航空機の7割弱が「ナローボディ機」で占められている
2016年末の時点で、2万3480機のジェット旅客機が登録され稼働しています(一般にプロペラ機と呼ばれる商用「ターボプロップ機」を含めると2万6856機にまで達します※1)。主要な航空機の種類の概要については後述しますが、大きく分けて座席数が100席以下の機種を「リージョナルジェット」と呼び、それ以上の大型航空機で機内の通路が1本のものは「狭胴機:ナローボディ機」、機内の通路が2本のものは「広胴機:ワイドボディ機」と呼び、それぞれの機数は[図表1]のようになります。
※1 出所:一般社団法人 日本航空機開発協会『民間航空機に関する市場予測2018-2037』、統計は民間機のみの統計。軍用機や公的機関が使用する輸送機は除く。
エアラインにとって航空機は長年使用する重要な設備であると同時に、1機あたり数十億から百億円以上もする極めて高額な投資が必要とされる設備です。したがって、どのような機種を選択し、どのような機材構成で事業を行うかは航空会社において重要な意思決定の一つです。ちなみに、エアライン経営における最重要戦略は路線戦略と機材戦略であり、それに続くオペレーション戦略(≒コスト削減)の3本柱が経営を左右するといっても過言ではありません。
そのためエアラインが航空機を選定する際には、非常に多くの要素を多面的に評価して決定を行います。就航地までの距離や旅客需要に対するキャパシティ、機種別に操縦免許や整備免許が異なるためにパイロットや整備士の育成状況に運航コスト、機材の信頼性など、さらに時には労働組合からの要求を考慮する必要があったりもします。
もちろんセオリーは存在しており、近距離国内線にはナローボディ機やリージョナルジェット、長距離国際線にはキャパシティの大きなワイドボディ機を配備することが基本です。ところが日本は少々異なる状況にあり、国内線に数多くのワイドボディ機を就航させています。
日本だけが完全な例外というわけではないのですが、やはり特殊な状況ではあると思います。したがって航空機のボリュームゾーンはナローボディ機であり、運航機数も全体の7割弱と圧倒的な数を示しています。LCCが一般的に好む航空機もこのナローボディ機であり、今後の予想でも引き続きナローボディが航空機の主役になっていくものと見られています。それでは各機種別の特徴について簡単ではありますが触れていきたいと思います。
世界で最も多く使われている航空機2種とは?
(1)ナローボディ機の特徴
世界中の航空機の多くを占めるナローボディ機ですが、座席数が100席~200席前後で機内の通路が1本の航空機のことを指し、通路の両脇に座席が3席ずつあるものが一般的です。LCCなどでも積極的に導入されている信頼性の高い航空機ですが、ワイドボディ機に乗り慣れた日本の方の中には「同じ料金なのに小さい飛行機で損をした気持ちになる」と少し不遇な扱いを受けることもある航空機です。
しかしながら、航空機投資戦略におけるナローボディの人気と信頼性は非常に高く、「航空機投資の基本はナローボディ」といわれるほどで、利用者の好みと投資家の好みは異なるという興味深い実例かと思います。このクラスは世界で最も利用されている航空機で、特にエアバス社のA320ファミリーとボーイング社の737ファミリーはロングセラー機として30年以上販売が続けられています。
両機とも8000機以上の導入を積み重ねており、世界で最も多く使われている航空機として高い信頼性や整備性、さらには流動性や収益性を兼ね備えたアセットとして評価されています。A320と737はよく似ているので見分け方をまとめました。ぜひ空港で見かけられた際には目利きを試してみてください。
中短距離に使用されるナローボディ機ですが、航続距離は5000㎞程度で羽田からだと香港あたりが実用的には限界の距離となります。カタログ上では6000㎞を超えるスペックが表記されてはいますが、実際の就航に際しては緊急時のダイバート(代替着陸・目的地外着陸)や空港混雑時の順番待ち等を考慮して1500㎞程度の余力を持たせる必要があります。
よく「いつハワイまで飛ぶLCCが出てくるのか?」と聞かれることがあります。太平洋を飛ぶためには特殊な認定(※2)が必要なのですが、それ以前にナローボディ機では羽田-ハワイ間(6202㎞)はそもそも航続距離が足りないためにワイドボディの導入なしには就航できないのです。
※2 ETOPS(Extendedrange Twin-engine Operational Performance Standards、イートップス)という認定で、双発機(エンジンが2つしかない航空機のこと)が洋上を飛行する際に、片方のエンジンにトラブルがあっても、もう片方のエンジンで飛行できる時間を定めたものである。ETOPS120とあれば、1つのエンジンだけで120分の飛行が可能であることを示し、言い換えると120分までは洋上沖まで飛行することが許される(戻ってくることができる)ということ示している。
