密接な関係性がある「航空旅客需要とGDPの成長」
航空機需要を支える世界の航空旅客需要の見通しですが、これまでの堅調な成長が今後20年は引き続き継続するであろうと予測されています。米国トランプ政権の保護政策や欧州での移民問題など、保護主義的な動きに傾く可能性はありますが、それでも20年後には2倍以上に増加するとの見通しを複数の機関が発表しています。
この旅客需要を支えているのは新興国の成長です。国連の世界観光機関UNWTOによると、一部地域での紛争、経済的困難、疫病等にもかかわらず、航空旅客需要は継続して年率5%程度の成長を実現しており、これは引き続き継続するであろうと見られています。
従来、航空市場は米国、欧州を中心とした先進国に集中していましたが、近年は中間層人口の増加に伴いアジア、中央・東ヨーロッパ、中東、アフリカおよびラテンアメリカ等の新興国でも急速な成長が見られています。航空旅客需要とGDPの成長には密接な関係性が見られるということは本書(『無敵のグローバル資産 「航空機投資」完全ガイド』)の第3章で触れましたが、1人あたりの名目GDPが5000~1万米ドルを超えると急速に海外旅行の回数が増加する傾向にあります。近年、このレベルに達した韓国や中国は急速に旅客需要が増加しており、次にタイやインドなどの需要が控えていると予測されています。
ここ数年で訪日する外国の方が急速に増えたのは身近に感じられていることかと思いますが、次の波はすでに眼の前に来ていて、タイやインドなどを筆頭にさらに多くの国の方が航空機を使って動こうとしています。今後10年程度で一気に訪日環境(とビジネスチャンス)は変わっていくかもしれません。
一方で、一人あたりのGDPが1万米ドルを超えた後もそのまま比例して海外旅行の回数が増えていくわけではなく、多くても平均1~2回あたりで限界がきてしまいます。裕福になったからといって1年にそう何度も海外に行ってばかりではないことも理解できることです。したがって、先進国にはすでに十分な数の航空機が存在しているため、今後、より航空機を必要としている国は東南アジアや南アメリカの国になります。
参考までに、百万人当たり何機の航空機が登録されているかといった視点で分析してみると、北米の11.4機や日本の6.2機に対して東南アジアは1.2機しか存在しておらず、航空機投資を行っていく上でこれらの国のエアラインは主要な取引先となっていきます。
外部要因に大きく左右される「エアライン」の収益
世界的なリスクイベントに対しても強い耐性を見せる航空旅客需要に対して、エアラインの収益はリスクイベントや原油価格等の外部要因に大きく左右されます。[図表3]は全世界のエアラインの利益総額と航空旅客輸送量を表したものですが、エアラインの収益はリスクイベントや原油価格によって全世界同時に大きく影響を受けるのに対し、収益性の悪化局面でも輸送量を極端に減少させているわけではないことが見て取れます。
近年は比較的安価な原油価格によりエアライン全体が(稀に見る)利益を生み出しており、その結果、新規の航空機の取得に積極的です。投資の機会がより増加している状況です。したがって、安定した旅客需要に対する投資手段としてはエアラインへの投資ではなく航空機投資(航空機そのものやリース会社への投資)のほうがより直接的に旅客需要から利益を享受できるのです。実際のところ航空機投資は景気の波に対してエアラインほど影響を受けづらいといえますし、特に景気後退期時において航空機投資はエアラインよりもうまく対応してきたと思います。
この差の背景には本書で説明してきた航空機投資特有の利点や特徴があるのですが、ビジネス上の違いという視点でエアライン投資と航空機投資について以下にまとめました。
・ エアライン投資と異なり航空機投資は特定の国や地域に縛られることなく、ビジネスの機会がある地域に経営資源を集中投入することが可能です。
・ 航空機投資はポートフォリオの分散や証券化、信用保険、金利のヘッジなど高度なリスク管理手段を用い、リスクイベントに対するリスクの最小化を図ることが可能です。
・航空機投資は航空機やエンジンの種類、レッシー、地政学に対するリスクの分散が効率的です。
・航空機投資は燃油価格、旅客数の変動、労使紛争などのリスクがすべて間接的です。
さて航空旅客需要への投資としては、航空機への直接投資以外にもリース会社の株式投資という選択肢がありますが、リース会社は通常ほかの商品も同時に手がけていますし、株式である以上株式市場の影響を少なからず受けざるを得ません。したがって、世界の航空需要を純粋に取り組むことができる投資手段としては航空機への直接投資が最も適しているといえます。
荒井 邦彦
マーキュリア インベストメント