「相続のとき」が長年の不平や不満をぶつけ合う場に⁉
相続になると家族の人間模様が浮き彫りになり、隠すことができません。亡くなった方の意思が見えないと相続人はそれぞれ自己主張をし、相手を責め、長年の不平や不満をぶつけ合う場となることもあります。
そうした場面になると相続人の本音のぶつかり合いばかりで、亡くなった方への感謝や尊敬の念は飛んでしまいます。たとえどんなに立派な方でも、最後の締めくくりがそんな状態では、亡くなった方の評価も、残された家族の評価も半減するというものです。そうならないために、どうすればいいのでしょう。
数多くの相続の実例を見てきた経験から言えることは、「生前対策」に限るということです。節税対策も大事なのですが、そうした経済面の対策だけでなく、もめないように感情面の対策をしておくことが不可欠だと言えます。
「相続させる立場」の方にお一人ずつ聞いてみると、いろいろなお気持ちがあることでしょう。では、どうするのがいいのでしょう? その答えはひとつではなく、本当にお一人おひとり違うのが現実です。相続はオーダーメードで考えないといけないのです。
それも、自分の独断でよいかというと、それでは「意思」や「気持ち」は伝わりません。自分の考えや気持ちを話すことでもいいでしょうし、「相続する人」の考えを聞くこともいいでしょう。双方で、普段からコミュニケーションを取っておくことが大切です。
【相続させる人の本音】
●子どもにはお金の存在を知らせるとあてにされそう
●生前にお金を渡すと使われて、なくなってしまう
●親のお金をあてにするような生き方をさせたくない
●お金は最後まで渡したくない
●財産を残すともめ事になるので残さず使い切る など
親子、きょうだいのコミュニケーションは取れているか
「相続する立場」では、どう考えればいいでしょう。「相続は財産を引き継ぐこと」というイメージがありますが、それは一部だということです。親子であれば、子どもとして親に育てられた時期を過ぎ、親が高齢になると、いままでとは逆に子どもが親をサポートしなければならない時期がきます。親の年代が高くなると介護が必要になることもあるでしょう。
そうしたとき、親の希望を聞きながら、子どもはどうサポートし、役割分担をするのか、など全員の意思の疎通をはかることで親子の絆が深まります。こうして、普段から親子、きょうだいでコミュニケーションを取っておくことができれば、互いの信頼関係は保てるでしょう。
戸籍上の親子、きょうだいのつながりだけで普段のコミュニケーションを取っていないまま、相続になり、物理的な財産の話を始めてしまうことがもめる要因となるのです。親子、きょうだいなので、基本的な信頼があると思いたいところですが、普段からの積み重ねがないと信頼関係は保たれないようです。
自分のことに思いを巡らしてみてください。親やきょうだいから、信頼されているでしょうか。
【相続する子どもの本音】
●相続になってもきょうだいでもめたくない
●相続税はできるだけ節税したい
●きょうだいは等分が当たり前
●同居したからといって、財産を多く分けるつもりはない
●相続になる前、早めに財産を分けてもらえば助かる など
しこりを残さない「オープンな相続」とは?
円満に相続を受けるには子どもが親を尊敬し、感謝の気持ちを持っていることが理想でしょう。その上で、きょうだいとも、互いに尊重し合える関係であることが望ましいと言えます。
自分のことや、自分にとって身近な配偶者や子どもとの関係を優先する日常ですから、大人になったいま、親やきょうだいにまで神経を使えないこともあるでしょう。けれども、多くの相続を見てきた経験で言えることは、相続になると、親子、きょうだい間の信頼関係があることが原点ですので、そこに立ち返る気持ちが必要になるということです。
そして、「しこりを残さないオープンな相続にする」ことが大切です。
現在でも、まだ家督相続を踏襲するご家庭が多くあり、家を継ぐ相続人の考えで、家を出た人や嫁いだ人には財産を分ける必要はない、教える必要もないということさえあります。
多くの方は、隠したりせずに話し合いができるのであれば、譲歩してもいいというのが本音です。なのに、隠されるので疑心暗鬼が生まれます。何事も隠さず、オープンにしないともめてしまい、一生悔いが残りますので、できるだけ悔いを残さないようにしておきたいものです。
そうは言っても、とにかく、簡単ではないのが相続です。個人の気持ちやそれぞれの事情、ご家庭や家族の状況などで、全部違うのです。相続の定番やこれで正解ということも見えにくいため、100人なら100通りの相続になります。
そんなことなら、対策しても仕方がないのではと思われるかもしれません。けれども相続の用意をしておくのと、まったくなにもしない場合では、結果は全然違うといえます。