※本連載は、株式会社中央人事総研代表取締役・大竹英紀氏の著書、『今いる社員で成果を上げる 中小企業の社員成長支援制度』(合同フォレスト)から一部を抜粋し、これまで100社以上のコンサルタントを通じて多くの成果を出してきた経験をもとに筆者が構築した、社員のやる気と能力を最大限に引き出して会社の業績をアップさせる「社員成長支援制度」の活用法を紹介します。

真面目にコツコツやる管理職では、成長できない時代

(1)社長の鶴の一声で決まってしまう「ドンブリ人事」

私の経験からいえることは、実は、多くの中小企業において昇格・昇進制度はあまり機能していないということです。ここでいう昇格とは、いわゆる人財役割責任等級基準において上位等級に上ること、昇進とは上の役職に就くことを指します。

 

運用がうまくいっていない多くの企業は、社長自身が経験や勘、恣意的な判断で等級を勝手に上げたり、管理職に任命したりしています。たとえば、年齢が40歳を過ぎ、毎日頑張っているからという理由で課長に昇進させてしまうことです。社長としては課長職にすることにより、役職手当の加算で給料アップを狙ったのでしょう。

 

これは実力評価で昇進をしたわけではありません。つまり「ドンブリ人事」をやっているわけです。

 

本当に管理職に適しているのであれば問題はないのですが、そうではないケースが中小企業では多々あります。「ほかに適任がいないから、仕方なく管理職に任命している」「年功で順番に指名している」「昔からの番頭さんだから」という正当な理由ではないことがしばしばあります。

 

(2)不適格管理職を適格管理職に――管理職任命の条件はリーダーシップと社長の意図をいかに汲めるか

もちろん中小企業の場合は、人数が少なく管理職に任命できる人が少ないという厳しい現実があります。しかし、いわゆる「不適格管理職」を組織にはびこらせると、現在の社員、これから入社してくる社員に悪影響を与えます。つまり人が育ちません。

 

ある製造業の社長が「うちの課長は、仕事は真面目にコツコツやるんだけど、どうも人の管理やリーダーシップ面では弱くて…」と、自分のそれまでの教育の不出来を反省しながら言われたことがとても印象的でした。

 

今、「働き方改革」という国策を中小企業も否応なく進めなければいけない時代に突入してきました。真面目にコツコツやる管理職ではなく、社長の意図を汲んで、生産性向上を目的に自ら部下を目標に向けて引っ張っていく「適格管理職」が求められます。

 

(3)昇格・昇進の目的

具体的な制度を作る前に、この昇格・昇進の目的をお話しします。

 

図表1のように、4つにまとめることができます。

 

1. 適所に適材を配置するため

2. 社員自ら挑戦する姿勢をつくるため

3. 計画的に人材育成を図るため

4. 公正な処遇を行うため

[図表1]昇格・昇進4つの目的

 

この昇格・昇進のルールを明確にすることは、上の等級や役職に上がる基準をはっきりとさせるということです。社員から見たら、今まで何となく等級や役職が上がってきた状況から、「こうすれば上がるんだ」という納得感と安心感があります。そうすることで、本当の力がある管理職が自然と育っていきます。もちろん、そのための教育が必要になります。

 

その結果、「よし、今までより高い目標を設定して、頑張ってみよう」という自律的な気持ちが生じてきます。これは私が個別指導している企業による運用上の取り組みの中からジワジワ感じることです。

昇格・昇進の基準が明確ならば、若手社員も希望をもつ

4昇格の具体的ルールの設定方法

まず、昇格に必要な具体的ルールを7つ説明します。

 

人財役割責任等級基準の達成具合

第4回で紹介しましたH社の事例の人財役割責任等級基準を見てください(図表2)。本人の該当する等級における役割責任の基準の項目数が7割以上あれば、その等級の役割達成基準に到達したとみなします。

 

[図表2](人財役割責任等級基準 製造業H社事例) ※1…図表1「人財役割責任等級基準」の基本的な役割・責任の考えの1~4 を示している。 ※2…昇格のときにチェックをする。できていれば○、できていなければ×を付ける。
[図表2](人財役割責任等級基準 製造業H社事例)

