権実行や航空機の取り戻しにおいては、航空機が債権者にとって好ましい場所(法域)に駐機されているところを狙って迅速に手続を行う必要があります。そのため、エアラインの信用状態の悪化を察知した時点で、できるだけ早期に将来の破綻に備えることが重要なのです。

 

 

言い換えると新聞やニュースで破綻が報道されたときには、それをトリガーに航空機の引き上げを速やかに実行できる体制を整えておくことが必要であり、ニュースを見てから動き出すようなことがあってはいけません。

 

具体的には、契約上定められた権利の内容や手続的な要件を確認し、当該法域における担保実行手続の概要などについて把握し、専門家などと連携して有事の際には速やかに協働できる体制を整えておくことが必要となります。

 

このチームはオーナー、銀行、国際弁護士、現地の弁護士、現地の空港対応、パイロット×2と10人弱のチームになることもあり、これが取り戻す航空機ごとに必要なので、多大な労力とコスト負担を覚悟しなければなりません。さらに航空機が複数国・地域に分散している状態での多極同時担保実行ともなると、数十名のチームを動かすことができる経験・ノウハウを持った司令塔も必要になります。

 

取り戻しに成功したとしても、次のエアラインにリースするまでにはどうしても空白期間が発生してしまいますので、そこでもコストが必要となり、多額の費用が運用成績に大きな影響を与えることになります。ちなみに、これらのコストを総称して「3つのR」コストと呼びますが、それは「Repossession( 占有回復)」「Refurbishment( 改装)」「Remarketing(リマーケティング)」を指しています。

 

ここではリスク管理体制について触れましたが、一番望ましい状況はやはり航空機が戻ってこないことだと思いますし、次点としては友好的な返却(Friendly Return)になるでしょう。それでもやむを得ないときには強制力も必要ですが、可能な限り事前に解決策を講じることができる情報網やエアラインとの関係性を構築することがより重要です。

 

 

荒井邦彦

株式会社マーキュリアインベストメント/資産投資部バイス・プレジデント

 

 

無敵のグローバル資産 「航空機投資」完全ガイド

無敵のグローバル資産 「航空機投資」完全ガイド

航空機投資研究会、澁田 優一、野崎 哲也

幻冬舎メディアコンサルティング

航空機市場が世界経済とともに成長を続ける理由や航空機投資はエアライン企業への株式投資と何が違うのか、他の現物投資と比べた場合の圧倒的なメリット、どの機体を選んで投資すべきなのかなどをわかりやすく解説。

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