危険度マップで低リスクの「東京・臨海部」は本当に安全か?

今回は、東京都が公表している「地震に関する地域危険度測定調査」から、首都・東京が抱える地震リスクを考えていきます。本連載は、建築耐震工学、地震工学、地域防災を専門とする名古屋大学教授・福和伸夫氏の著書、『必ずくる震災で日本を終わらせないために。』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、大震災の危険性はどれほど高まっているのか、さらに対策はどれほど進んでいるのかを紹介しながら、防災・減災に向けた早急な対応の必要性を説いていきます。

「危ない場所」とされる地域でも地価は上がっている

東京都は「地震に関する地域危険度測定調査」を公表し、「あなたのまちの地域危険度」というパンフレットも出しています。調査は都震災対策条例に基づき、1975年から、おおむね5年ごとに地域危険度を公表していて、2018年は8回目の公表となるそうです。

 

地震に対する危険度は、市街化区域の5177町丁目に対して「危険度ランク」を5段階で評価しています。町丁目とは「〇〇町〇丁目」の地域単位。ランクは数字が上がるほど危険度が高いことを意味します。地盤の硬軟による揺れやすさの違い、建物の構造による耐震性の違い、建物密集度による火災の延焼危険度の違い、避難や救助に必要な道路や公園の広さなどを考慮して「建物の倒壊危険性」「火災の危険性」「災害時の活動の困難度」を町丁目単位ごとに分析、これらを組み合わせて総合危険度を評価しています。

 

* 東京都の地域危険度調査の「沖積低地4」は「軟弱層の厚さ25~40メートル未満」、「谷底低地2」は「軟弱層の厚さ3~8メートル未満」とされています。

 

その結果、2018年度は危険度が最も高いランク「5」が全体の1.6%の85地域。具体的には荒川や隅田川沿いの下町を中心に、足立区、荒川区、墨田区に集中しています。地盤が軟弱で古い木造住宅が密集する地域です。これに加えて品川区や大田区、中野区、杉並区、三鷹市、国分寺市など、鉄道沿線の古い住宅地域でも危険度が高くなっています。

 

しかし、東京では「危険なところだから人が住まない」とはなりません。むしろ、危険度が高いのに、地価が上昇しているところもあります。2018年7月の住宅地基準地価上昇率の都内トップ2(区部)の地点について、東京都の危険度評価をみてみましょう。

 

▽地価上昇率1位(10.1%上昇) 荒川区西日暮里4-19-9

危険度評価(荒川区西日暮里4)谷底低地2

建物倒壊危険度 868位 ランク3

火災危険度 658位 ランク3

災害時活動困難度 1638位 ランク2

総合危険度 581位 ランク3

 

▽2位(9.4%上昇) 荒川区荒川2-21-2

 

危険度評価(荒川区荒川2)沖積低地4

建物倒壊危険度 30位 ランク5

火災危険度 37位 ランク5

災害時活動困難度 2004位 ランク2

総合危険度 71位 ランク5

 

地価上昇率の高い土地を危険度マップと照らし合わせると、ランク「5」や「3」が出てきます。ズブズブの土地にギュウギュウに家を建てているから、何かあってもぜんぜん助けに来てもらえないというところです。

 

* 首都圏に転勤して住まなければならない人へのアドバイスを挙げてみます。「駅は谷につくることが多いので、健康にも良いと考え駅から少し歩いた高台に住む」「エレベーターがなくても上がれる階数にする」「周辺に古い木造家屋がある所は避ける」「傾斜の途中の土地はやめる」「盛り土をしていると盛った所は崩れるし、後ろから崖が崩れてくるので避ける」「一階が店舗や駐車場になっていない所を選ぶ」

 

* 土地をちゃんと調べるにはいろいろな方法があります。「引っ越し前にはグーグルマップを見る。道が細い所はダメ。上から見て瓦の屋根が多い所はやめた方がいい」「ストリートビューで街の様子が分かるから、引っ越す前に周囲を見ておく」「図書館で昔の地図を見る。元田んぼだった所はやめた方がいい。畑の方がいい」「池や、川が流れていた所も避ける」「斜面の下、昔谷だった所は具合が悪い。谷埋め盛り土かどうか調べる」。

 

東京都による「危険度マップ」の落とし穴

危険度マップと関東大震災の震度分布とを比べてみましょう。さらにイメージが違ってきます。危険度マップでは、前述の九段下や東京駅周辺、そして湾岸地帯が軒並み安全なランク「1」を示すブルーです。スカイツリーの立つ土地もブルーです。

 

なぜでしょうか。それは高層ビルが林立しているエリアだから。私からすれば高層ビルがあるところは危険だとしたいのですが、このマップではそれを避けています。むしろビルのあるエリアは安全だと判断しています。

 

確かに、超高層ビルは燃えないから、火災危険度は低い。周囲の道路も広いので、消防や救急車両は入りやすい。だから総合点は上がります。でも、長周期地震動で2、3メートルも振り回されるような高層ビル内の揺れについては、何も触れていないことになります。エレベーターが止まったり、ライフラインがこけたりしたら終わりだというような事情も反映されていません。

