不透明感増す世界情勢の影響で不動産投資額減少
■アウトバウンド不動産投資額は2年連続減少
日本からのアウトバウンド不動産投資額は19.3億ドル、対前年比29%減。日米金利差拡大による為替ヘッジコストの上昇で投資利回りが低下したことが主因と考えられる。さらに、米中貿易摩擦により世界経済に対する懸念が高まり、投資家がやや慎重になったことも要因として考えられる。
投資先地域別の投資額を見ると、北米への投資額(11.5億ドル)は全体の6割を占めたものの、前年から51%減少。一方、アジア太平洋地域への投資額は5.3億ドルで2005年以降最大となった。
■投資先は米国に集中、アセットタイプは分散
投資先国別投資額割合は米国が60%を占めた。米国への投資のうち、アセットタイプ別でもっとも金額が大きかったのは「ヘルスケア施設」で、全体の34%を占めた。高齢化社会における成長戦略としてヘルスケア事業に注力する商社が、米国でビジネスを積極化した。なお、投資件数では住宅への投資がもっとも多く、そのうち約半数がシアトルでの取引。グローバル企業の本社が集積して住宅需要が高まっている都市に対して日本の投資家も関心を高めている。
一方、日本の投資家は米国以外ではオフィス投資に集中。米国を除くその他の国における投資では実に93%がオフィスであった。その投資先は英国などの先進国である。
■アウトバンド不動産投資のけん引役は「不動産会社・商社」
投資主体別の投資額割合は「不動産会社・商社」が53%で、引き続きアウトバウンド投資をけん引。ただし、投資家の裾野は徐々に拡大しつつある。「不動産会社・商社」の割合は前年から20ポイント低下した一方、「事業会社」や「ファンド」などが増加した。「ファンド」による投資で目立った取引はシンガポールでのオフィス取引。アジアへの投資額増加の主因となった。
投資姿勢はさらに慎重になる傾向
2019年の見通し
■アウトバウンド不動産投資の意欲はやや低下
投資先は引き続き米国:2019年の予定投資先は前回調査と同じ結果となった。全回答者の76%が米国と回答。次いで英国(33%)とベトナム(19%)の順だった。
投資における課題は「信頼できるパートナー、ゲートキーパーの不在」:アウトバウンド投資の課題として選ばれた上位2つは「信頼できるパートナー、ゲートキーパーの不在」(24%)、「対象国の法制度」(23%)。
投資意欲はやや低下:「2019年の投資額は前年と同じか増える」と回答した投資家は全体の83%、前回調査の96%から13ポイント減少した。「前年と同じ投資額」と回答した投資家が増加したことが主因。ただし、投資額を「減らす」と回答した投資家はいなかった。CBREが実施した別調査によると、前年より選別的に投資すると回答した投資家は全体の48%に上った。投資姿勢はより慎重になってきているようだ。
■アウトバウンド不動産投資、機関投資家が本格始動
2019年は機関投資家によるアウトバウンド投資が本格化する見通しだ。2018年9月、年金積立金管理運用独立行政法(GPIF)は海外のオルタナティブ資産にファンド・オブ・ファンズ形式で投資するための運用受託機関を選定した。2018年9月末時点のGPIFの運用資産総額は約165.6兆円。オルタナティブ資産はその5%を上限とする方針で、不動産もその中に含まれる。このほかにも、大手生命保険会社が、買収した海外の運用会社を足がかりにアウトバウンド投資を積極化しつつある。