※本連載では、公認不動産コンサルティングマスター・相続対策専門士の曽根惠子氏の著書、『変わる相続―家族や時代に合わせた活用術!』(サンライズパブリッシング)から一部を抜粋し、2019年7月から施行される民法改正を活用した「円満な相続」の進め方を紹介します。今回は、民法改正により手軽になった「自筆証書遺言」に関する見直しのポイントと活用例についてです。

自筆遺言書の作成、法務局での保管が手軽になった

自筆遺言書の作成が手軽に

今回の民法改正で最も多くの人にメリットがあるのは、自筆の遺言書の作成が手軽になり、かつ法務局に遺言書を保管できるようになることです。

 

自筆証書遺言においては、財産目録の作成様式が変わります。たとえば財産目録をパソコンで作成したり、銀行通帳のコピーや不動産登記事項証明書などを目録として添付したりできるようになりました。これにより、数が多い財産目録についても、これまでは全部を自筆で書く必要があったので、改正で労力が大幅に緩和されるようになりました。

 

法務局で保管してもらえて検認も不要になる

作成した遺言書は、これまで自宅で保管されることが多く、せっかく作成しても紛失したり、見つからずに捨てられたり、偽造されるなどのケースがあり、問題になっていました。

 

今回、遺言書に関するもう一つの改正ポイントとして、法務局で遺言書を保管してもらえる制度も追加されました

 

いままでは公証人役場で作る「公正証書遺言」が確実でしたが、費用が10万円前後かかり、相続人以外の証人が2名必要とあって、決して手軽とはいえませんでした。

 

今後開始する法務局での遺言書の保管は数百円で済むとされるほか、相続の際に家庭裁判所に「遺言書が確かにあった」ことを確認してもらう「検認」が不要になるなど、メリットが大きいといえます。

 

<自筆証書遺言に関する見直し>

①見直しのポイント

●自筆証書遺言の方式緩和

 

自筆証書に、パソコン等で作成した目録を添付したり、銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書等を目録として添付したりして遺言を作成することができるようにする。

②現行制度

自筆証書遺言を作成する場合には全文自書する必要がある

●現行法の規律 遺言書の全文を自書する必要がある。

[図表1]

③制度導入のメリット

自書によらない財産目録を添付することができる

[図表2]

 

「配偶者のきょうだい」に財産を分けるのは理不尽…

 ケーススタディ 〈子なし〉

自分たちで築いた財産は自分たちで相続したい坂本さん

 

<相続人関係>

□遺言作成者

夫 坂本博さん  50代 大学教授

妻 坂本洋子さん 50代 コンサルタント

 

□推定相続人 夫婦それぞれの兄弟姉妹

 

□家族と相続の状況

同級生夫婦で、共稼ぎ、子どもには恵まれなかった

 

坂本さんは国立大学の大学院の修士課程で学び、博士号を取得しました。現在は私立大学の教授として毎日学生に接しています。学生だけでなく社会人教育にも力を注いでおり、いろいろなセミナーで活躍するとともに、書籍も出版しています。

 

坂本さんご夫婦は高校の同級生で、知り合ってから40年近くなります。子どもに恵まれなかったこともあり、互いに助け合っていまの生活を築いてきました。

 

実家を離れて独立したあと、現在の住まいを購入し、その後、妻が仕事場にしているマンションも購入しましたが、両方とも夫婦の共有名義です。坂本さんの妻もファッション関係の仕事を持っており、ずっと仕事をしてきました。子どもがいれば違った生活だったかもしれませんが、そのお陰で2カ所の不動産を買うことができたのです。

 

二人ともまだ50代ですが、そろそろ先のことも考えないといけない年代になりました。夫婦で築いた財産は、自分の意思できちんとしておきたいという気持ちになり、ご夫婦で相談に来られました。坂本さん夫婦はともに長男、長女で、それぞれ弟、妹がいます。

 

 遺言の内容 〈遺言者坂本博さん・坂本洋子さん〉

 遺言を作る理由 〈配偶者のきょうだいに財産を分けるのは理不尽、争いも避けたい〉

 

坂本さん夫婦のように、子どもがいない場合は、どちらかが亡くなったとき、相続の権利は、亡くなった人の親や兄弟姉妹にも及びます。親から相続した財産であればまだわからなくもないのですが、二人で少しずつ築いた財産についても法律だからといって助けてもらったわけでもない兄弟姉妹に相続させることは納得しがたい気持ちです。

 

自分の兄弟姉妹ならまだいいのですが、配偶者の兄弟姉妹となるとそもそも他人ですから、感情論にもなりかねません。それを避けたいのが二人の本心です。

 

そこで坂本さん夫婦は、互いに「全財産を配偶者に相続させる」とした公正証書遺言を作成しました。これで相続になっても相手の弟妹に気を遣わなくてもよくなったとほっとしたとのこと。相手の弟妹と財産の話をすることは避けたいというところでしょう。

 

遺言がないと困ること

・子どもがいない夫婦の相続人は配偶者と親、あるいは兄弟姉妹となる

・自分で築いた財産でも遺言がないと配偶者が全部を相続できない

・夫婦で築いた財産でも兄弟姉妹に明らかにして分与が必要になる

 

相続実務士からワンポイントアドバイス

子どものいない夫婦は、遺言があれば兄弟姉妹と話し合うことなく相続の手続きができる。兄弟姉妹には遺留分の請求権がないので感情的なもめ事には発展しにくい。

 

<知って得する遺言のイロハ>

・子どものいない夫や妻は遺言を遺しておけば、兄弟姉妹に財産の内容を知らせなくてもすむ

変わる相続 家族や時代に合わせた活用術!

変わる相続 家族や時代に合わせた活用術!

曽根 惠子

サンライズパブリッシング株式会社

40年ぶりに民法が改正され、 いま相続のあり方が大きく変わろうとしています。 おひとりさま、 DINKS、 熟年離婚に熟年再婚、 連れ子の場合・・・相続ってどうなるの? これまでの家族形態が変わったいま、相続の形も時代…

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