 

東京らしいと言ってしまえばそうなのですが、高層ビルの安全神話に則ったマップです。一般の都民に危ない戸建て住宅を直してもらおうという目的ならこれでいいでしょう。しかし、高層ビルに入居するような企業向けではありません。そんな「落とし穴」が見えるマップなのです。

 

高い階に住むときはそれなりの「ご作法」を覚えるべきです。エレベーターが動かなくなったらどうするのか、停電したらどうするのか。それを考えた備蓄や家具の固定を考えましょう。携帯トイレ、コンロ、乾電池は必要な分を備えておく。非常用の発電機は、室内で使ったら一酸化炭素中毒で死んでしまうので、十分な注意が必要です。

 

* 上の階でけがをした人も階段が降りられる手押しの車のような「イーバッグチェア」を共有するとか、大量の簡易トイレを準備するとか。水を上まで運ぶのは相当大変なので、水はそれぞれに相当量を用意しておくべきです。

 

タワーマンションに住んでいる人は、下の階の人と仲良くしておきましょう。地震が来たら上に住んではいられません。下の階の人に助けてもらうために、マンション内の共助システムが必要です。

 

危険度マップには、こんなリスクは入っていません。

企業に「現代版参勤交代制」を提唱

東京にある会社は、真剣に本社の移転を考えた方がいいでしょう。都内に住まなければいけない人は、家族まで巻き込まないために単身で住むのがベストです。中央官僚の危機管理担当者は、みんな都心に単身で住んでいます。キャリア官僚や一流サラリーマンは、地方への単身赴任が多いのです。サラリーマンも意識を変えないといけません。

 

どうやって知恵がある人を地方に戻すか。何もみんな家族を連れて東京に来ることはありません。ふるさとに家族を置いて、東京に単身赴任をする。地方赴任地はふるさとを優先する人事システムです。

 

そうすることで、子どもは豊かな環境で生まれ育ちます。家が広く物価も安いので、子だくさんでも大丈夫です。田畑や山を駆け回り、たくましく育つことでしょう。お父さんが地元の支店に配属されれば、一緒に住めるようになります。テレワークなら、東京本社にいても一緒にいる時間はたくさんとれます。とっても簡単なことです。地方に拠点を置いて、ときどき東京に来る、現代版の参勤交代システムを確立すべきではないでしょうか。そうすれば、生まれ育った地域に知恵も残り、地方創生も容易にできます。

 

日本中の企業が、本社を東京に移転させてボロボロになっています。例えば、本社が地方にある関西や中部の雄であれば関経連や中経連の会長になって地元をどうするかを考えることができます。でも、いったん東京に本社を移してしまえば、ただの大会社の一つになってしまいます。そうすると、「わが地域を守る」という意識、郷土愛もなくなってしまいます。東京の企業になっても東京のことは考えないものです。東京は特殊な地域で街づくりは都がやらずに、みんな「民」に任せています。

 

東京を考えない東京の企業で、例外と思えるのは、不動産の「森ビル」です。港区のローカル企業として出発し、とてつもない地元愛を感じさせます。港区でビルを立て、本社も出ていかず、その特徴を生かして今の発展を築いています。街おこしもやっていて、防災についてもめちゃくちゃ頑張っています。

 

* 「3.11」の時は、森ビルは、六本木ヒルズをはじめとして、停電せず、機能を維持しました。その後も建物の被害状況をコンピューターが自動解析する「被災度推測システム」を取り入れたり、区が持つ災害情報を、森ビルが地上波テレビ放送の帯域を使って配信したりする仕組みも導入しているそうです。他のデベロッパーとはちょっと違います。

 

名古屋大学教授 減災連携研究センター長

1957年生まれ、名古屋市出身。名古屋大学教授・減災連携研究センター長、あいち・なごや強靱化共創センター長、工学博士、日本地震工学会会長など。81年3月名古屋大学大学院工学研究科修了。同年大手建設会社入社。91年名古屋大学に転じ、2012年1月より現職。専門は、建築耐震工学、地震工学、地域防災。早期の耐震化を強く訴え、防災の国民運動作りを率先。「自然災害は防ぐことは出来ないが、その被害を減らすことはできる」という信念のもと、研究のかたわら、耐震教材を多数開発し、全国の小・中・高等学校などで「減災講演」を続けている。巨大な建物を実際に揺らすことのできる世界に類をみない研究・展示施設、名古屋大学「減災館」はその結集とも言える。中央防災会議防災対策実行会議に設置された「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応検討ワーキンググループ」の主査を務めた。

著者紹介

連載来たる大震災を前に本音で語る…巨大地震対策の実情

必ずくる震災で日本を終わらせないために。

必ずくる震災で日本を終わらせないために。

福和 伸夫

時事通信社

必ず起きる南海トラフ地震。死者想定は最大32万3000人。1410兆円の損失。それは日本を「終わり」にしてしまうかもしれない。直下地震で東京の首都機能喪失も。電気、ガス、水、通信を守り、命と経済を守り抜く。安全保障として…

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