株式会社松堀不動産、代表取締役社長堀越宏一氏の著作『利回り20%を実現する コインランドリー投資』より一部を抜粋し、アパ・マン投資の懸念点を具体的な数字から見ていきます。

入居者獲得のために繰り広げられる、熾烈な競争

投資家が手放しで行える事業の代表といえば、アパート・マンション投資でしょう。運営を管理会社に任せてしまえば、掃除などの日ごろのメンテナンスはもちろん、入居者募集から周辺住民のクレーム対応、集金まで委託できます。

 

さらに、管理会社と一括借り上げ契約を結んでしまえば、入居者がいようといまいと毎月一定の金額が支払われるので、収入の心配から一切開放されます。オーナーがやることといえば、入金日に通帳を確認することぐらい。まさに手放しの経営が実現できます。

 

以前のアパート・マンション投資は、地主の土地活用方法として知られていました。しかし、2000年発売のベストセラー『金持ち父さん 貧乏父さん』の「資産とは、あなたのポケットにお金を入れてくれるもの。だからお金を生み出す資産を持つべきだ」という主張を一つのきっかけに、アパート・マンションは一気に一般的な投資対象としてブームになりました。

 

さらに、昨今の金利の低下によって、ブームは加速。年収数百万円のサラリーマン大家も増え、その結果、現在のアパート・マンションの投資市場は、完全に飽和状態となりました。

 

特に築20年以上の古い物件の割合が多く、レインズ(不動産流通標準情報システム)のデータによると、東京都のアパートとワンルームマンションのうち築20年を超える割合は約57%。私たちの会社がある埼玉県では約65%を占めています。実に半分以上が築20年以上の古い物件なのです。

 

ただでさえ古い物件は、個々の状態の優越にかかわらず入居希望者から敬遠されがちです。しかも築20年以上の物件は、バブル期の「なんでも売れるから建ててしまえ」という勢いで建築されたものが多いという特徴があります。広さは16㎡程度と狭く、バス、トイレ、洗面台が一緒になったいわゆる3点セットの物件ばかり。最近の郊外などの1K物件は25㎡前後が主流ですから、間取りからしてかなうはずがありません。

 

「古い物件でも家賃を下げれば大丈夫」というのはとっくの昔の話で、現実にはどんなに家賃を下げても空室が埋まらない物件が続出しています。その証拠に賃貸住宅の空室率は年々上昇しています。例えば、首都圏の2016年11月と2018年10月の空室率を比較すると次のような状況です。

 

東京都 :11.5%→13.44%

神奈川県:15.38%→16.55%

埼玉県 :17.71%→16.62%

千葉県 :15.5%→16.23%

出典『賃貸住宅市場レポート(2018年12月)』(株式会社タス)

 

埼玉県のみ若干改善していますが、それでも16%強。決してよい数字ではありません。地方に比べて安定した賃貸経営が行えるといわれる首都圏でさえ、空室率は上昇しているのです。特に木造・軽量鉄骨造アパートは事態が深刻で、例えば神奈川県の場合は、空室率が41%を超えています。今後は人口減がさらに進行するので、入居者探しはより困難を極めるはずです。

 

このような事態に対応するために一括借り上げ契約がある、と思うかもしれません。しかしこの契約が成り立つのは、あくまで管理会社も利益が確保できることが前提です。そのため、周辺地域の家賃値下げが激化すれば契約更新ごとに一括借り上げの家賃も下げられてしまいます。その結果、キャッシュフローがマイナスになり、赤字経営を続けているオーナーが年々激増しているのです。

築古物件は、突然の不具合にも手を焼きがち

また、古い物件は、突然の不具合にも手を焼きがちです。例えば、私たちのお客様でこういった事例がありました。

 

ある40代会社員のお客様が、数年前に初めて投資用の賃貸物件を購入したときの話です。その物件は、築34年のオーナーチェンジ物件でした。最寄りの駅から徒歩5分と立地がよく、購入時は満室だったにもかかわらず、比較的安価だったので室内も確認せず契約。すると2カ月後に16年間住み続けた入居者が退去しました。

 

そこで、管理会社から新しい入居者を迎えるためにリフォームを提案され、金額を確認したところ、壁紙や床材の総張り替え、給湯器とガスコンロの交換などで60万円とのこと。お客様は「そんなにかかるのか!?」と驚きながらも支払いました。

