今回は、怒りに負けない9つのスキルのうち、「自分を知る」ことと「アイ(I)・メッセージ」について見ていきます。※本連載では、シニア産業カウンセラー・研修講師の宮本剛志氏の著書、『怒る上司のトリセツ』(時事通信社)の中から一部を抜粋し、怒りのメカニズムと周囲の怒りに正しく対応する方法を紹介していきます。

「自分が安らげること」を優先していい

 自分えるスキル②  自分

 

相手の「怒り」を知り、「自分」をもっと知る

 

ここまで紹介してきたスキル(関連記事『もうガマンすることはない!怒る上司を静かにさせる「起承転結」対応術』)は、対人関係の技術です。対人とあるからには、もう一方は自分自身です。自分自身をもっと知ることで、スキルはさらに向上します。

 

相手の「怒り」に巻き込まれるのは、自分の中に理由を探してさまようからだとここまで説明してきました。そもそもなぜ、相手の「怒り」を自分で心の内側に引き込んでしまうのでしょうか?それは「怒り」の中に、「相手が期待する自分」「より良く改善しなければならない自分」を探してしまうことも一因です。

 

相手の怒りが気になるということは、自分の中に相手に求めていることがあります。例えば、「こんなことで怒るべきではない」「もう少し寛容になるべき」「私の話も聞くべき」と。そこにあなたの不安や不満の原因があります。そこを、「まぁ、そういう人もいる」「この人を変えるのは難しい。だから放っておこう」「労力かけても無駄。別のことに力を入れよう」と思ってみてください。

 

怒る相手に受け身にならない

 

自己改善は、誰もが持つ意欲です。しかし、それを他人の価値観に求める必要はありません。人は、自分の求める自分にしかなれないのです。親の期待、教師の期待、会社の期待…、常に他人が求める姿、それに応えることで得られる評価をこれまでは気にしてきたかもしれません。時には、自分の納得できないことにも頑張ってきたかもしれません。

 

しかし、あなたはもう1人の大人です。自分にとって最も安らぐ日常を手にする、そのために日々を生きる選択をしてかまわないのです。受け身であることをやめ、他人の「怒り」に巻き込まれるのをやめてよいのです。

 

そのためには、もっと自分を知りましょう。そしてもっと自分を大切にしましょう。大切な自分のことを怒る他人に、自分の心の中の場所を与えることは、もうやめましょう。そのための技術が、本連載で伝えたい、あの人の「怒り」に負けない「処方せん」です。

「自分」を主語にした言葉で相手の警戒心を和らげる

 自分えるスキル③  アイ(I)・メッセージ

 

「相手主語」は攻撃、「自分主語」は提案の印象を与える

 

次に、今まさに相手と対面中に使える防御のスキルを見ていきましょう。

 

「アイ(I)・メッセージ」は、怒る側にも怒られる側にも有効なスキルです。「アイ・メッセージ」の説明の前に、その反対の「ユー(YOU)・メッセージ」について触れておきます。

 

「ユー・メッセージ」とは、「君は、何でそんなこともできないんだ!」「あなたの指示は間違っている」など、相手を主語として意見を伝える話法です。相手に対し、「責任」を求めたり、「否定」を伝えたり、攻撃的な印象を与えます。また「私は勝ちで、あなたは負け」というメッセージを含みがちです。

 

そのため、言われた相手の感情としては、防衛本能が働きます。「ユー・メッセージ」で怒られた人は萎縮し、思考停止になってしまい、一方、怒られた側も言い返しに「ユー・メッセージ」を使うと、さらに相手の「怒り」を増幅させます。

 

しかし、「ユー・メッセージ」を「アイ・メッセージ」に置き換えると、相手の受け取り方が変わります。

 

誰かを怒ってしまう時

あなたは、何でそんなこともできないんだ!」

→「私は、あなたならできると期待していたんだよ」

 

怒られた時の言い返し

あなたの指示は間違っている」

→「私は、こうやりたいと思っているんです」

 

「相手主語」を「自分主語」に置き換えることで、相手への攻撃性はグッと弱まります。特に怒っている人は、その本質に「不安」「弱さ」を抱えているので、防衛本能も高まっています。そこへ反論されたと思うと、「怒り」が増幅してしまうのです。

 

この「怒り」の増幅は、周囲にも広がる時があります。

 

