相手の怒りの時間を短縮する「傾聴・伝え返し」
相手を変えるスキル① 傾聴・伝え返し
相手の気持ちを察する
さて、ここまでさまざまな「怒り」の理解、その対処・防御法を見てきて、怒っている人に対する印象や、怒られている自分の「不安」がだいぶ変化してきたのではないでしょうか?「どうにかなる」「変えていける」「改善も可能だ」と少しでも思えてきたなら、あなたの日常は、確実に良い方向に向かっていくはずです。
ここからは、さらに実践的な防御法を紹介していきます。
第5回(関連記事『すぐに謝罪したBさんが取引先の社長を「さらに怒らせた」ワケ』)の「起承転結法」の「承」の術を応用し、今、まさに怒っている人の「怒り」に正面から向き合ってみましょう。「承」の術では、「耐える」のではなく「理解」を示し、「共感」を得るための技術を紹介しました。「説明」は「言い訳」と受け取られるので、相手の「怒り」の発火点となっている「出来事」と「気持ち」への理解を示すという技術でした。
ここで紹介する「怒り」への向き合い方は「傾聴・伝え返し」です。
文字通り、耳を傾けて聴くことで「相手の気持ちを察している」ことを伝えます。「怒りのピークは6秒間」の後も「怒り」が止まらず、ずっと怒り続けている人がいたとします。「はい」「すみません」だけでは、収まりそうにもない状況です。これは、長くなりそうだと思ったら、「傾聴・伝え返し」で対応してみましょう。これは、言われていることを受け止めて、そのまま相手に返す方法です。
「怒り」を止める「伝え返し」
まず怒られている例を見てみましょう。
「君は大事なお客様を怒らせてしまったんだぞ。どうするんだ! 部署の皆が対応に追われて困ってるんだ。分かっているのか? どうなんだ? どうするんだと聞いているんだ! 部署の皆が対応に追われて困ってるのが分からないのか?」
大変な事態だと分かっても、「どうするんだ」と聞かれても軽々に答えることはできません。期待する答えと違えば「私の言っていることがまだ理解できないのか!」とさらに「怒り」の火に油を注いでしまうような状況です。
しかし、ここで怒られているだけでは時間の無駄です。相手の「怒り」の連鎖を止める必要があります。「傾聴・伝え返し」を次のように使ってみましょう。
「君は大事なお客様を怒らせてしまったんだぞ。どうするんだ!」
「お客様は怒ってしまったんですね。申し訳ございません」
「そうだ。さっきからそう言っているだろう。これは大変なことなんだぞ!」
「はい。大変なことだと思います」
「そうなんだよ。そのせいで、部署の皆が対応に追われて困ってるんだぞ」
「皆さんを困らせてしまい、ご迷惑をおかけしました」
「そうだ。ただ、今回は、お客様もこちらに対応を任せると言ってくれている」
「そうですか。お客様もそう言ってくださってるんですか」
「そうだよ。とりあえずは一安心だが…。しかし、リカバリーは大変だぞ。反省している
なら、仕事で挽回してみろ。分かったな」
「はい」
怒っている相手の言葉におうむ返しで相づちを入れているだけなのですが、相手にはそれが「自分の言葉が届いている」「理解をしている」という認識に変換されます。
1つ大切なポイントは、「傾聴・伝え返し」をしつつ、自分なりの「反省している表情」も同時につくることです。せっかくの「傾聴・伝え返し」も、ぶっきらぼうな言葉や愛想のない表情では効果が薄くなります。人はどこからメッセージを受け取り、判断するかという心理学の法則(メラビアンの法則)によれば、「表情や態度」が55%、「声のトーンやスピード」が38%、「言葉そのもの」が8%です。まさに「人は見た目が9割」なのです。
「怒り」の感情は、なかなか止まりにくく、放っておけば勢いを増して長期化します。しかし、感情を深く受け止めたように相手に見せて、理解していると伝え返すことで「まだ分からないのか」が「少しは分かったようだな」に変わり、「怒り」の蛇口は徐々に閉まっていきます。「傾聴」は、相手の怒っている時間を短くする技術です。
相手の怒りを抑制し対話を可能にする「好意の返報性」
相手を変えるスキル② 好意の返報性
怒っている人の心に1歩踏み込む
怒っている人を目の前にして、ただ耐えてやり過ごすのではなく、1歩でも話を前に進めなければならない時があります。
そうした時に有効な、相手の「怒り」を抑制し、かつ、こちらとの対話やコミュニケーションを可能にするスキル「好意の返報性」を紹介します。「好意の返報性」とは、自分に好意を持ってくれている相手には好意を「お返し」したくなる心理の法則です。
自分を変えるスキル③「アイ・メッセージ」でも出てきましたが(関連記事『「私は、あなたならできると思う」…自分を主語にする会話術 』、怒っている人は、その根底に「不安」がある場合が多いので、批判や攻撃に弱いという特徴があります。「アイ・メッセージ」では、自分を主語にして相手の警戒心を和らげました。「好意の返報性」では、さらに1歩相手の心に踏み込んで、一方通行の「怒り」の流れを変えて、コミュニケーションを図ります。
第5回(関連記事『すぐに謝罪したBさんが取引先の社長を「さらに怒らせた」ワケ』)の最後でも紹介した、意表を突く「感謝」にも通じます。そこで説明したように、「相手は意表を突かれ、冷静になると同時に、嫌悪感から救われることに感謝する」ことを活用するのです。