 

すると今度は1カ月後に入居者から管理会社経由でクーラーが壊れたという連絡が入りました。すぐに修理の手配を依頼しましたが、20年以上前の窓設置型で部品がないことが判明。ならば新品のエアコンに交換しようとしましたが、そもそも壁付けのエアコンの設置を想定していない建物だったので、室外機の置き場を確定するのに約1週間かかりました。

 

入居者はその間は猛暑でいられないと、ホテル滞在を希望。その代金数万円はお客様が負担することになりました。

 

古い物件は、いつこのようなトラブルに見舞われるか分かりません。では、古い物件を売って新築を買えばいい、という意見もあります。確かに大手販売会社を中心に、まだまだ供給の手を緩めていないところは存在しています。ローン金利も、借りられればという条件付きですが、この先も低水準が続くでしょう。

 

ところが、都内や首都圏の好立地の地価はすでに上昇へ転じています。例えば、2018年9月に発表された埼玉県の基準地価の商業地は、5年連続でプラス。住宅地も2年連続でプラスとなり、特に都心から離れた地点で高い伸び率となりました。私たちの会社がある埼玉県東松山市の住宅地では、前年比7%の伸びを示した地点もあります。

 

人口減、さらにシェアハウス問題などで融資条件が厳しくなっている昨今に、地価が上がった物件を購入するのは賢い選択といえるのでしょうか。これから物件数が増えていけば、入居者獲得競争はさらに激化するのは火を見るよりも明らかです。

 

家賃を維持するためには積極的にリフォームを行わなければならないでしょう。しかし、多くの投資家は毎月ぎりぎりのキャッシュフローのはず。少しでも出費は避けたい。ならばと家賃を下げて入居率を上げようとした場合、モラルが低い入居者も集まるので、周辺住民からのクレームや家賃の滞納などに悩まされる可能性が高まります。

 

その上、最近の入居者募集の際には、仲介会社から広告料を求められることが多くなっています。相場は家賃1〜2カ月分といったところでしょうか。これに加えて入居希望者から1~2カ月分のフリーレントなどを求められたら、本当に旨味のない商売となってしまいます。

売却にも解体にも多額の費用が…

アパート・マンション投資の市場は、このように八方塞がり状態なので、私たちの会社には「どうか物件を買ってほしい」という人が駆け込んできます。その多くが「他社へ管理を任せていたら、1年以上入居率2~3割のまま。だから仕事をしていても、家でご飯を食べていても頭の中では空室のことばかり考えている。もうこんな生活は耐えられない」というケースです。

 

また、「管理会社を4~5社変えたが、空室は埋まらないまま」という管理会社ジプシーのような人も少なくありません。このような状態で売りに出される物件は、当然ながら買い叩かれます。では、掘り出し物として市場に出るのか、といえばそうではないのが現実です。

 

例えば、築古アパートで満室時の年間家賃収入が1000万円だとして、業者へ5000万円で売るとします。つまり利回りは20%です。これを業者は、ネットワークのある同業者へ利回り15%で転売します。そして、同業者は新たな投資家へ利回り10%で売るのです。要するに掘り出し物として買えたのは業者だけ。

 

不動産投資は、ババ抜きです。しかもババをつかまされるのは、いつも知識の少ない一般投資家なのです。特に最近は投資物件が余りに余っているので、このように投げ売りされるババ物件がどんどん増えています。

 

「そんな状態になるくらいなら、更地にして売ってしまおう」という考えもあります。しかし、更地にするには現在の入居者に退去してもらわなければなりません。その際、交渉が決裂して100万円単位を請求されることもあります。3人いれば300万円以上の出費です。

 

さらに、建物を解体する際は、たとえ木造でも坪3万円くらいかかります。延床面積50坪なら150万円です。退去費用を合わせると約450万円。この多額の出費に耐えられる一般投資家はかなりの少数派ではないでしょうか。

 

アパート・マンション投資の出口戦略は、我々プロでも非常に難しいといえます。ましてこの大空室時代。それでも新規参入する旨味はあるのでしょうか。

 

 

堀越 宏一
株式会社松堀不動産 代表取締役社長

 

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堀越 宏一

幻冬舎メディアコンサルティング

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