当座貸越枠の継続に、「決算書一式」を渡す必要はない
そろそろ決算が確定します、という会社が多い時期に入ってきます。「銀行にはどう対応すればよいでしょうか?」と気にされる経営者も多いです。
借入金がない会社でも、大きく二つに分かれます。まずひとつは、借入金はないけれど、当座貸越の枠があります、という会社です。
当座貸越は、1億とか2億とか、金額の枠を設定して、いつでも使えるようにしておくものです。枠設定した金額のなかで、借りた金額が短期借入金として処理されます。当座貸越枠を使うのは基本、それを必要とするときだけです。何らかの手付金など、急な資金需要が発生したときです。
この場合、借入金がなくても、当座貸越枠を継続するため、銀行は決算書内容の確認を必要とします。なので、こちらから声をかけずとも、銀行側から、「そろそろ決算書はできましたでしょうか?」と言ってきます。
それを待てば結構です。こちらから連絡して、銀行へ出向くまでせずとも構いません。但し、これはあくまでも、当座貸越枠を使っていなければ、の話しです。使っていれば、借入金があるときの対応をとる必要があります。
銀行員が会社へ来たら、渡すのは、「貸借対照表」「損益計算書」と、付随する「販売費及び一般管理費内訳」と、あれば「製造原価報告書」までで結構です。
おそらく銀行員は、「決算書一式全部いただけますでしょうか? 各勘定科目の明細も全部、いただけますでしょうか?」と言ってきます。そこまで渡す必要はありません。「当座貸越の枠設定の確認のためだけなら、どうしてそこまで必要なんですか?」と言い返せばよいです。
銀行は、当座貸越枠を継続してもよいかどうか、格付(スコアリング)の確認をするだけです。それなら、各勘定科目の明細など、必要ないのです。
ここで丸々一式を渡す経営者が、まだまだ多いです。「そうするものだと思ってました!」「銀行に言われたら、必要なのだと思ってました!」となるのです。
全部渡すから、その明細から資金需要や経営者の性質を読み、よからぬ提案をしかけてくるのです。前期に比べて、有価証券が増えているなら、買う気があるとみて、提案してきます。あるいは、同族判定の株主に、経営者の父や母が載っており、そこそこの株数を持っているなら、事業承継の提案にやってきます。決算書の明細を渡すということは、提案のネタをさらけだすのと同じなのです。
当座貸越枠もなく、全くの無借金、あるいは、現時点では全く取引のない銀行への対応、となると、また別の対応になります。
「スコアリングだけなら、できるでしょ」
ここまでは借入金はないけれども、当座貸越枠があります、という会社の銀行への対応を述べました。次はもうひとつ、無借金の状態で、新たな銀行に新規に当座を開設し、当座貸越枠を作る、あるいは新規借入をする、という会社の場合です。
無借金ですから、基本、財務状況は良いはずです。銀行にすれば、是が非でも取引きに繋げたい会社です。その場合、「損益計算書」と「貸借対照表」だけでOKです。「販売費及び一般管理費内訳」や「製造原価報告書」も、渡さなくてよいです。スコアリング(格付)だけなら、それでできるからです。
「スコアリングだけなら、あの配点表からすれば、貸借対照表と損益計算書だけでできるでしょ」と言えばよいのです。その発言で、「並みの経営者とは違う」ということをまともな銀行員なら察知するはずです。
5年分を要求されたら、「損益計算書」と「貸借対照表」のみ、必要な分をお渡しすればよいのです。但し、現状の決算状況が芳しくなければ、その内情を把握すべく、しつこく要求してくることがあると思います。その場合のみ、もったいぶって渡せばよいのです。芳しくない、というのは、営業利益段階で収支トントン程度から、それ以下の場合です。
それでも恐らく、初めての銀行であれば、「損益計算書」「貸借対照表」のみならず、その他の資料も要求してくると思われます。その場合は、「損益計算書」と「貸借対照表」を、最初にチラ見せすればよいのです。渡さずに、まずは見せるだけにするのです。
自己資本比率が30%以上あり、損益計算書の営業利益も10%近く以上あるようなら、決算書を読める銀行員は、よだれがでる状態になるはずです。顔に出さないものの「鉱脈を掘り当てた!」と内心、うかれるはずです。ここまで利益率がなくとも、数%以上の営業利益率を維持しているのなら、まずは見せるだけでいいです。とにかく、スコアリング(格付)に、販管費内訳表や製造原価報告書は、必要ないのですから。
損益計算書と貸借対照表をチラ見せして、「こういう状況です。だからこれだけで十分じゃないですか、とおたずねしているんです」と言えばよいのです。
で、「もちろん、実際に当座貸越枠を使ったり、新規借り入れをお願いすることになれば、その際は、販管費内訳も製造原価報告書も提出して説明します」と伝えればよいのです。
今は借り手が有利の時代です。特に決算書の内容が悪くなければ、銀行は絶対にくらいついてきます。その有利な立場をうまく使って、有利な条件を獲得してほしいのです。