今回から、企業の従業員に対する評価項目と、従業員自らチャレンジする目標を同時に明確化する「社員チャレンジ制度」のつくり方を紹介していきます。※本連載は、株式会社中央人事総研代表取締役・大竹英紀氏の著書、『今いる社員で成果を上げる 中小企業の社員成長支援制度』(合同フォレスト)から一部を抜粋し、これまで100社以上のコンサルタントを通じて多くの成果を出してきた経験をもとに筆者が構築した、社員のやる気と能力を最大限に引き出して会社の業績をアップさせる「社員成長支援制度」の活用法を紹介します。

社員チャレンジシートで一人ひとりの成長を可視化

筆者は、今まで100社以上の社員成長支援制度のサポートをさせていただきましたが、その骨組みとなる制度が社員チャレンジ制度です。

 

この制度の特徴は、評価としては社員の成長度を見ることです。具体的には、半年あるいは1年の期間での本人の各評価に対する達成度、期待する行動への取り組み度合いなどを評価します。

 

図表1のとおり、社員一人ひとりの成長度は、①役割成果、②重点プロセス業務、③チャレンジ目標、④取り組み姿勢の4つの項目の掛け算となります。

 

[図表1]社員チャレンジシートの4体系

 

[図表2]社員チャレンジシートの4体系の説明

 

社員の成長度(評価結果)が低い場合は、この4項目のどれか、あるいはすべてが低いわけです。その低さの原因を分析し、改善をすることで4項目の一つひとつが改善されて、本人がより成長していくわけです。

 

単にこの項目ができた、できなかったというより、自分自身の成績や成果の出来栄えを反省、見直し、その原因を重点プロセス業務、チャレンジ目標、取り組み姿勢のどこがまずかったのか問題点を詳細に抽出することで、次の成長へのステップアップにつながるのです。

 

具体的には、これらを社員チャレンジシート(人事評価シート)として作ります。

 

この社員チャレンジシートの4体系の定義と詳細を、今回から第7回を通して解説します。また、あわせて社員チャレンジシートの事例(簡易版)を載せておきましたので、参考にしてください(図表3)。

 

[図表3]社員チャレンジシートの事例(簡易版)

役割成果を上げるための要となる「重点プロセス業務」

役割成果について

役割成果は、一般的に部門や課に求められる役割、責任における業績責任のことをいいます。

 

営業職であれば、目標売上高、利益額、新規開拓件数などです。製造業であれば、目標生産高、不良率、原価低減率などが挙げられます。その他の職種は、図表4を参考にして階層別に具体的に作成してください。項目数としては3〜5つ程度が妥当です。

 

[図表4]役割成果の項目例
 

重点プロセス業務について

重点プロセス業務とは、役割成果を上げるための要となる業務のことを指します。具体的に役割成果を上げるために、どう行動すべきかを考えなければなりませんが、そのためのプロセス(行動)が重点プロセス業務なのです。

 

営業部門であれば、売上を上げるためには、見込み客の発掘→情報収集→提案→契約、というステップ(プロセス)になるかと思います。つまり、各々のステップを順番にクリアすることによって、役割成果(目標)が達成されることになります。

 

それぞれの行動が、重点プロセス業務になります。つまり業績向上のツボといえます。同時に、成果を上げるためにスキル(技能・技術・資格)も当然必要になり、それが本人のレベルアップにもつながります(図表5)。

 

[図表5]重点プロセス業務の実例
 

もちろん、スキルはもっているだけではダメです。実際の仕事で使って、結果が出なければ意味がありません。評価の際はこのスキルの活用度を見ていきます。入れる項目数としては、5〜7つ程度を目安に設定してください。

アバウトではなく明確な「数値目標」にするのが原則

チャレンジ目標について

 

a.チャレンジ目標と考え方

今までクライアント企業で1000人程の社員との面談をして感じたことは、言われたことのみをやったり、やらされ感で動いている人が少なくないということです。図表6のように、反対に、自分で挑戦したい、やってみたいと、今より高いレベルの内容に対して目標を立てて実践することにより、本人のやる気の向上、成長につながっていきます。この考え方がチャレンジ目標です。

 

