大震災に備える!愛知県・高知県で進む「耐震・免震」への挑戦

※本連載は、建築耐震工学、地震工学、地域防災を専門とする名古屋大学教授・福和伸夫氏の著書『必ずくる震災で日本を終わらせないために。』(時事通信出版局)から一部を抜粋し、大震災の危険性はどれほど高まっているのか、さらに対策はどれほど進んでいるのかを紹介しながら、防災・減災に向けた早急な対応の必要性を説いていきます。今回は、大地震に備える行政や住宅メーカーの取り組みについて見ていきます。

愛知県…安い工法を県独自の補助対象に

住宅を耐震化するまでのハードルは四つあります。

 

①人の意識

②耐震化を進める仕組み

③お金(助成)

④効果的で安い工法

 

①の意識啓発では、私は耐震教材の「ぶるる」シリーズをつくりました。2006年当時の小泉純一郎首相と安倍晋三官房長官にも手渡して、木造住宅の筋交いの効果などを説明したものです。そして、「ぶるる」を持ってあちこちに出前講座に出かけました。私の子どもも小さかったので、子ども向けの親子防災スクールにもよく通いました。

 

②の仕組みを実現するために、国の予算をとることにしました。大学間連携をすれば研究費を付けてくれそうだと分かったので、名古屋工業大学と豊橋技術科学大学に声をかけて、耐震化で予算要求しました。自治体との連携が不可欠だったので愛知県と名古屋市にも連携を呼びかけ、2005年に「愛知建築地震災害軽減システム研究協議会(減災協議会)」という組織をつくりました。ここでいろいろな仕組みが考えられました。

 

そして愛知県では、③のお金の問題を解決するため、耐震「診断」と耐震「改修」の2段階の補助金制度を実現。改修に当たっては2段階で実施することや、室内の耐震シェルターにも補助をするようにしました。④の低コストの工法は、3大学で新しい工法を開発したり、工法のコンペをして良い事例を顕彰したりしました。また、民間からさまざまなアイデアを募り、協議会として審査。愛知県に補助対象として認可してもらいました。

 

*耐震改修工法の認定審査は、日本建築防災協会のほか、他の審査機関が行うこともあります。愛知県では減災協議会内の委員会で認定しています。

 

耐震改修の審査は、全国的には日本建築防災協会が一手に引き受けています。しかし、大きな組織なので、あまり小回りがきかない。私たちの協議会は、この地区の専門家の集まりなので、愛知県独自の補助対象として、安くて普及しそうなものを積極的に認めました。

 

木造住宅の耐震改修のネックは、「天井や床、壁などを剥がして筋交いを入れ、もう一回内装をやり直す」などの工事にコストがかかること。補強材のコストより、補強に伴う内装材や外装材をはずす費用の問題でした。

 

そこで、協議会では天井と床下には手を付けず、途中で筋交いをつける工法を開発。耐震性は低いがコストは圧倒的に安くなり、1箇所やってお金がかかるより、お金のかからない方法で2箇所をやった方がよいという判断です。その場合でも内装は剥がすので、「居ながら」ではできません。「居ながら補強」は大事で、引っ越すとお金がかかります。そこで、建物の外から補強する工法も模索されました。

 

見栄えを気にせず、建物の外にバッテンを入れようかという話もありましたが、筋交いは中からもボルトを締めないと、接合部が腐って抜けてしまいます。これを解決するため、特殊な形状のボルトで、外側からだけの作業で内側も締め付けられる工法が開発されました。3大学の先生方がいろいろなアイデアを考え実現しました。

 

こうしたさまざまなアイデアが出てきて、愛知県の耐震改修数は静岡県に次いで全国2位になりました。しかし、研究者側にも行政側にも、もう一つ思いが足りず、徹底的に利用してもらえるような活動にはなりませんでした。そのときに声を掛けてきたのが、高知県の人たちです。

南海トラフ地震への危機感…高知県の耐震対策

ご存知のように、高知県は南海トラフ地震で甚大な被害が予測されています。地元の人たちは大いに危機感を募らせていて、「津波から何とか逃げたい。しかし、家が安全でないと逃げられない。何とかならないか」と総ぐるみで動き始めていました。そこで、愛知県のノウハウを高知県でも活用したいと申し出てくれたのです。

