※本連載では、公認会計士・米国公認会計士の資格を持ち、数々の企業でコーポレートファイナンスを通じて新たなスキームを構築してきた株式会社H2オーケストレーターCEOおよび一般社団法人M&Aテック協会代表理事である・久禮義継氏が、新時代に中小企業が生き残るための経営戦略を提案していきます。

いかに「目立たないか」が中小企業の成功のカギ

本連載では、中小企業が取るべき「差別化戦略」と「模倣戦略」について、これまで3回に渡って解説してきました。今回は4部作の最終回としてお送りいたします。

 

最初にこれらの+α(プラスアルファ)として重要なポイントを2つ示し、それから結論を述べることにしましょう。

 

(1)「目立たないことが正義」(ステルス)

「ステルス(Stealth)」とは、軍用機等の兵器をレーダー等のセンサー類から探知され難くする軍事技術の総称をいいます。

 

人は何かを成しえた時、皆に賞賛を浴びたい欲望がある場合には、目立ちたがる本性があります(SNS上での発信・発言等)。しかし、中小企業が差別化戦略を採用しようとする時にそのような姿勢は命取りになるリスクがあります。

 

いかに同業の中小企業の中で目立たないか、あるいは大企業に気づかれないかが成功を維持し続けることの秘訣なのです。一概にはいえませんが、中小企業の場合の「差別化した商品」は複雑で解読しにくいものではないケースが決して少なくはありません。

 

皮肉な話ですが、差別化していることを競合の企業が察知すれば、彼らは同質化戦略を採用して追っかけてくる可能性があるのです。

 

これが相手が大企業ならなおさらです。差別化、差別化といって得意になって手の内を見せびらかすと、経営資源が余りあり、コスト競争力が強い大企業によって、すぐに片手で捻られてしまう可能性があります。

スリップストリームアタックを仕掛けるタイミング

(2)「スリップストリームアタック」

カーレースの「スリップストリームアタック」というのはご存知でしょうか?

 

スリップストリームアタックとは、「先行で高速走行するスポーツカーの後方に向かって発生するらせん状の空気流を利用して、当該競争相手を抜き去る際に用いられる技術」のことをいいます。つまりは相手を風防として利用した後、ゴール間際の最後に抜き去る戦略です。

 

これを本連載に当てはめると、前述の「ステルス」にTTP戦略からBTP戦略(関連記事『パクリかオマージュか…中小企業がとるべき「模倣戦略」とは?』参照)、さらには差別化戦略に至るまでを推し進め、タイミングを見計らって一気にこの「スリップストリームアタック」でゲリラ戦を仕掛ける、ということです。

 

なお、実際に「スリップストリームアタック」を行うタイミングですが、企業として次のような要素が揃った頃を見計らって考えればいいのではないでしょうか。

 

…戦術の明確化(優れた知将による戦い方の整理)

…経営資源の準備状況(兵糧の蓄え度合い、いい武器を取り揃えたかどうか、一定数の質のいい戦士の確保)

経験…差別化戦略の成熟度(戦闘への慣れ)

 

ただ、この場面でも大企業に対してゲリラ戦を仕掛けるのはよほどの独自性がないと無謀な戦いになる可能性があります。そこで、まずは近隣で競合する中小企業を相手にすればいいかと思います。

 

中小企業は軽自動車のように非力ではありますが、小回りは効きます。この特性を最大限に活かしましょう。

 

まとめとして、改めて整理しましょう。

 

中小企業は、上記したポイント2点、「ステルス」と「スリップストリームアタック」を活かして、次のようなフローで戦いに挑むことが成功の確率を高めるのではないでしょうか。

 

[図表1]注…場合によっては大企業
[図表1]注…場合によっては大企業

 

一つ例示として、企業ライフサイクルに沿った説明を加えておくことにしましょう。

 

中小企業がまだ設立より間もない場合(あるいは新規事業に参入した場合)、新参者に過ぎないため、TTP戦略を推し進めることが一般的に安全策と考えていいかと思います(※)。

※ ただしスタートアップは、通常、極めて斬新な製品・サービスを提供することを前提に事業を立ち上げることを想定していますが、例示を単純化させる都合上、当該のシチュエーションは除外しています。

 

その後、次第にその市場や競争環境に慣れてくると、BTP戦略を採用しながら、さらに自社独自の強みや個性が出せるように継続的にピボットして行きます。

 

そして、中小企業がさらにプレゼンスを確保していって成長期から成熟期に差し向かう局面になれば、ある程度前述した準備が整っているはずです。ここで本格的に差別化戦略を推し進め、上述のタイミングを見計らって勝負に打って出るのです。

 

[図表2]
[図表2]

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