本連載では、宮本剛志氏の著書『怒る上司のトリセツ』(時事通信社)より一部を抜粋し、相手の怒りを消火する「起承転結法」という対処術を紹介している。本記事では、最後の「結」のパートを取り上げた。怒りをおさめた相手と関係を続けていくかどうか、どのような基準で判断すべきであろうか? また、相手と良い関係を構築するには、どのような対処法があるだろうか?

良い関係を築くより、関係を絶った方がよいケースも

 「結」の術   効果的な「クロージング」

 

「起承転結法」のラストは「結」の術です。これは「怒り」の対処におけるクロージングに当たる技術です。「転」の術で見たような、「意欲」を示して次につなげることとも重なる部分があります。

 

しかし、「怒り」の対処は、怒っている人の「怒り」の度合いや性質により臨機応変な活用を心掛けましょう。「結」の術の終わり方には、主に次の2つがあります。

 

①相手との今後の良い関係につながる終わり方

②相手の怒りが強く、関係を絶った方がよい終わり方

 

これまで見てきたのは、職場や取引先など、なかなか人間関係そのものから逃げることができない、だからこそ悩みも日常化し深刻化する事例でした。そのため最良の終わり方は、良い関係を出口としてきましたが、それを選ばなくてもよい場合も多くあります。

 

例えば、店舗等の対面対応で、何度お詫びをしても、くり返しクレームを言ってくる、執拗に謝罪を求めてくる来店客への対応。または、電話口で延々とクレームを言い続ける相手への対応などです。いずれもあなたが「その場」以降も相手と何らかの関係を続ける必要はないのですから、「関係を絶った方がよい終わり方」を選べばよいのです。

怒られて、自分を責めてしまうのは「自信過剰」

「結」の術の極意には「交代する」もある

 

私が会社員の頃、担当した「お客様相談窓口」で受け取った電話内容を紹介しましょう。すでに長々と一方的なクレームを話した後、相手は、急になれなれしい口調でこう言ったのです。

 

「あのさあ、私が困るって言ってるの、分かる?分かるなら、今すぐ家に来て土下座するんじゃない? 何でそんなこともできないの? ねえ? やらないなら、その理由を私に分かるように説明しなさい! そもそも悪いのはあなたでしょ!」

 

今なら、相手の理不尽さを客観的に見ることもできますが、当事者として耳元で強い語気の激しい言葉を受け止めていると、本当に「自分が悪いんだ」と真に受けてしまうくらいの迫力でした。相手の「怒り」の理由を自分と無関係と割り切るのが難しい状況でした。こちらが引けば引いた分だけ、相手が入り込んで怒り続ける。その度に自分を責めてしまう。これはもう「仕事」の限度を超えて、わが身が危険にさらされている状況です。その場から「逃げる」必要があります。

 

しかし、街で不審者にからまれているわけではないので、職場や業務から逃げることは現実的にはできません。しかも、会社としては「お客様」の対応はしなければなりません。そのクロージング要件を満たすのが、「交代」です。

 

電話業務でも店舗での対面業務でも、クレーム対応中の担当者は、相手の「怒り」が収まり、穏やかな気分になり、納得してもらうことが自分の責任と考えることでしょう。それ自体は間違っていません。しかし、クレーム対応に「完璧」な答えはありません。それ自体が商品でも本来の対価サービスでもないのです。

 

しかし、怒り続ける人を前にすると、責任感ゆえに自分を責め続けてしまう人もいます。そうした生真面目な人に、私ははっきりと伝えたい。「それは、自信過剰ですよ」と。相手は人間です。「怒り」はその人の価値観から生み出される感情のエネルギーです。他人の感情をコントロールすることなど、できないのが当たり前なのです。ですから、あなたが精いっぱい対応しても相手の「怒り」が収まらないなら、フッと息を吐いて力を抜き、「致し方ない」と割り切ることも必要です。

 

「今回はここまでやり切った」という自己肯定感を持つ

 

「仕事」としての限度を超えたと判断した場合は、もう自分は「やり切った」と「選手交代」を申し出ましょう。怒りやすい人は激情のあまり、拳を下ろすタイミングを見失いがちです。担当者が「交代」することは、そのきっかけを与え、相手を助けることにもなります。

 

自分で「やり切った」という肯定感を持つ事が大切なので「10点満点で今回は5点までやり切った」と自己採点するのもよいでしょう。「次は6点取るぞ」と少しずつ肯定感をアップさせていきましょう。ここで大切なのは「1点上げる」です。いきなり10点満点を目指そうとすると硬くなったりして、また失敗します。

 

この経験を次の顧客対応に生かすことができる、もしかしたら今度は自分が誰かと交代してあげられると考えればよいのです。交代の選択は、関係を絶つ一方で、もう「怒る・怒られる」の関係を続けないですむ、相手や周囲との、究極の「良い関係」につなげる判断でもあるのです。

 

結の極意

「全部話したい」をグッと抑える

一方的な「説明」は、相手の「怒り」のスイッチを連打しているようなもの。

相手の評価のタイミングを見逃さず、クロージングの技術を磨く。

 

「逃げる」も1つの終わり方

相手の気持ちはコントロールできない。

担当者が「交代」することで収まる「怒り」もある。

 

「怒り」への対処の終え方は、相手とのその後をどうしたいかで変わってくる。

続けるもよし、絶つのもよし。大切なのは、あなたの平穏な日常です。

 

こんなの理不尽! 怒る上司のトリセツ

こんなの理不尽! 怒る上司のトリセツ

宮本 剛志

時事通信社

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