本来、返済能力が低い会社には貸さないのだが…
スルガ銀行問題が、収まりません。創業家である岡野家の資金流用問題まで噴出しています。前金融庁長官の森氏が「スルガ銀行はこれからの地銀のモデルだ!」と声を上げていただけに、“森のおそまつ”といった様子になってきました。
スルガ銀行問題は、個人の預金データを改ざんし、本来なら返済能力のない人物にまで、融資を行ったことです。これが世にいう不適切融資です。誰もが、「それはヒドイ!」と言います。
しかし、似たようなことは、中小企業でも行われています。決算書を拝見すると、どう考えても返済能力が欠けているのに、銀行が資金をジャブジャブ貸している、という状況を目にする機会があるのです。
銀行は、返済能力の高い低いを、「債務償還年数」という経営指標で評価します。計算式は次のとおりです。(短期借入+長期借入+社債)÷(営業利益+減価償却費)(3億円÷6千万円)なら、5年、となります。単位は(年)です。
債務償還年数が7年以内なら、問題ありません。8年~15年なら、黄色信号です。融資を受けられても、銀行は「ああだこうだ」といろいろ条件を求めます。15年~20年は、赤信号です。銀行はできれば貸したくありません。まず、高額は厳しくなります。20年超だと、まず貸しません。
なのに、計算すると15年や20年超の会社でも、融資を受けている状況が目に付くのです。特に地方の銀行です。それだけ、貸す先が、無いのです。貸す先がふんだんに有るなら、債務償還年数のルールに基づいて評価し、返済能力が低い会社には、貸さないのです。
危ないのは、その状態が数年以上も続いている会社です。しかもそのような会社の融資条件は、悪いです。普通なら借りられないのに、借りられているのですから、交渉もろくにしていません。銀行員の言うがままの条件です。当然、金利は高く、担保・個人保証はびっちり取られています。
「経営者個人から回収すればいい」と融資を続ける銀行
このような会社は、今の経済環境が変わったらどうなるのでしょうか?
なぜ、そこまで貸すのか? 追及すると、見えてくることがあります。なかでも多いのが、経営者の個人資産を銀行がおさえこんでいる、という例です。
経営者が個人所有する土地・建物を担保にとる。経営者個人の預金を定期に入れさせて拘束する。このような状況に陥っているのです。銀行にすれば、会社の財務状況が悪くても、いざとなったら経営者個人から回収すればよい、として、会社への融資が行われているのです。
しかし、そのような会社の多くは、もうこれ以上借りられないくらい、借りています。長期を返すために短期を借りて、返済資金に充てたりしています。短期借入のコロガシで、生命維持装置が作動しているだけです。これは、安倍政権の金融緩和政策のもと、銀行に現預金がジャブジャブ入ってきているから、できていることです。
しかし、いつかその蛇口は締められてゆきます。そうなれば、「もう次回は短期での融資はできませんので」と銀行から告げられます。
となると、慌てて他の銀行へ出向きます。しかし、そこでも、「御社の財務状況では、融資はできかねます」となります。資金調達ができなくなるのです。資金調達ができなければ、返済ができません。返済できなければ、約定違反です。約定違反が起これば、銀行は即座に回収に入ります。押さえていた不動産や預金をすべて、債権回収に充当します。経営者は身ぐるみはがれた状態になります。事業どころではありません。当然、事業は破綻します。
さらに、経営者の家族内でもめごとが起こります。離婚や一家離散が発生します。経営者は行方知れずになります。あるいは、自ら命を絶つ経営者もいます。だから金融庁は、銀行が個人保証をとることで、経営者個人を路頭に迷わせるな、と、個人保証を禁止してるのです。
結局、財務体質にそぐわない、借り過ぎが原因なのです。借り過ぎでも約定書に印鑑を押し、破綻への道を自ら歩んでいるのです。行き過ぎた借入金を抱えることほど、こわいものはないのです。