競合の製品・サービスをマネすればいいわけではない
本連載の第5回で「中小企業は基本的に模倣戦略路線を取りつつも、うまく舵取りをしながら、状況を捉えて差別化戦略で勝負にでるべき」という提案をしました(関連記事『中小企業の競争戦略…「差別化」と「模倣」を融合させるには?』)。今回は、その「模倣戦略」について、さらに詳しく解説したいと思います。
①「TTP(徹底的にパクる)」と「BTP(部分的にパクる)」
経営資源が脆弱な中小企業にとって模倣戦略は、自らの生存確率を高めるという観点から効果的であり、それに加えて容易に活用できることから、利便性の高い戦略といって差し支えないかと思います。ここでは、模倣戦略を次の通り2種類に単純化して考えることにしましょう。
TTP(徹底的にパクる)を正当化する理由
経営資源が脆弱な中小企業にとって、既に市場の存在する「デファクトスタンダード」に正面から抗って、勝ちに持ち込もうとするのは難易度の極めて高い戦いでしょう。
そういう意味では立場の弱い中小企業にとって、TTPを選択することは一つの自然な流れといえるでしょう。
BTP(部分的にパクる)を正当化する理由
これはいわば、模倣戦略と差別化戦略の折中状態にあるといっていいでしょう。TTPよりも新規性を伴うため、市場に提供する付加価値の増加も期待できることから、より好意的に受け止められるべき戦略です。
また、差別化戦略を採用する場合、当たった時のリターンが大きい一方で、リスクもそれなりに伴いますが、顧客が慣れ親しんでいる現況下で小さな差別化を提供するBTPは当たりはずれのリスクが低い無難な戦略ともいえます。
②単なる「パクリ」でなく「オマージュ」であること
これは注意的に示しておきたいと思います。ひと昔前でしょうか、アジアの主要プレイヤーが日本の電機製品などを購入し、徹底的に分析して自社製品に活用して、競争関係を一変させたことはご存じでしょう。
しかし、競合の製品・サービスをただマネをすればいいわけではありません。会社というものは、上場していようと非上場であろうと、ステークホルダーを中心に多かれ少なかれ周りの目を意識して行動することが求められます。そのため、模倣戦略に基づき競合を出し抜くには、節度を踏まえた行動が望ましいのです。
その境界線ともいえるキーワードが「オマージュ」です。
新たな市場の創出には「差別化」戦略が必要となる
中小企業は自らの採用する製品・サービスが「オマージュなのか、それとも単なるパクリなのか?」ということに注意を払う必要があります。
「オマージュ」(homage)とは、フランス語を語源とする単語で、「敬意」「賞賛」を表す言葉であり、基本的に「特定の対象物をリスペクトする結果、当該対象物と内容が似るもしくは意図的に似せること」という意味で使います。
オマージュと似ているようで意味が異なり、受け手の印象が全く異なってくるのが「パクリ」です。パクリとは、悪質な模倣を指す言葉で「盗作」「盗用」などと同じ意味を持つものです。
オマージュとパクリの間に明確な違いがあるわけではなく、線引きが難しいのも事実です。実際、主観で判断されるケースも多いでしょう。
そこで、差別化戦略・模倣戦略との関係で、誤解を恐れず以下のように定義してみます。
競合の製品・サービスに対するリスペクトの念がある模倣は「オマージュ」。そうではなく、そのまま流用・転用することを「パクリ」。
定義が不明瞭であるため、どちらに該当するかという判断が主観的であるという問題がありますが、いずれにせよ企業として矜持を持つことが、模倣戦略を遂行する際に誠実な態度として求められるのではないでしょうか。
③「模倣戦略」は中小企業の基本戦略ではあるものの…
さて、あらためてTTP、BTP、ならびにMTPを経営学的に比較してみると次の[図表2]のように整理できるでしょう。
経営資源が限定的な中小企業にとって、模倣戦略が基本戦略であるといえますが、次に示すように、それで終わってはいけません。
TTPの問題点
この戦略に頼り続けることは、ミクロ・マクロ両者の観点から望ましいとはいえないので、次のステップについて考える必要があるといえます。
【ミクロ的問題】
TTPは、自らの生存確率を高めることを目的とした、本来企業が備えるべきある意味の攻撃性が欠落した受動的な戦いに過ぎません。
【マクロ的問題】
個別企業ベースで生存だけを目的とした場合、TTPは好ましい戦略かもしれないが、マクロ的観点からすれば、日本経済を沈滞させる流れを加速させかねない危険な戦略ともいえるでしょう。
BTPの問題点
BTPには市場をブレイクスルーするまでの力強さは持ち合わせていません。
前述の通り、イノベーティブな側面を有するものの、あくまで現状の延長線上のものにすぎません。よって、ここからは経営者の判断に依拠する部分ではありますが、企業の存在意義を考えるに際して、根本的にダーウィンの進化論のように捉えるべきではないでしょうか。
つまり、リスペクトされる(=他社からオマージュされる)経営者を目指して、もう一歩踏み込んで差別化戦略の実行までに昇華させることが、自分への問いかけとしても、周りから見ても、期待されているのではないでしょうか。