遺産分割でもめてしまうと「節税」できないことに
「相続させる立場」から考えると、「財産をオープンにする」ことの抵抗感はあることでしょう。自分が生きているうちから財産をオープンにすると、子どもたちが親の財産を欲しがったり、期待したりして、よくないと考える方もいるはずです。まして、親子で財産やお金の話などするものじゃないと思う方もいることでしょう。
特に問題がなく円満なご家庭でも相続になると神経を使うものです。
中には、すでに、親子、きょうだいで争いをかかえていたり、不和な関係にあり、いまさら修復できないということもあるでしょう。もう何年も会っていない、話をしていないという声も聞きます。特別な理由がなく行き来がないところもあれば、ある明確なきっかけにより疎遠になった場合もあるようです。
とくに明確なきっかけがあった場合や、意図的に距離を置いている場合においては、相続になったからといって関係が円満になることは期待できません。そうした場合こそ、相続の用意は絶対に必要となります。円満な話し合いが期待できないのであれば、遺言書を用意し、いま以上に深刻なもめ事を誘発しないような防止策をしなければなりません。
このような状況にあっても遺言書が残されていないことはよくあることで、案の定と言えるくらい相続人間で争いになっているのです。
<相続を円満に乗り切るポイント>(生前対策の場合)
●普段からコミュニケーションを取る。いざとなってからでは円満にいかない
●財産や生前贈与はオープンにする。疑心暗鬼のもとをつくらない
●一方的な主張にならないように、寄与や介護の役割分担の情報共有をする
●遺産分割でもめないようにしておきたい。もめたら節税できない
<円満な遺産分割協議をするポイント>(相続になってしまった場合)
●代表者が公平な立場で話し合いを進める。一方的な進め方をしない
●財産は隠さず全部オープンにする。オープンにすることで信頼関係を保つ
●寄与や特別受益も考慮し互いに譲歩する。一歩も譲らずではまとまらない
●感情的な話は持ち出さない。前向きな話をして過去のことは持ち出さない
●責め合う場にしないよう配慮する。ひと言が一生許せなくなり縁も切れる
<遺言書を作るときのポイント>
●こっそり作らない
相続人に知らせておくことが大切
●遺産分割は公平にするのが無難
遺留分には配慮しておく
●公平な遺産分割にならないときは理由を明記する
付言事項を活用し、理由や意思を書いておく
●財産のことだけでなく、感謝や気持ちも残す
意思を残すことは最良の説得材料で価値がある
公正証書遺言の作成は自宅や病室でも可能
では、どのような場合に遺言書を用意した方がいいのか、簡単にケースを紹介しましょう。
<遺言を残した方がよいケース>
自分の境遇 【独身・配偶者・子なし】【離婚・再婚】【異父母兄弟】
家族関係 【疎遠・不仲】【同居・介護】【内縁・認知】【行方不明】【代襲相続人】
財産の内容 【不動産がある】【不動産が分けにくい】【同族会社】【家業】
特別な思い 【寄与】【世話】【争い回避】【跡継ぎ】【援助】【遺贈】【寄付】
次のような項目に該当する場合は遺言書を用意しましょう。
☑独身 独身で子どももなく、親か兄弟姉妹が相続人になる
☑子がいない 結婚しているが子どもがなく、配偶者と親か兄弟姉妹が相続人になる
☑相続人がいない 独身で子どもがなく親も兄弟姉妹もいない
☑再婚、認知 先妻、先夫の子どもと後妻、後夫の子ども、認知した子どもがいる
☑代襲相続人 子どもや兄弟姉妹が先に亡くなり、代襲相続人がいる
☑不仲 家族間ですでに争いを抱えていたり、対立している状況がある
☑行方不明、海外在住 相続人が行方不明の場合や海外在住で手続きが複雑になる
☑贈与 すでに贈与した財産を明確にしておきたい
☑寄与 介護や事業に寄与してくれた相続人がいる
☑使用貸借、同居 相続人が同居したり使用貸借している不動産がある
☑遺産分割 相続人に特定の財産を与えたい場合や与えたくない場合
☑援助 援助が必要な相続人に財産を多く与えたい
☑事業後継者 同族会社や個人事業者で、後継者に財産を与えたい
☑遺贈 相続権のない孫や嫁、兄弟姉妹、第三者に遺産を与えたい
☑寄付 お寺、教会、公共団体等に寄付する
次にご紹介するグラフは、「夢相続(※)」が証人となり、公正証書遺言を作られた方の分析データです。
男性よりも女性が多く、70代の方が多いのがわかります。
作成場所は出向ける場合は全国の公証役場ですが、公証人と証人が出張するサービスもあり、自宅、老人ホーム、病院、ホスピスなどのお部屋で作成することもできます。
※株式会社夢相続… 本記事の筆者曽根惠子氏が代表を務める「相続人と専門家が、一緒になって相続をつくりあげていく」日本で唯一の相続対策実務専門会社