日本全体が機能不全に…東京一極集中がもたらす地震被害とは

今回は、関東大震災のメカニズムと被害状況から、東京を中心とした首都圏が抱える地震のリスクについて考えていきます。本連載は、建築耐震工学、地震工学、地域防災を専門とする名古屋大学教授・福和伸夫氏の著書、『必ずくる震災で日本を終わらせないために。』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、大震災の危険性はどれほど高まっているのか、さらに対策はどれほど進んでいるのかを紹介しながら、防災・減災に向けた早急な対応の必要性を説いていきます。

震災被害…意外な死角は階段とエレベーター

東京は昔に比べて断然、人が多くなっています。今、関東大震災と同じような地震がくれば、東京の人口は当時の4倍に増えていますから、単純に4倍の被害になる可能性があります。

 

世田谷や杉並、板橋などの木造密集地は、火災の猛威がすごいでしょう。それに対して、消防署員が1万8000人ほどの東京消防庁の消火能力では、とても足りません。消防車は渋滞で現場に入っていけず、たどり着けても高層マンションに住む人をどう助けるのか…。横の移動に加えて縦の移動も考えなければなりません。

 

ビルは不燃化されているので、建物自体は簡単には燃えないでしょう。しかし、意外な死角はエレベーターです。今はちょっとした地震でもエレベーターが止まります。首都直下地震では最大3万基のエレベーターが停止し、住宅やオフィスで最大約1万7000人が閉じ込められるとの想定です。その人たちを助けに行ける人はどれだけいるのでしょう。

 

2018年の大阪北部地震は震度5~6弱程度の揺れでしたが、6万6000基のエレベーターが止まりました。大阪府内にある保守エレベーター台数は7万6000基程度で、それほど強い揺れではなかったのに、300人以上の人が閉じ込められ、中で腹痛を訴えて、用を足した人もいたようです。東京都内の保守エレベーターは16万基以上です。これから察するに、首都直下地震での想定は過小に思います。電気も水もなく、狭いエレベーターの中で何日も閉じ込められたら…。最悪、エレベーターの中で餓死する人が出てもおかしくはありません。ぞっとしませんか。

 

エレベーターが止まれば、階段で移動しなければなりませんが、ビルの階段はかなり狭いです。非常階段は火災避難のためにあるからです。ある階で火事が起これば、その上下の階は防火扉で閉めて延焼を防ぐ。だから階段の設計は、せいぜい出火したフロアの人が降りられるスペースしか考えられていないのです。

 

地震の際にビルにいる人全員が降りてくることを想定したら、本来は下の階にいくほど階段の幅が広がっていなければなりません。それができていないということは、上から全員が一斉に降りてくれば、すぐ「ふんづまり」になってしまいます。

 

* たとえ1階までたどり着けても、中高層ビル街の歩道は大変なことになっています。ビルから出てきたおびただしい人で立錐(りっすい)の余地もありません。

 

大正時代の東京市は200万人ぐらいの人口でコンパクトでしたから、郊外に出ればすぐ誰かに助けてもらえました。歩いていけるところに田舎がありました。東京の外に実家のある人も多かったので、関東大震災後には3分の1の人が田舎に逃げることができました。

 

今は都内以外との人のつながりがなく、孤独な人が多いです。一人暮らしのお年寄りはもちろん、独身男性はコンビニが冷蔵庫だと思っています。それが空っぽになったらどうするのでしょう。人知れず死んでいて、安否確認ができないまま白骨化…しばらく時間が経ってようやく発見される人も出てくるかもしれません。さすがの日本でも、大変な暴動が起きる可能性だってあります。ちなみに、大阪北部地震での6人目の死者は2週間後に見つかった方です。

首都機能のマヒが日本を止める

首都圏では、多くの人が共働きですから、保育園やデイサービスがやっていないと健康な人も出勤ができません。そもそも鉄道の相互乗り入れは便利ですが止まったら大変です。一つの路線が止まれば全体が止まります。社会を維持する人が仕事に出て来られないと、東京に集中する中枢機能がマヒします。そのヘッドクオーターに頼っている日本全体も機能不全になるでしょう。

 

政府は最後の砦(とりで)です。東京電力はそこだけはなんとしても電力を確保しようとするでしょうが、2016年には埼玉県の送電ケーブル火災で霞が関まで停電し、東京の脆弱(ぜいじゃく)さがあらわになりました。首都直下地震時は、山手線の輪の中に人を入れさせないようにして、首都機能を維持するしかないかもしれません。

 

荒川や江戸川の堤防が切れたら、ゼロメートル地帯に住む176万人が孤立します。しかし、その人たちを救えるだけの、消防や自衛隊のヘリはありません。2015年の鬼怒川決壊の時は日本中からヘリが飛んできましたが、首都直下では人数が違います。

 

そんなゼロメートル地帯に、どんどん超高層マンションができています。長期間ろう城できる事前の備えが必要です。もし堤防が壊れて浸水したら、堤防を直してから水を排出するしかありません。そういう修復工事をする多くの会社の本社は東京にあります。しかも低地や日比谷の入り江を埋め立てたズブズブ地盤などにです。

 

名古屋大学教授 減災連携研究センター長

1957年生まれ、名古屋市出身。名古屋大学教授・減災連携研究センター長、あいち・なごや強靱化共創センター長、工学博士、日本地震工学会会長など。81年3月名古屋大学大学院工学研究科修了。同年大手建設会社入社。91年名古屋大学に転じ、2012年1月より現職。専門は、建築耐震工学、地震工学、地域防災。早期の耐震化を強く訴え、防災の国民運動作りを率先。「自然災害は防ぐことは出来ないが、その被害を減らすことはできる」という信念のもと、研究のかたわら、耐震教材を多数開発し、全国の小・中・高等学校などで「減災講演」を続けている。巨大な建物を実際に揺らすことのできる世界に類をみない研究・展示施設、名古屋大学「減災館」はその結集とも言える。中央防災会議防災対策実行会議に設置された「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応検討ワーキンググループ」の主査を務めた。

著者紹介

連載来たる大震災を前に本音で語る…巨大地震対策の実情

必ずくる震災で日本を終わらせないために。

必ずくる震災で日本を終わらせないために。

福和 伸夫

時事通信社

必ず起きる南海トラフ地震。死者想定は最大32万3000人。1410兆円の損失。それは日本を「終わり」にしてしまうかもしれない。直下地震で東京の首都機能喪失も。電気、ガス、水、通信を守り、命と経済を守り抜く。安全保障として…

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