土地、建物、機械を購入して経営する大きなメリット
コインランドリーを開店する際の土地、建物、機械について考えてみましょう。日々の掃除や集金などの煩わしいルーティンワークを外部に委託し、手放し経営を実現するためには、管理業務の専門業者をパートナーとして開店させる必要があります。
コインランドリーの管理を行う専門業者の多くは開業支援も行っており、スタートダッシュとともに長期的な安定経営を目指すなら出店の企画段階からこれらの業者をパートナーとするべきでしょう。
ところが、その業者のほとんどのビジネスモデルは、土地や建物を借りてテナントとして出店し、機械はリースする手法です。これは初期費用が安く済むものの、土地、建物、機械を購入する手法と比べると圧倒的にメリットが少ないと言わざるを得ません。さらに私は、建物は中古を購入するのではなく、新築するべきと考えています。そのメリットは次のように複数あります。
•利益が出やすい
土地付き建物を借りて、機械はリース契約を結んで開店する場合、当然のことながら毎月家賃とリース料を支払うことになります。
リースは一般的に7年契約です。月間100万円以上の売上を狙うなら、それなりの台数が必要なので、機械の合計金額は2000万円以上になるでしょう。そのリース料は月々30万円前後となるはずです。
これに我々が出店している都市近郊の相場である坪単価5000円から8000円の土地付き建物を100坪借りた場合、賃料は50万円以上かかります。従って、賃料とリース料だけで毎月80万円の出費となってしまいます。それにガス、水道、電気代、洗剤代なども加わるので、月に100万円の売上があったとしても利益はほとんど残りません。
一方で土地と建物を購入する場合は、金融機関から融資を受けることが可能です。しかも機械代込みで、です。融資期間は15年から20年とリース期間よりも圧倒的に長期です。加えて昨今の低金利ですから、前述と同条件の土地、建物、機械であっても月々の返済は40~50万円に抑えられます。
つまり、「土地、建物を借りる+機械はリース」よりも月々30万円前後の利益が上乗せできることになるのです。なお、長期ローンを組むには建物を新築にした方が有利です。築年数が古くなればなるほど価値が下がり、それに比例して融資期間も短くなるからです。
ローン期間の一般的な上限は、木造建築の法定耐用年数である22年ですが、この期間が認められるのは、かなり属性の高い人に限られるので、ほとんどのケースで現実的ではないでしょう。
•融資を利用しやすい
「土地を買うのはハードルが高いので、機械だけでも融資で買う」と考える人もいるかもしれません。7年リースよりも長期でローンを組めるなら、キャッシュフローはより良くなります。ところがほとんどの金融機関は機械の担保価値を認めないでしょう。従って、よほどの例外でない限り融資を受けることができないのです。
融資を受けることができなければ、ある程度の現金を用意して機械を購入するか、毎月多額のリース料を支払うしかありません。一方で土地・建物と一緒に購入するのであれば、融資がつく可能性は格段に上がります。機械代をそのローンに組み込むことができるのです。
•最終的に自分の資産となる
借りている土地や建物は、どれだけ長期間、賃料を支払っても、自分のものにはなりません。また、機械をリースした場合、その契約期間が終了しても、やはり自分のものにはなりません。さらに使用したければ再リース契約を結ぶことになります。
一方で土地、建物、機械を、融資を利用して購入すれば、完済後は自分の資産となります。そのまま営業を続ければ売上はまるまる自分のものとなり、売却すれば多額の現金を手にできます。さらにローンの返済は、毎月の売上で全て賄えてしまうのです。この部分はアパート・マンション投資と同じで非常に大きなリスクヘッジとなります。
•貸主に契約を拒まれることがない
賃貸の場合、契約するか否かの最終的な判断は貸主がします。その際、コインランドリーは、極まれにですが拒まれることがあります。その主な理由は、昔ながらのイメージです。「暗い」「汚い」「狭い」といった印象に加えて、深夜まで営業することから不審者の居座りなども懸念してしまうようです。
貸主の多くは地主で、「先祖代々受け継いだ大切な土地」という強い意識があります。また、長年その場所に住んでいることから世間の目も非常に気にします。ですから必要以上に心配するのでしょう。しかし、土地を購入してしまえば、そもそも開店を拒まれることはありません。
•貸主の都合で退去を迫られることがない
テナントとして開業している場合、その立場は借地借家法で守られています。そのため、きちんと賃料さえ支払っていれば退去を迫られることはないでしょう。
しかし、貸主に正当事由があれば別です。正当事由とは「自己使用」や「建物の老朽化」などです。例えば「貸主が災害で家を失ってしまい、貸している土地に家を建てたい」といったケースがこれに当たります。このような貸主の都合で退去を迫られることがないことも、自己所有店舗のメリットです。
•クレームに対応した専用の建物になる
建物を新築する理由は、融資に有利だからというだけではありません。周辺住民からのクレームも格段に少なくなるのです。家庭用洗濯機の容量は、最大でも12㎏程度です。機械自体の重さは50㎏前後でしょう。
一方でコインランドリー用洗濯機の容量は、国内最大クラスだと35㎏。そして重量は1トンを超えます。これだけの重量物が稼働すると、当然ながら大きな振動が発生します。実はコインランドリー投資においてこれが大きな悩みの種になり得ます。振動が周辺の家にまで伝わり、クレームになることが多々あるのです。
しかし、一般的なロードサイドのテナント用店舗は、当然ながらそのような振動に対応するつくりになっていないでしょう。そのことを知らずに出店し、大きなクレームになっているコインランドリーは意外に多くあります。
