部門(職種)階層(等級の区分)ごとに評価基準を設定
前回、社員チャレンジシートの内容を説明しましたが、次にチャレンジシートの対象者を決めていきます(関連記事『人事評価と人材育成を効率化する「社員チャレンジ制度」とは?』)。どの階層、どの部門(職種)に対して作成していくかです。つまり、部門(職種)×階層(等級の区分)=社員チャレンジシートの枚数となります。
等級ごとに設定するという考え方もありますが、中小企業の場合、等級ごとの差を埋められずに運用も大変難しくなるため、階層で設定することをお勧めします。さらに具体的に説明しますと、階層別はおおよそ2~3つが目安です。会社全体として、上級職(管理職)、中級職(中堅職)、初級職(一般職)として区分します。
たとえば会社として6等級の等級区分であれば、上級職を6、5等級、中級職を4、3等級、初級職を2、1等級とします。以上が3階層です。会社全体として、4等級の場合、上級職を4、3等級、初級職を2、1等級とすることも可能です。4等級というのは、社員数からいうと10~20人を想定します。
まだこのレベルだと組織がしっかりしていないため、まずは2階層で設定したほうがうまく運用しやすいのです。
評価基準を明確にするには?
次のステップとして、社員チャレンジシートの評価項目における評価基準を決めます。この評価基準については、「評価者の評価にバラツキが大きい」「3という真ん中の基準になりがち」「評価者によって甘辛傾向がありすぎる」などの問題を個別相談からよく聞きます。まずここでは評価基準を明確にします。
【評価の基本的な基準】
まず、通常5段階のレベルの中で「3」を明らかにします。つまり、「3」というのは「会社が期待をし、要求するレベル」を考えてください。わかりやすい言い方をすると「この仕事はここまでやってください」という目標(指示)に対して、達成すれば「3」となります。これが世間一般でいう「普通」というレベル感です(図表1~4)。
ウエイトは、等級、役職、仕事の重要度によって変えていきます。ウエイト付けをすることにより、社員にどの分野に力をかけてほしいかを会社がハッキリと伝えることができるのです。以下の5つの考え方で検討してください。
①仕事の重要度・責任・期待度に応じてウエイトの配分を設定する。
②上級職になるほど、役割成果に対するウエイトが高くなる。
③初級職になるほど、役割成果に対するウエイトが低くなり、反対に重点プロセス業務・チャレンジ目標・取り組み姿勢が高くなる。
④等級が低い社員に対しては、仕事の基本を確実に習得するために、重点プロセス業務、取り組み姿勢に重きを置く。
⑤上級職は役割成果に重きを置きながら、同時にマネジメントと人材教育を重視する(図表5)。
総務・経理部門など間接部門の目標設定方法
役割成果において、営業部門等の比較的数字目標を設定しやすい部門はいいでしょうが、数字目標を設定しにくい総務・経理部門など間接部門では、最初はかなり設定に戸惑うかもしれません。
そこで、間接部門はもちろん、直接部門を含めて自部門の役割を考えることによって、役割成果が出やすくなります。それは、次の視点で検討することがヒントになります。
「あなたの部門がなくなったら、誰がどのように困りますか?」
この問いに答えることで、自部門の役割がはっきりとしてきます。たとえば、総務経理であれば、もし総務経理がなくなったら誰が困るかです。「毎月の給与を払えなくなる」「毎月の試算表が出なくなる」「人の採用ができなくなる」「社員教育の計画とその実行ができなくなる」「社員の評価の手続きができなくなる」など・・・。
経営を揺るがす根幹的な問題が生じます。それをもとに、以下のように部門の役割を検討します。製造業K社の事例です。
【K社部門の役割の例】
□営業部門:会社のブランド、商品サービスを取引先にPRし、取引、回収、継続受注する。
□製造、技術部門:顧客に喜ばれる品質、適正価格で製品を作り続けること、また市場や顧客のニーズに合ったサービスを開発および提供し続ける。
□管理部門:会社と社員を共に元気にするために、人とお金の両面を効果的に活用して、会社の業績アップに貢献する。
次に数値設定をしにくい管理部門の役割をもとに、実際にどうやって社員チャレンジシートを作っていくのかを以下に説明します。作成のステップは次の2点です。
①管理部門で実際にやっている・やるべき業務を整理する。