 

診断と改修の補助金に関しては、公務員的発想だと「診断した人がそのまま改修にたずさわるのはずるい」という考え方になります。そこで、診断する人と改修をする人は変え、さらに全額補助ではなく「工事にかかったお金の半額までで○○万円以下を補助する」といった形にするのが、愛知県を含めて一般的です。

 

しかし、高知県は思い切ってそこを二点、改善しました。一つは、診断した人が改修までかかわるのを認めること。設計者はホンキになって診断し、改修を説得します。もう一つは、「改修工事の半額かつ〇〇万円以下」としていたのを「〇〇万円以下」だけにしたこと。改修工事が安価なら、補助金だけで無償でできます。わざわざ「半額」と制限しなくてもよいのです。これで、補助金の活用をためらっていた人も、安い工法で全額補助されるならと、安心して申請できます。改修設計する人は補助金額内でできる工事を必死になって考えます。

 

この実現のため、県職員はあちこちに説得に回り、国にもロビー活動をしました。そのかいあって、高知の人口は愛知の10分の1なのに、耐震化工事数は愛知県と変わらないほどに増加。つまり、愛知県の10倍ぐらい耐震化が進んだのです。

 

愛知県では安い工法を開発し、啓発方法もつくりましたが、全額補助にはなりませんでした。今、愛知県などでも検討中ですが、今後どうなるのでしょうか。実は、耐震化率を上げる一番の方法は建て替えです。愛知や東京、神奈川、大阪のように大きな都府県は、建て替えが多いので、改修が進まなくても耐震化率はどんどん上がります。数字だけ考えていれば、そんなに一生懸命、耐震改修しなくてもいいわけです。公務員的に「制度をつくったからいいよね」となってしまいがち。建築行政の中でも耐震化促進、応急危険度判定、仮設住宅、がれき撤去、復興住宅などがバラバラで進みます。大きな県は縦割りの弊害も大きいのです。

 

一方、高知は高齢化のため建て替えが進みません。でも津波は絶対に来ます。家が壊れたら逃げられません。そうした必死さが「ホンキの防災」を生み出しています。

 

尾﨑正直知事のリーダーシップもすごいです。防災関連産業を振興したり、制度を変えるために、国土交通省からキャリア官僚を連れてきて課長に据えることまでしています。その課長は国の施策や予算と連動させながら制度を実現。本人も、今までどの地域でもやったことのないことをやると、キャリアとしての得点になると考えるでしょう。こうして高知は「防災で日本一目立つ県」になろうとしているのです。まさに「災い転じて福となす」を実践しています。

住宅メーカーの新トレンド

設計の審査のところでも紹介したように、私はどんなところにもダメ出しをしてしまいます。それで険悪な雰囲気になることも多いのですが、ダメ出しのおかげで仲良くなったところもあります。その一つが浜松市が発祥の一条工務店です。

 

一条は創業者が阪神・淡路大震災の後、「このままでは木造住宅は売れなくなる。自分は絶対壊れない住宅をつくる」と言って免震住宅を始めました。普通なら、免震は大手ゼネコンが手掛ける最先端技術の高級品。他のメーカーが免震だけで1000万円はするところ、一条はその数割。耐震よりは免震の方がずっといいと考え、安くてたくさんつくることができる免震装置を開発しました。誰でも設計できるような設計法も開発し、その設計法を審査にかけて国に認めさせました。

 

浜松の普通のビルダーでしたが、標準化などで仕事を拡大。さらにあるとき、すべてを海外でつくることにしました。すごく広い場所を確保し、何から何まで自社でつくります。太陽光パネル、キッチン、家具、床暖房、屋根材。木材も東南アジアで買ったものを全部自分のところで製材、石も中国で買い、加工しています。海外でぜんぶ部品をつくり、それをコンテナに入れて港に上げて、コンテナごと建築現場に送ります。

 

*自分のところで必要なものを一カ所でつくるというのは、トヨタが三河で始めたことと同じ。自動織機もデンソーもアイシンも、みんな三河に集めつくっていくというビジネスモデルです。

 