「ワイドボディ」を好んで投資する投資家や投資戦略も
(2)ワイドボディ機の特徴
ワイドボディ機とは機内の通路が2本あり、200席以上の大きな航空機を指します。このクラスの航空機になるとファースクラスやビジネスクラスなどのクラス設定が行われるため単純な座席数で比較することが難しくなっていきますが、ナローボディ機と比較すると数倍の輸送力を誇ります。また、航続距離も格段に伸びるため長距離国際線に使用されることが多く、使用するエアラインは限られる(=流動性が低くなる)のが一般的です。
一般にワイドボディ機は1機で運べる乗客数が多いため運航経費の負担が軽く、また貨物室も広く使用することができるので貨物輸送での収益増加も見込めます。さらに通路が2本あることは乗降時間の短縮となり収益性の向上効果が大きいといわれています。しかしながら、膨大なキャパシティを埋めるだけの需要は主要都市間の移動に限られることが多く、ハブ・アンド・スポーク戦略の柱となる航空機ではありますが、逆にポイント・トゥ・ポイント戦略には適さない航空機です。
ナローボディ機とは逆に利用者視点では人気が高い機種が多く、複合素材をふんだんに使ったボーイングB787や総2階建ての超巨大なエアバスA380等、特徴・人気のある航空機が多いのも事実です。余裕のあるスペースは各エアライン独自の設備を導入することを可能とし、フルフラットのシートや個室、時にはシャワーやバーカウンターなどを備えた機材もあります。
特殊装備が多いということは、そのエアラインがフラグシップモデルとして使い続ける可能性が高いことを意味しており、流動性は低く投資にあたり注意すべき点は数多くありますが、リースレートファクターが高いことやフラグシップであること、所有できるエアラインが限られることや重要路線を担うことなどからワイドボディを好んで投資する投資家や投資戦略もあります。
参考までにワイドボディ機は国際線を運航するエアラインのネットワーク戦略の核となる航空機と書きましたが、最新鋭機の航続距離を図で表すと[図表4]のようになります。ボーイング787でもエジプトまで楽にノンストップで行けますし、エアバスA380になると地球の裏である南米以外はほぼどこまでも飛ぶことができます。
ロシア、中国、日本のメーカも参入し、競争も激化
(3)リージョナルジェット機の特徴
座席数が50~100席程度、航続距離2000~3000㎞の小型ジェット旅客機のことで、RJと略されることもあります。リージョナル(Regional)とは「地域の」の意味ですが、ナローボディ機と比較して、低燃費・低騒音で離着陸に必要な滑走路が短いという特徴があります。
これまでプロペラ機が運航していた小規模な空港の多くを利用することができるため、飛行時間が1~2時間程度の都市間の運航に適しています。1990年代以降、大都市を結ぶ航路では機材の大型化が進みナローボディ機が用いられる一方で、地域間航路では効率のよい小型機が求められておりリージョナルジェットの市場は拡大傾向にあります。
現在、全世界でおよそ3400機のリージョナルジェットが運航しています。これらの機体は、ブラジルのエンブラエル社、カナダのボンバルディア・エアロスペース社の2社が製造したものが大半を占めていますが、今後も機体の買い換え、燃料や経費の効率などから継続してこのクラスの需要も見込まれており、ロシアや中国の航空機メーカーが参入して競争が激しくなっています。日本の三菱航空機が開発しているMRJもこのリージョナルジェットのカテゴリーになります。
2017年の小型ビジネスジェット納入機数で世界一となったホンダジェットは定員5~6名と、このリージョナルジェットよりもさらに小さな、ビジネスジェットやプライベートジェットというカテゴリーになります。2018年3月にはANAがビジネスジェット市場参入を発表するなど航空機の小型化の波も押し寄せており、この影響がどこまで波及するかわかりませんが、新しいビジネスチャンスや市場が生まれるかもしれません。
最後に航空機の違いを図([図表5][図表6])で見てみましょう。サイズと断面図でそれぞれの航空機の違いを見ていただければと思います。断面図はなかなか見る機会がないかもしれませんが、床下に貨物スペースがあることを再確認できるかと思います。
床下はベリーとよばれ、大型の航空機になると貨物コンテナ(ULD:Unit Load Device)を格納することができます。空港でこの貨物コンテナが小さな電車のように連なって運ばれるところを見ることがあるかと思いますが、真四角ではなく角が落ちた台形の形をしているのは機体の丸い形に合わせてスペースを有効活用するためです。
なお、貨物専用機は上のスペースにある座席などをすべて取り外し上半分にも貨物コンテナを搭載する形で貨物を運びます。