②どの階層で各業務における実行責任者なのか、実務担当者なのかを明確にする(図表6)。
まず、図表6について説明しましょう。
この表はK社の管理部門が、①実際に担当している業務を洗い出し、②今一度、部門の役割に立ち返って不足していたと考える業務を追加したものです。表の(*)の部分が追加検討した一部です。
(*1)から(*5)に関しては、単に担当者がやっているだけで、チェック、改善などの全社的視点がありませんでした。また(*6)の売上・利益計算も事務担当者任せで集計しているのみで、それに対して他部門へ収支改善を積極的に働きかけていませんでした。それも踏まえて、③各々の業務を、初級・中級・上級の各階層の社員が何を主に担当すべきかを見える化しました。◎、○、△で表し、以下のように定義しました。
◎:「実行責任者」その階層が実行の職責(責任)を負うべきもの
〇:「主担当」実行責任者の指示や要請によって実行すべきもの(実務担当者)
△:「場合によって実行」人員不足(急な担当者欠員、休暇・欠勤等)の場合に実行・補助すべきもの
さて、この定義にはもう一つの「想い」も込められています。
多くの中小企業では、人財役割責任等級基準を定めても、実際の個人の業務では初級・中級・上級の階層枠をまたいで実行していることがほとんどです。人手不足等のさまざまな要因で、プレーイングマネージャーとして一人二役・三役をこなしている管理・監督職が多いのも実態です。
そのような背景のもとで、杓子定規な業務分担表を作ってしまうと、多忙な日々の中でついつい「これさえやればいいんだ」となってしまい、本末転倒になってしまう恐れがあります。
そこで「実行責任者」が、その階層が絶対的に責任を負うべきことを明確にします。そうはいっても、「主担当」「場合によって実行」に該当する者が業務支援や補助をする必要があるということを、会社の意思として定義しておくのです。◎〇△ではなく、階層別の業務優先度(順位)付けをして、多種類の業務を担ってもらう必要性を示している企業もあります。
図表6と「人財役割責任等級基準」「部門の役割」「部門目標」を確認することによって、個人の社員チャレンジシート上の項目(役割成果、重点プロセス業務、チャレンジ目標)への記入内容の絞り込みをしやすくすることが、この表を作成する目的(狙い)となります。
図表7は、「人財役割責任等級基準」「部門の役割」「部門目標」「担当業務表」をもとに、各階層が記入した社員チャレンジシート項目の記入事例です。
役割成果欄には、①数値目標、②状態目標、③スケジュール目標で目指すことが記入されています。このように書くことで、評価する側・される側双方の検証(PDCAの中の「C」)ができます。
重点プロセス業務欄では、役割成果を達成するための重点業務内容が具体的に記入されています。チャレンジ目標欄では、①一つ以上高い等級の主担当業務に挑戦、②現在の担当業務の質やスピードをより高めるための挑戦事項が記入されています。
取り組み姿勢欄では、会社として初級・中級には「積極性」「責任性」「規律性」「協調性」を求め、各自が具体的にどんな行動をとるのかを記入してもらいます。上級には「積極性」「責任性」「協調性」に加えて、「人間性」を求めています。この会社では、管理職には人間性を磨き、部下の納得性を高める行動を望んでいます。
いかがでしょうか。以上の考え方と事例を参考にすれば、記入にあたっての戸惑いはかなり軽減されるのではないでしょうか。
管理職を巻き込んで人事プロジェクトを立ち上げる
実際に制度を作る体制、やり方について一つ言及します。それは、プロジェクトチームを作って行う方法です。
このプロジェクトは部門長、責任者などの管理職を集めて、人財役割責任等級基準、社員チャレンジシート、昇格ルールなどを一緒になって作り上げていきます。会社側で一方的にこの制度を作るより、各部門の責任者を集めることにより、制度に対する理解が深まり、自分たちが改善しようとする意欲や行動につながるからです。
この方法により、人事制度を構築した後の運用で効果が発揮されます。
制度を運用するにあたっては必ず問題点が発生しますが、プロジェクトメンバーが制度全体を理解しているために、改善がうまくでき、とても有効な手段です。さらに、初めて制度構築を行う際は、我々のような外部の専門家を導入し、実施するとスムーズにいくでしょう。