旧来型組織の改革が進んでいくなか、なかなか変わらないと揶揄される「教育現場」。しかし、常識に捉われず改革を進めている千代田区立麹町中学校の手法は、あらゆる組織の改革にも通じると話題を集めています。本連載は、千代田区立麹町中学校長・工藤勇一氏の著書『学校の「当たり前」をやめた。』(時事通信社)から一部を抜粋し、麹町中学校の「学校改革」について紹介していきます。今回は、「生徒指導」のあり方について、服装の校則の事例などを参考に説明していきます。

先生によって違った「悪いこと」の基準


生徒指導――それは本当に必要な指導ですか 

 

私が赴任1年目に行った校内研修の資料を紹介します。これは「叱るものさし(優先順位)」を考える研修です。

 

[表1]の①から⑬を見てください。

 

[表1]叱る優先順位を考える
[表1]叱る優先順位を考える


この中で、あなたが特に厳しく叱りたい、あるいは叱ってきた項目を挙げてみてください。いくつでもかまいません。

 

実際の研修では、先生方に印をつけてもらった後、これを一つひとつ読み上げて、自分が厳しく指導したいと考える項目のところで手を挙げてもらいました。

 

驚いたことに、教員の手を挙げる項目が、あまりにもバラバラで、つまり、指導に対する感性が異なっていることが確認できました。

 

次に、何を最も厳しく叱りたいと思いますかと話しました。私が一番叱りたいのは、⑥番です。命が一番大切だということを指導したい。これは緊急性があるので、何をおいても指導する必要がある。

 

その次は、人権や犯罪に関わることです。①や②、⑧などです。⑩、⑪、⑫なども関係するでしょう。

 

でも、それ以外の、日常的に注意をする機会の多い⑤や⑬などは、学校の場面では、実際には厳しく指導されるのではないでしょうか。

 

そのことで子どもによっては、登校時から下校時まで幾度となく叱られ続ける子どもがいるのも現実かもしれません。

 

そうしたとき、子どもには、いったいどんなメッセージが伝わっているのか、教員はそれを見つめ直してみる必要があります。

 

教員が、子どもの指導・支援で用いる言葉は、子どものその後の生き方・価値観に影響する大切なメッセージです。

 

特に、子どもが問題行動を起こした時に叱るメッセージはとても重要です。それゆえ、教員は子どもが行った行為一つひとつについて何が重要なのか、本質的に悪いことなのかどうか、その軽重をよく考えて、指導しなければならないと考えます。

 

私はよく教員に、「どうでもよいことと、どうでもよくないことを、分けて叱りませんか」と話しています。どうでもよいことなら軽く注意を促せばよい。逆に、命や人権に関わること、差別や暴力といった行為には厳しく対応し、自身の言動の意味を認識させる必要があります。

みんな違っていい。同時に、誰もが大切にされるべき

ずいぶん前のことですが、ある教員が、生徒を校長室に連れてきたことがありました。

 

どうしたのかと聞くと、下校途中に「買い食い」をしていたのを発見し、連れてきたとのことでした。その教員は、強い勢いで校長の前に連れてきたのですが、私は大した問題じゃないと考え、その旨を話して終わりにしました。

 

確かに、本校には当時、「通学途中に飲食をしない」という校則がありました。しかし、そもそも、そこまで目を吊り上げる必要はあるのでしょうか。

 

「登下校中の買い食いを認めたら、学校に現金を持ってきて、盗難の問題などが発生する」そう指摘する教員もいます。だが、学校に現金を持ってくることと買い食いとの間に因果関係はあっても、本質的には別問題です。

 

さらに言えば、「盗難を防ぐ」という目的に向けて、「現金を持参させない」という方法をとることも、課題解決の手段において適切とは言えないでしょう。盗難が起こるのなら、「他人の物品を盗む」という行為の問題点を理解させるべきです。

 

教員は、最上位目標と指導の優先順位を考えずに、慣習に従って指導してしまっていることがあります。服装指導は、その象徴的なものです。多くの学校が、「服装頭髪の乱れは心の乱れ」として指導しています。

 

