世界中で活発に進む「オープンスカイ」という取り組み
航空機需要は今後20年で約2倍となる予測ですが、OEMは10年分近くの受注残をすでに持っており、言い換えるとこの予測の半分程度についてはすでに納品先もほぼわかっている状態です。この旺盛な需要の要因は①世界経済の成長、②規制緩和、③LCCによる新市場の開拓、④機体の退役サイクル・買い替えサイクルの短縮化の4点にまとめられますが、前回で触れた世界経済の成長以外の3点について詳細をご紹介します(関連記事『世界の航空機需要…今後も「リース」機の割合が増加する理由』参照)。
(1)航空規制緩和
多くの方が新聞やメディアで「オープンスカイ」という言葉を見聞きされたことがあるかと思います。国土交通省のWebサイトでは「オープンスカイとは、企業数、路線および便数に係る制限を二国間で相互に撤廃すること」とありますが、多くの方があまりピンとこない説明かと思います。
実は、航空機は船舶と異なり、他国領土の上空を飛行することができることから、各国ともに外国の航空機の領空通過を好ましいと考えず、1919年のパリ条約では、領空主権説を成文化し、「各国はその領空上の空間において完全、かつ排他的な主権を有する」と規定したのです。その後、航空技術が発達し、航空機の乗り入れの需要が高まった結果、二国間で徐々に規制を緩和していったのですが、これらの規制を撤廃することを「オープンスカイ」と呼んでいます。
日本は2016年5月26日にカンボジアと30カ国目となるオープンスカイ協定の締結が完了し、2017年2月現在30の国や地域とオープンスカイ協定を結んでいます。ちなみに「オープン」と称されていますが、なんでもありというものでなく「5つの自由」と呼ばれる規制をベースに緩和を行っていきます。
例えば、他国の国内で貨客を輸送する自由(カボタージュと呼ぶ)がありますが、日本はこの自由を他国には開放していないため、国内線は必ず日本のエアラインが運航することが定められています。
「オープンスカイ」はもちろん日本だけの取り組みではなく世界中で活発に進んでおり、多くの国と地域間でオープンスカイが浸透しています。身近なところでは香港やシンガポール、韓国は積極的で、香港空港は2007年〜2012年の5年間で国際線の利用客を4631万人〜5566万人、チャンギ空港は3607万人〜4991万人と大きく伸ばしています(※1)。成田と羽田の国際線の2012年の合計が3754万人ですのでその規模の大きさが分かると思いますし、国土交通省が羽田空港の国際化(※2)を急ピッチに進めた理由も理解できます。
※1 国土交通省「充実した航空ネットワークの構築と需要の開拓」
※2 羽田空港は2002年までは国際線の定期便を就航させることが許されていなかったが、2002年に開催された日韓共催ワールドカップにおいて羽田―ソウルのチャーター便が就航して以来、「定期」チャーター便という不思議な形で定期運航が10年以上続けられていた。チャーター便は運航の都度国土交通省に届け出が必要なため、エアラインは毎日チャーター便の運航許可を取るという面倒なことを長年行っていた。都心からのアクセスで好評な羽田国際線だが他国と比べると非常に時間を要した営業開始であった。
オープンスカイにより国際線が活発になると同時に各国の国内規制も緩和される傾向にあり、規制産業である航空業界において規制緩和がもたらす影響は、航空機の需要に対しても大きなインパクトとなります。今後も「オープンスカイ」をはじめさまざまな取り組みや規制緩和が活発に行われていくと見られており、それに伴い航空機の需要も続いてくと思われます。
今後、「古い航空機の退役」が加速する理由
(2)LCCによる新たな市場開拓
先のオープンスカイにも関連していますが、航空の自由化により、北米、欧州をはじめ、各国で LCC(Low Cost Carrier)が設立されました。1970年代の格安航空会社に端を発したこの市場は長い間、設立と破綻を繰り返してきましたが、米国のサウスウェストや欧州のライアンエアーの成功によって基本的なビジネスモデルが確立されました。
近年では、LCCの空白地帯といわれていた日本や台湾にもLCCが設立されたほか、新興国でも航空の自由化の進行に伴って多くのLCCが設立されています。2015年には、全世界の航空輸送供給量の増加分の内34%はLCCによってもたらされたともいわれております。特に、近年経済成長が著しい東南アジアでは、LCCが供給量に占めるシェアは2015年には既に56%に達しており、2020年には70%を超えるという予測もあります(※3)。
※3 一般財団法人日本航空機開発協会『民間航空機に関する市場予測2018-2037』
中東やアフリカでは依然としてLCCのシェアは低いため、シェア拡大の余地は引き続き大きく存在していると思われます。LCCはフルサービスキャリアと比べて40~50%のコスト削減が必要であり、エアバスA320やボーイング737などのナローボディの需要が今後も継続すると思われます。
(3)航空機のモデルチェンジと買い替えサイクルの短縮化
2002年以降、燃油費の高騰やコスト削減もあり、燃費が劣り整備費用のかかる経年機(特に機齢20年以上)の退役が加速しました。2004年は196機が退役し、その平均退役年齢は27.0年でしたが、2014年に退役した403機のジェット旅客機の平均機齢は23.8年と短くなる傾向を示しています。この10年間で退役機数は約2倍になり、退役機齢は3年程度短くなっています。
経年機は確かにリース料や機体コストの面では有利ですが、それ以上に燃費が悪かったり、メンテナンスコストがかかったり、さらには思わぬ整備によって欠航を余儀なくされたりすることがあり、特にLCCはギリギリで使用しているため古すぎる機材は忌避する傾向にあります。
燃費やメンテナンス以外の性能も買い替えを後押しする要因があり、温室効果ガスの規制や空港の騒音規制などの環境規制も古い機材の退役を加速させています。航空機は「革新的な」技術の進歩は少ないとご紹介しましたが、もちろん新規技術は継続的に採用されており、燃費や環境性能、居住性能など新しい技術が導入された機材の人気は高いです。
例えば、最新鋭機として有名なボーイング787ですが、アルミ合金ではなくカーボン複合材を採用した結果、ボディー剛性は飛躍的に高くなり、窓を大きくしたり、気圧を1800m程度と従来の2100mからより低くしたり(耳がツーンとしづらい)、湿度も高くすることができるようになっています。実はこれまでの航空機の客室には防滴の観点から湿度を低くする加湿器がついていなかったのですが、ボーイング787からは加湿器が客席にも採用されています。
荒井邦彦
株式会社マーキュリアインベストメント/資産投資部バイス・プレジデント