※本連載では、公認会計士・米国公認会計士の資格を持ち、数々の企業でコーポレートファイナンスを通じて新たなスキームを構築してきた株式会社H2オーケストレーターCEOおよび一般社団法人M&Aテック協会代表理事である・久禮義継氏が、新時代に中小企業が生き残るための経営戦略を提案していきます。

競合の製品・サービスをマネすればいいわけではない

本連載の第5回で「中小企業は基本的に模倣戦略路線を取りつつも、うまく舵取りをしながら、状況を捉えて差別化戦略で勝負にでるべき」という提案をしました(関連記事『中小企業の競争戦略…「差別化」と「模倣」を融合させるには?』)。今回は、その「模倣戦略」について、さらに詳しく解説したいと思います。

 

①「TTP(徹底的にパクる)」と「BTP(部分的にパクる)」

経営資源が脆弱な中小企業にとって模倣戦略は、自らの生存確率を高めるという観点から効果的であり、それに加えて容易に活用できることから、利便性の高い戦略といって差し支えないかと思います。ここでは、模倣戦略を次の通り2種類に単純化して考えることにしましょう。

 

[図表1]注※後で「模倣戦略」と「差別化戦略」との融合について触れるため、ここでは差別化戦略をMTP(単なる言葉遊びですが・・・)と称しながら補足的に追加しています
[図表1]
※後で「模倣戦略」と「差別化戦略」との融合について触れるため、ここでは差別化戦略をMTP(単なる言葉遊びですが…)と称しながら補足的に追加しています。

 

TTP(徹底的にパクる)を正当化する理由

経営資源が脆弱な中小企業にとって、既に市場の存在する「デファクトスタンダード」に正面から抗って、勝ちに持ち込もうとするのは難易度の極めて高い戦いでしょう。

 

そういう意味では立場の弱い中小企業にとって、TTPを選択することは一つの自然な流れといえるでしょう。

 

BTP(部分的にパクる)を正当化する理由

これはいわば、模倣戦略と差別化戦略の折中状態にあるといっていいでしょう。TTPよりも新規性を伴うため、市場に提供する付加価値の増加も期待できることから、より好意的に受け止められるべき戦略です。

 

また、差別化戦略を採用する場合、当たった時のリターンが大きい一方で、リスクもそれなりに伴いますが、顧客が慣れ親しんでいる現況下で小さな差別化を提供するBTPは当たりはずれのリスクが低い無難な戦略ともいえます。

 

②単なる「パクリ」でなく「オマージュ」であること

これは注意的に示しておきたいと思います。ひと昔前でしょうか、アジアの主要プレイヤーが日本の電機製品などを購入し、徹底的に分析して自社製品に活用して、競争関係を一変させたことはご存じでしょう。

 

しかし、競合の製品・サービスをただマネをすればいいわけではありません。会社というものは、上場していようと非上場であろうと、ステークホルダーを中心に多かれ少なかれ周りの目を意識して行動することが求められます。そのため、模倣戦略に基づき競合を出し抜くには、節度を踏まえた行動が望ましいのです。

 

その境界線ともいえるキーワードが「オマージュ」です。

新たな市場の創出には「差別化」戦略が必要となる

中小企業は自らの採用する製品・サービスが「オマージュなのか、それとも単なるパクリなのか?」ということに注意を払う必要があります。

 

「オマージュ」(homage)とは、フランス語を語源とする単語で、「敬意」「賞賛」を表す言葉であり、基本的に「特定の対象物をリスペクトする結果、当該対象物と内容が似るもしくは意図的に似せること」という意味で使います。

 

オマージュと似ているようで意味が異なり、受け手の印象が全く異なってくるのが「パクリ」です。パクリとは、悪質な模倣を指す言葉で「盗作」「盗用」などと同じ意味を持つものです。

 

オマージュとパクリの間に明確な違いがあるわけではなく、線引きが難しいのも事実です。実際、主観で判断されるケースも多いでしょう。

 

そこで、差別化戦略・模倣戦略との関係で、誤解を恐れず以下のように定義してみます。

 