麹町中においても以前は、服装の校則は、非常に細かく規定されていました。スカートの長さは「ひざが隠れる程度」とされ、靴下は「白の無地」と決まっていましたし、頭髪は「パーマ、整髪料、脱色、髪染め、髪飾り、眉剃り、化粧、マニュキュア等をしない」と、細かく規定されていました。

 

こうした校則が、他校に比べて特段に厳しいというわけではありません。公立中学校としては、標準的なものだと思います。いまは、服装に関する規定はシンプルになり、頭髪は「清潔にし、中学生らしい自然な髪型とする」という一文だけが残っています。

 

服装に関する規定は、それほど重要なことなのでしょうか。例えば、赤色の靴下は「派手だから」との理由で多くの学校が禁止していますが、これは感じ方や主観の問題にすぎません。金髪にせよ、ピアスにせよ、国が違えば、何の問題もありません。

 

驚く方がいらっしゃるかもしれませんが、麹町中では、服装・頭髪の指導は一切行いません。そもそも、頭髪や服装が問題だという概念そのものがなくなってしまったからです。

 

さらに、麹町中では服装や頭髪のルールについては、昨年度、PTAにその権限をすべて委譲しました。PTAの中に位置付けられた委員会が中心になって、経済性、機能性を最優先にしながらルールを検討し、PTA運営委員会を通して決定される仕組みとなりました。

 

すでに通学カバンや、夏服など、さまざまな規定が変更され、現在、PTAでは、2020年4月入学生の制服変更を目指して取り組んでいるところです。

 

こういった一連の流れを受けて、生徒会もPTAと協力し、制服のあり方について主体的に検討しています。

 

さらに、PTA制服等検討委員会の話し合いについて、広く多くの人たちに話し合ってもらおうという趣旨で、教員、生徒、制服等検討委員会のメンバー、PTA役員、企業代表者などが集まり、麹町中の制服のあり方について2018年9月にシンポジウムを開催しました。

 

制服の可否についての会場アンケートやアラブ首長国連邦の首都アブダビに転校した生徒からのビデオメッセージなどが紹介されました。そのメッセージは以下のような内容でした。

 

「僕の学校には68カ国の子が登校していて、僕のクラスの15人の生徒はみな国籍が違います。でも、お互いに尊敬し合っていて、とても過ごしやすいです。ここはイスラム教の国なので、礼拝の時間になると音楽が鳴り、皆、同じ方向を向いて祈ります。僕もそうしています」

 

麹町中に通うイスラム教徒の女子生徒は、「私は制服が好きだけど、ヒマール(頭から背中まで覆う布)が被れなくなると困ります。スカートも長くなければいけません。イスラム教徒の格好をしていることで外国人に間違われるのも嫌なことです」と発表してくれました。

 

こうした話を聞いたり、互いに意見を述べたりすることで、さまざまなことが共有されていきました。みんな違っていい。しかし、同時に、誰もが大切にされるべきです。この両立を考えていくことが重要です。

 

そこからさかのぼりますが、2018年7月には、生徒会主催で、私服でも登校してもよい期間を約10日間設けました。

 

この期間中は、多くの生徒が私服で登校しましたが、この期間、私服で登校した生徒も、制服で登校した生徒もいましたが、それぞれが制服や私服の利便性を感じていたようです。

 

繰り返しになりますが、例えば、友達との会話の中で、心無い差別用語などを投げ掛ける生徒がいます。私は、そうして人の心を傷つける行為の方が、よっぽど許されることではないと考えます。

 

私は入学してきた1年生に向けて、道徳の授業を行うようにしています。

 

そこで、命を大切にすることと、差別をしないこと、それは絶対に大切なことなので、守ってほしい、という話をします。また、心の問題と行動の問題についても話します。

 

学校の「当たり前」をやめた。 生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革

学校の「当たり前」をやめた。 生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革

工藤 勇一

時事通信社

宿題は必要ない。固定担任制も廃止。中間・期末テストも廃止。 多くの全国の中学校で行われていることを問い直し、本当に次世代を担う子どもたちにとって必要な学校の形を追求する、千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長。 …

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