例えば、上司の理不尽な「怒り」を他の人に相談する場合、「部長が間違っている」と伝えると、第三者であっても「あなたに非はないのか?」と考えがちです。その時は「私は、怒られると萎縮してしまうので」と自分のことを伝えます。すると第三者も「それは大変だったね。どんなことを言われたの?」と共感を示しやすいのです。

 

「アイ・メッセージ」は誤解を少なくする

 

次の事例は、上司1人と部下4人を対象にしたカウンセリングを元にしたものです。これまでと少し違うのは、怒られているのは上司の方なのです。

 

仕事が「できる」4人(30代から40代)の部署に、新しい上司Fさん(男性・50代)が部長として異動してきました。Fさんも社内では「できる」と定評のある人物。4人の部下は、やりがいのある職場になるぞと期待を持ちました。

 

ところがFさんは、部にきた仕事を自分の采配で処理し、各自に最低限の指示を与えるだけ。「これ、お願い」「ああ、これでいいよ」「これは、私が何とかしておくよ」と、自己裁量で仕事を回していってしまいます。確かに部の仕事はそつなく回りますが、4人の部下は何だか納得できません。やがてFさんに対して「部長、あなたの指示はどんな意図があるんですか?」「部長は、取引先にどう提案しているのですか?」「部長は…」と問いただすことが日常化していったそうです。

 

私が、カウンセリングを始めた時、その部署の5人の関係は最悪の状態でした。Fさんと部下たちを別々に面談した内容はこんな感じです。

 

Fさん「4人とも言うことを聞いてくれません。反発するばかりで不満しか言わないのです」

 

部下「私にだってそれなりの実績がある。命令だけされる将棋の駒じゃない」

 

Fさん「彼らは、放っておくと仕事をし過ぎてしまうタイプ。私には業務管理の責任があります」

 

部下「私を信頼していないのか、簡単な業務ばかり指示してくる。傷つきます」

 

Fさん「彼は、以前に体調を崩したことがあるのです。そうならないように仕事量を考えています」

 

部下「まったく聞く耳を持ってくれない。モチベーションは下がりっぱなしです」

 

Fさんが、これまで部下たちに自分の気持ちを伝えたことはないそうです。Fさんは、「働きやすい職場をつくりたいのだが…」とため息を漏らしていました。一方、部下たちは日ごろから、直接Fさんに「あなたは」「部長は」と言いたいことを伝えてきたのでストレスはありません。

 

管理職としてのFさんの気持ち、部下たちの熱意もよく分かります。しかし、互いが「ユー・メッセージ」を使っているため、話し合いが成立しないのです。そこで私は、5人全員に「アイ・メッセージ」の使用を勧めました。すると、その後、5人が相手に使う言葉がずいぶんと変わりました。

 

部下はFさんに

 

私たちは、目的や期待を知りたいんです」

「その上で、私たちにも何か踏み込んだ提案ができないか、考えさせてください」

 

と言うようになりました。

 

Fさんも部下たちに

 

「優秀な人材だから、私は君の体調が心配なんだ」

 

と伝えるようにしました。すると、部下たちは、

 

私は、もう十分回復しています。安心してください」

私たちもワークライフバランスに配慮した働き方を一緒に考えます」

 

と答えるようになりました。

 

良かれと思って、部下の管理の一切を取り仕切ったつもりのFさんでしたが、部下たち自身の気持ちに閉塞感を持たせていたことを理解し、反省しました。それからは、部内全体で情報共有し、意見交換も活発に行っているそうです。部下たちも「自分たちへの配慮だとは思ってもいませんでした。何でも自分ひとりでやってしまう上司だと、残念な気持ちでいっぱいになり、反発していたんです」と、自分たちの誤解に気付いたと言います。

 

このように、怒る人の意見を一方的に受け止めず、反論する際も、「私はこう考えます」と「アイ・メッセージ」で伝えるようにしましょう。

 

こんなの理不尽! 怒る上司のトリセツ

こんなの理不尽! 怒る上司のトリセツ

宮本 剛志

時事通信社

他人の怒りに悩む人が増えています。 しかし、その悩みに振り回される必要はありません。 喜怒哀楽の感情は、本来、自分の中から湧き起こるものです。それなのに、なぜ、あなたの「哀」が他人の「怒」によって生まれ、それ…

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