まして、マンションの1階などに出店した場合は、直接上の階に振動が伝わるので比較的小型の機械を導入せざるを得ません。これは大容量の機械を使いたがる昨今のお客様の傾向と逆行することになります。この振動の根本的な解決には、コインランドリー専用の建物を新築するしかありません。床と基礎を頑丈にし、地盤の強度によっては地盤補強工事まで行って対処するのです。
また、振動と並んでありがちなクレームが建物からの排気です。一般的な家庭用乾燥機は電気を使用しますが、コインランドリーはよりパワフルなガスを使用します。ガスの力強さがなければ羽毛布団をふわふわに乾かすことができません。ガスの利用には、必ず排気がつきまといます。そのため、中古物件の場合もリフォームして排気口を設けます。
ところが、既存の物件の場合は、設計上の問題で最適な場所に排気口を設けるのは困難です。そのため、隣の民家の窓などに直接吹きかけるようになってしまい、大きなクレームとなることがあります。
想像してみてください。隣に突然コインランドリーができたと思ったら、毎日、夜中も振動が伝わってくる。さらに窓を開ければ生暖かい排気が吹き込んでくる・・・。
ほとんどの人は黙ってはいられないでしょう。10年、20年と長期間安定した営業を続けるのなら、このようなクレームの芽は最初から摘んでおくべきです。コインランドリーを開店させるなら、建物は振動と排気を考慮するべきでしょう。
•入店しやすく、街の安全を考慮した建物になる
建物を新築するメリットには、女性が一人でも入店しやすい設計にできるということもあります。基本的にコインランドリーには常駐スタッフはいません。また、機械の稼働率が12~16%程度なのでほとんどの時間、店内にお客様がいないことになります。
特に女性の中には、この状況では一人で店内に入るのが怖い、という人もいます。店内に不審者が潜んでいるかもしれないと考えてしまうのです。
しかし、建物をガラス張りにして外から店内の隅々まで見えるようにしてしまえば、店外から一目でどんな人がいるか分かるので、そのような心配は無用になります。また、仮に不審者が入ろうとしても外から丸見えなので入りづらくなるでしょう。さらに普段、街灯が少なく暗い道路沿いに、ガラス張りで夜間でも明るく外を照らす店舗があれば、周辺の防犯対策にもなり、周りの住民から喜ばれることにもなります。
開業支援会社がテナントとしての出店を勧める理由
このようにコインランドリー投資は、土地と建物を借りて機械はリースするより全て購入した方が、圧倒的にメリットがあります。では、なぜこの手法が主流ではないのでしょうか。私は各開業支援会社の次のような都合にあると考えています。
•スピード重視
これらの会社は、とにかく早く出店数を増やしたいと考えます。数に比例してフランチャイズの加盟料が増えたり、機械が売れたりするからです。
そのため、テナント用地よりも少ない売地を探している時間はありません。仮に時間があったとしても、投資家に紹介して契約に結び付き、建物を建てるには、どんなに急いでも半年はかかってしまいます。そこまで時間をかけていては、経営が行き詰まってしまいます。
•リスクが大きい
スピードを重視するなら常に中古物件を探して購入し、同時進行で投資家を募集して再販する、という手もあります。しかし、この方法だと、投資家はテナントとして開店するよりも費用がかかり、融資審査などに時間がかかってしまうため、スピード重視の業態には合わないでしょう。また、もし売れ残った場合は自社の負債となってしまうのでリスクが大きすぎます。
•格安の土地を見つけることができない
土地から購入してコインランドリーを開店させるなら、少しでも多くの利益を出すために格安な土地を仕入れることが必須条件になります。ところが、そもそも支援会社の多くは、コインランドリー投資や機械の販売などからスタートした組織です。不動産のプロ(不動産会社)ではありません。
プロならば独自のネットワークを活かして、一般の市場には出ない格安の売地を見つけ出すことができます。
また、土地の売主というものは、契約のキャンセルを極端に嫌がります。しかし、一般人を含む不動産のプロ以外は、契約条件として購入資金のローン審査が通らなかった場合はキャンセルできるとする「ローン特約」をつけたがります。一方で不動産のプロは、土地の売買に慣れていることからローン審査が通ることを確信していますし、万一、通らなかった場合でも潤沢な資金を用意しているので「ローン特約」をつけない契約にも応じることが多々あります。そのため売主はプロと契約したがる傾向があります。
このようなことから不動産のプロ以外は、相場よりも安い土地をコンスタントに仕入れることは不可能なのです。
以上のような理由でほとんどの開業支援会社は、よりメリットの多い土地の購入からの開店をやりたくてもできないというのが実状です。それ故、投資家に対してテナントによる開店を勧めているのです。
この手法は前述のように金融機関からの融資を受けることが困難です。受けることができたとしても日本政策金融公庫など公的機関から1000万円程度を借りられるケースが大半でしょう。従って機械代にも満たないので、残りの初期費用を現金で支払うことを考えれば、よほどの資産家でない限り小規模な店舗になってしまいます。しかし、小規模なコインランドリーに、アパート投資並みの利益は期待できないでしょう。
しかも、小規模故に、近くに大規模な競合店ができてしまえば一気に潰されてしまいます。仮に細々と営業を続けられて融資を完済できたとします。しかし、土地や建物は自分の資産にはなりません。これでアパート・マンションに代わる投資先といえるでしょうか。
堀越 宏一
株式会社松堀不動産 代表取締役社長