競合の製品・サービスに対するリスペクトの念がある模倣は「オマージュ」。そうではなく、そのまま流用・転用することを「パクリ」

 

定義が不明瞭であるため、どちらに該当するかという判断が主観的であるという問題がありますが、いずれにせよ企業として矜持を持つことが、模倣戦略を遂行する際に誠実な態度として求められるのではないでしょうか。

 

③「模倣戦略」は中小企業の基本戦略ではあるものの…

さて、あらためてTTP、BTP、ならびにMTPを経営学的に比較してみると次の[図表2]のように整理できるでしょう。

 

[図表2] 注1※持続的イノベーションとは、既存市場を対象として、性能や価値を向上する活動をいいます。戦後の日本の高度経済成長を支えたイノベーションの類型であり、一般的に大企業や優良企業が得意とします。しかしながら、独りよがりで高い付加価値をつけているとの思い込みのリスク(顧客のニーズやウォンツを超過するものを提供するリスク)がある点に注意が必要です  注2※破壊的イノベーションとは、思考・戦略立案・行動の大胆な変更や技術革新などを通じて、既存の製品・サービスを大幅に上回る付加価値の提供を実現するものです(例.驚異的な低価格化を実現、ユーザビリティを大幅に改善、抜本的な小型化を実現)。これは、既存顧客との太いリレーションがネックとなるため、大企業や優良企業にとって手を出しにくいものと言われています。破壊的イノベーションは、既存市場にカオスを持ち込むため、新たな市場を創出する可能性があります。そして、場合によっては、既存市場の外側から突然発生し、既存顧客を奪い取る場合もあります。
[図表2]
(注1)持続的イノベーションとは、既存市場を対象として、性能や価値を向上する活動をいいます。戦後の日本の高度経済成長を支えたイノベーションの類型であり、一般的に大企業や優良企業が得意とします。しかしながら、独りよがりで高い付加価値をつけているとの思い込みのリスク(顧客のニーズやウォンツを超過するものを提供するリスク)がある点に注意が必要です。
(注2)破壊的イノベーションとは、思考・戦略立案・行動の大胆な変更や技術革新などを通じて、既存の製品・サービスを大幅に上回る付加価値の提供を実現するものです(例.驚異的な低価格化を実現、ユーザビリティを大幅に改善、抜本的な小型化を実現)。これは、既存顧客との太いリレーションがネックとなるため、大企業や優良企業にとって手を出しにくいものといわれています。破壊的イノベーションは、既存市場にカオスを持ち込むため、新たな市場を創出する可能性があります。そして、場合によっては、既存市場の外側から突然発生し、既存顧客を奪い取る場合もあります。

 

経営資源が限定的な中小企業にとって、模倣戦略が基本戦略であるといえますが、次に示すように、それで終わってはいけません。

 

TTPの問題点

この戦略に頼り続けることは、ミクロ・マクロ両者の観点から望ましいとはいえないので、次のステップについて考える必要があるといえます。

 

【ミクロ的問題】
TTPは、自らの生存確率を高めることを目的とした、本来企業が備えるべきある意味の攻撃性が欠落した受動的な戦いに過ぎません。

 

【マクロ的問題】
個別企業ベースで生存だけを目的とした場合、TTPは好ましい戦略かもしれないが、マクロ的観点からすれば、日本経済を沈滞させる流れを加速させかねない危険な戦略ともいえるでしょう。

 

BTPの問題点

BTPには市場をブレイクスルーするまでの力強さは持ち合わせていません。

 

前述の通り、イノベーティブな側面を有するものの、あくまで現状の延長線上のものにすぎません。よって、ここからは経営者の判断に依拠する部分ではありますが、企業の存在意義を考えるに際して、根本的にダーウィンの進化論のように捉えるべきではないでしょうか。

 

つまり、リスペクトされる(=他社からオマージュされる)経営者を目指して、もう一歩踏み込んで差別化戦略の実行までに昇華させることが、自分への問いかけとしても、周りから見ても、期待されているのではないでしょうか。

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