一方、日本でいらなくなった木材加工などの機械を買って、海外へ持って行きます。リストラされた技術者も一緒に。現地の従業員は日本人の賃金の10分の1くらいで、労働者もたくさんいます。日本の技術者が彼らを徹底的に鍛えて、品質の高いものをジャンジャンつくるのです。

 

太陽光発電も、自分たちでつくり、屋根を全部を太陽光パネルにしています。床下暖房も自家製なので、隅までみんな入っています。一個一個よりも総合力。覆える面積が大きければ、総合点では100点を超える、部分最適化ではなく全体最適化で成し遂げたビジネスモデルです。

 

* 一条工務店の営業担当は顧客からヒアリングした結果をメールで現地に送信。1000人ぐらいのオペレーターが、マニュアルに従いCAD(コンピュータ支援設計)データをつくり、構造計算をして一瞬にして設計が戻ってきます。日本人100人より、トータルとして能力があると言えます。

 

同じ住宅メーカーでは、旭化成も面白いです。旭化成は野口遵(のぐち・したがう)という実業家がつくった会社。野口は旭化成のほか、チッソや積水化学工業、積水ハウス、信越化学工業などの実質的な創設者。積水化学はユニット住宅のパイオニアで、住宅のユニットを工場でつくって、トラックに載せて現場に持っていってつなげます。工場製品なので、高品質です。積水ハウスはプレハブ住宅のトップメーカーです。旭化成にはノーベル賞級の研究者もいますいずれも「化学屋」です。

 

化学メーカーは製品をつくるところに素材を提供しています。提供を受けた側も検査をするし、出す側も徹底的な検査をします。性能確認をして出すことが常に行われています。一回法律を破ったら、ぜんぶ終わってしまいます。だから化学メーカーは、経営者までそうした危機感が徹底しているのでしょう。自動走行やエコ化を推進する自動車メーカーがつくったトヨタホームにも、自動車技術を生かした新しい住宅を期待しています。

 

一方で、建築会社は自分のところが最後の工程です。一品生産で検査精度もまだ甘いようです。電気製品とか自動車など、大量生産品は消費者団体が性能検査をしますが、一品生産の建築物はきちんと設計されているか、工事されているか、検査されているか分かりにくいのです。地震が来るまで性能は分かりません。

 

それはいつか、いや、すぐに分かる話かもしれません。と、書き終えたところで、建物用のオイルダンパー問題が発生してしまいました。

 

*オイルダンパー問題=2018年10月、東証1部上場の産業部品メーカーが地震に備える免震・制振装置の検査データを改ざんしていたことが分かりました。性能検査で国の基準や顧客と約束した数値を満たしていなかったのに、検査員がデータを書き換えて出荷していました。本来、不適合品は分解・調整を行わなければなりませんが、納期などの問題があり不正に走ったといいます。

 

 

名古屋大学教授 減災連携研究センター長

1957年生まれ、名古屋市出身。名古屋大学教授・減災連携研究センター長、あいち・なごや強靱化共創センター長、工学博士、日本地震工学会会長など。81年3月名古屋大学大学院工学研究科修了。同年大手建設会社入社。91年名古屋大学に転じ、2012年1月より現職。専門は、建築耐震工学、地震工学、地域防災。早期の耐震化を強く訴え、防災の国民運動作りを率先。「自然災害は防ぐことは出来ないが、その被害を減らすことはできる」という信念のもと、研究のかたわら、耐震教材を多数開発し、全国の小・中・高等学校などで「減災講演」を続けている。巨大な建物を実際に揺らすことのできる世界に類をみない研究・展示施設、名古屋大学「減災館」はその結集とも言える。中央防災会議防災対策実行会議に設置された「南海トラフ沿いの異常な現象への防災対応検討ワーキンググループ」の主査を務めた。

著者紹介

連載来たる大震災を前に本音で語る…巨大地震対策の実情

必ずくる震災で日本を終わらせないために。

必ずくる震災で日本を終わらせないために。

福和 伸夫

時事通信社

必ず起きる南海トラフ地震。死者想定は最大32万3000人。1410兆円の損失。それは日本を「終わり」にしてしまうかもしれない。直下地震で東京の首都機能喪失も。電気、ガス、水、通信を守り、命と経済を守り抜く。安全保障として…

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