事業用不動産への投資は2013年以降最低に
■2019年Q1投資額は対前年同期比30%減の7,610億円、全投資主体で投資額が減少
今期(Q1)の事業用不動産の投資額(10億円以上が対象、土地取引およびJ-REITのIPO時の取得物件は除く)は対前年同期比30%減の7,610億円、Q1の投資額としては2013年以降で最低だった。投資主体別投資額においてもすべての投資家が前年同期より減少。J-REITの減少額がもっとも大きかった。市場での売り物件が少ないなか、J-REITはスポンサーのパイプラインを活用した取引が引き続き主体となっている。また、今期はポートフォリオの質の改善を目的とした買い替えが多く、公募増資による取得が大幅に減少したことが投資額減少の背景にあると考えられる。
■東京の期待利回りはオフィスを含む4アセットタイプで最低値を更新
CBREが四半期ごとに実施している「不動産投資に関するアンケート‐期待利回り(2019年4月時点)」によれば、東京の期待利回り(NOIベース)の平均値は、前期から横ばいとなった商業施設とマンション(ワンルーム)を除く、オフィスなどの4アセットタイプで低下し、最低値を更新。また、地方都市のオフィス期待利回りも4都市(大阪、名古屋、仙台、福岡)で最低値を更新した。
投資家の「物件の選別眼」はさらに厳しく
■資金調達環境の悪化や投資意欲の減退は見られない
2019年4月時点の東京Aクラスビルを対象としたCBRE短観(DI)は、すべての項目で悪化。悪化幅がもっとも大きかったのは「金融機関の貸出態度」DI(対前期比8ポイント減)で、「さほど厳しくない」の回答率増加が要因。他の項目については「変わらない」の回答率増加が要因だった。一方、物流施設(首都圏、マルチテナント型)においては、「賃料」「空室率」「期待利回り」の3項目のDIが前期から改善、残り4項目が悪化した。悪化幅がもっとも大きかったのは「投融資取り組みスタンス」DI(同12ポイント減)で、「現状を維持」の回答率が8ポイント増加したことが要因。
■投資姿勢はより選別的に
CBREが2019年1月に実施した投資家意識調査によれば、投資意欲は2018年と比べて衰えていないことがわかった。また、今期の期待利回りやCBRE短観を見ても、Q1に投資意欲が衰えたとは考えにくい。しかし、物件が少なく、不動産価格が高止まりしていることに加えて、世界経済に対する懸念が高まっていることから、投資家はより選別的になっている。同調査結果によると2019年の売却意欲は前年よりやや減退した。タイトな需給バランスが続くことにより投資額は伸び悩む可能性がある。
■投資額減少は前年同期からの反動減も一因
今期(Q1)の投資額が減少した一因は、投資額が伸長した前年同期からの反動減もある。前年同期はJ-REITが2005年の調査開始以来最大を記録し、他の国内投資家による1,000億円を超える大型案件があるなど投資額は大きく伸長した。一方、今期は100億円を下回る中小型案件の減少が目立ち、大型案件の取引も少数にとどまった。
■商業施設とホテルで投資額が増加
アセットタイプ別投資額は、商業施設が1,190億円で対前年同期比93%増加、次いで多かったホテルは1,170億円で同70%増加した。いずれのアセットタイプもJ-REITを含む国内投資家がけん引した。一方、地域別では全地域分類で投資額は減少。減少幅がもっとも大きかったのは首都圏(同42%減)、次いで地方都市(同40%減)だった。どちらの地域もJ-REITによる物流施設の投資額減少が主因だった。