[図表6]チャレンジ目標の考え

 

チャレンジ目標は、社員チャレンジシートの中で、社員の成長を加速させるために大変重要な部分です。

 

b.チャレンジ目標の種類について

このチャレンジ目標も組織、等級別、役職別によって内容が変わります。次のような分類がありますので、参考にしてください。

 

❶会社方針・重点方針の中で関連したもの

❷役割成果・重点プロセス業務をさらに掘り下げたもの

❸部下指導・育成に関連したもの

❹自分の仕事のレベルアップ(改善・改良)に関連したもの

❺新しい知識・技術・技能の習得に関連したもの

 

こうした考えをもとに、役割、責任に応じて、自分ならではの目標を設定させてください。

 

c.チャレンジ目標の書き方

実際にチャレンジ目標を設定するとき、どうしても曖昧な表現(アバウト言葉)になりがちです。

 

たとえば、「努力します」「一所懸命にします」「意識します」「積極的に行動します」というのが代表的な表現です。これでは、実際に評価ができない、評価が甘くなる、さらに自分の行動改善につながらないという問題が生じます。

 

したがって、なるべく「評価できる目標」、すなわち数値目標にするのが原則です。

 

まず、営業マンの例を示します。

 

[図表7]チャレンジ目標の記入事例
 

<良い目標の例>

■営業部の売上5億円達成のために、重点顧客への訪問を毎月20件以上、3月末まで実行し、年間売上5000万円を達成している。

 

この事例には、次の目標設定の方法の5原則が含まれています。この5原則に沿って目標を設定することで、目標がアバウトにならず、明確になります。

 

【目標設定の5原則】

目的(何のために)

例の場合:「営業部売上5億円達成のために」が該当します。

内容(『何を』『どのように』『こうする』)

例の場合:「重点顧客への訪問を実行する」が該当します。

出来栄え(どのような結果の状態とするか)

例の場合:「毎月20件以上」が該当します。

いくらか(予算、金額など)

例の場合:「年間売上5000万円を達成している」が該当します。

いつまでに

例の場合:「3月末までに」が該当します。

 

さらに次の3つの目標設定の方法を活用すると、目標がアバウトになりにくいです。

 

【目標の明確化の3つの設定方法】

数値目標(量の拡大)

具体的な数字での目標の到達点を表します。業績(売上)、成果(利益)に関する目標(業務の合理化、省力化、経費削減も含む)を数値(量)で設定します。

*計測できる経済単位を使う:%、円、時間、人数、件数、枚、㎝、㎏、ほか

 

状態目標(質の向上)

目標の到達点としてあるべき状態を表すものです。業務改善や部下の育成目標など、ある状態のレベルを「○○ができるようになっている」というように表します。

 

【例】「現在、作業現場の床の汚れが目立っている状態を、半年後には誰が見てもきれいだといえる状態にしている」

「集計作業についてミスが多い状態を、マニュアルを作成し、全員がそれを活用しミスがない状態にしている」

「部下が行っているA機械操作を現在、上司が教えながらやっている状態から、半年後には1人でできるようになっている」

 

スケジュール目標(期限厳守)

最終納期を設けて、ある事柄を遂行する目標に表すのに使います。

【例】「○○年○○月末までに業務マニュアルを作成できている」

「毎月15日までに作成される試算表を、10日までに完了している」

(『すぐ使える・すぐできる目標設定法』金津健治著、日本経団連出版を参考に筆者修正)

 

チャレンジ目標の数としては、3つです。最初は一つしか設定できないかもしれません。しかし、段々と慣れることで3つに設定できるようになります。

 

取り組み姿勢

取り組み姿勢は、基本的には全社的に統一して、会社の企業風土のベースとなるようにします。この土台がしっかりしていなければ、より好ましい企業風土は作れません。

 

要素としては、「規律性、積極性、協調性、責任性、明朗性、柔軟性、使命感、自律性、危機感、チャレンジ意識、コスト意識」等が挙げられます。4~5つを目安に選択してください(図表8)。

 

[図表8]取り組み姿勢の例

 

運用後にこれらの取り組み姿勢が守られて達成したと判断したら、他の項目を入れ替えてバージョンアップしていきます。

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