 

それぞれの項目ができているかどうかは上司と部下の面接によって、一問一答で具体的に回答できればOKになりますし、曖昧な回答であればそれはできてないということになります。そのような判断でここは進めてください。

 

評価結果

ここは会社の社員チャレンジシート(関連記事『総務・経理部門はどう評価?「人事評価基準」を明確にする方法』参照)の結果を使います。基本的には、直近の3年間の評価結果を見ます。

 

たとえば、2等級から3等級に昇格するときは、評価B以上を3回以上に、4等級から5等級に昇格するときは、評価B以上を1回以上かつA以上を2回以上というように、上位の等級に昇格するにつれてレベルを上げていきます(アルファベットのSABCDは人事評価の5段階の評価を表しています)。

 

上司の推薦

昇格の条件が揃っている自分の部下に対して、昇格申請書を書きます。部下の長所を中心に書きますが、課題も把握することが今後の上司としての指導のために必要です。この昇格申請書の作成によって、部下本人は昇格に対する役割意識が高まり、上司は部下に対する期待基準が明らかになります(図表3参照)。

 

[図表3]昇格申請書

 

人事レポート

大企業のように数十ページものレポートを書かせる必要はありません。これは、本人の考え方を会社が知るとともに、今後の本人の教育に使うためです。具体的な人事レポートのテーマを挙げてみます。

 

●5等級から6等級に昇格する場合「当社の中期戦略について(自分の考え)」

●4等級から5等級に昇格する場合「①業界の現状と課題、②会社全体の問題点とその改善策」

●3等級から4等級に昇格する場合「①業界の現状と課題、②決意表明(4等級としての役割とは)」など。

 

人事レポートのテーマは、会社によってさまざまです。内容が悪ければ、昇格させないということではありません。しかし、内容が悪ければダメ出しをして、何度でも書き直しをさせる必要があります。そうすることによって、自分の考えを整理する力が養われます。これには時間はかかりますが、ぜひ実践してください。

 

⑤社長(役員)面接

大企業のようなきっちりとした面接ではありません。社長(役員)が昇格者と面談をすることで、本人に対する期待や要望を熱い想いで語っていただくことが本筋です。

 

必要な資格取得

会社にとっては、この資格は何等級までには取っておいてほしい、というものがあります。もちろん、この資格がないと会社の仕事が回せなくなるケースもあります。たとえば、不動産会社であれば宅地建物取引士、物流会社であれば危険物取扱者、運行管理者、フォークリフト運転技能者などがあります。

 

必要な研修

中小企業の場合は年間を通じて、頻繁に研修を実施することは難しいのが現状です。ただ、上位等級(課長、部長)になるには、①マネジメント力(部門業績を統制する力)、②リーダーシップ力、③コミュニケーション力が大変重要になります。

 

この3つは人を育てるための技術、技能となり、役職者になってから、慌ててこれらを身につけることは困難です。したがって、上位等級になる前に必要な研修を最低限受講しておくべきです。地元の商工会議所の講習会でも十分です。まずはそれを理解することが上位等級になるための最低条件となります。

 

以上7つの昇格ルールについて説明しましたが、すべてを盛り込むと継続するのが大変です。この中から、自社に適した基準を選択して実行してください。図表4にある「必須」とは、導入すべき基準であり、「選択」は会社の中で優先順位を決めて導入してほしい基準です。

 

[図表4]昇格の基準例(建設会社N社)

 

昇格ルールを明確にすることは、管理職の登用にも透明性をもたせることで、若手社員へ夢を与える原動力になることは間違いありません。

 

実際の昇格の流れについては図表5で説明していますので、ご参照ください。

 

[図表5]実際の昇格の流れ
今いる社員で成果を上げる 中小企業の社員成長支援制度

今いる社員で成果を上げる 中小企業の社員成長支援制度

大竹 英紀

合同フォレスト株式会社

社員のやる気と能力を最大限に引き出し、会社の業績をアップする! そんな人事制度・評価制度を構築する方法をご紹介。 事例を交えた具体的な運用のコツも詳細に解説しています。

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