かつて、医師のキャリアの王道は「勤務医」だったが…
医師は医学部を卒業した後、かつてはほぼ全員が大学の医局に属し、組織の一員としてキャリアを重ねていました。
後に大学病院を辞めても多くは、関連病院である公立病院や私立病院などに勤める勤務医として治療に従事していたのです。
開業を選ぶ医師の多くは、勤務医を続けられない何らかの理由があったり、親が開業医で実家の医院を継がなければならなかったりという事情を抱えていました。あくまで王道は勤務医、という考えで、独立や医院承継といったキャリアを選ぶのは決して一般的ではなかったのです。
一方、勤務医として働く場合、大学病院に残るのか、それとも市中病院またはクリニックなどで働くのかという選択肢があります。
学術的なことを研究したい場合は大学病院に残り、大学病院と関連病院を行き来しながら教授を目指すというキャリアです。しかし、どのような大学病院の関連施設に行くことができるのか、どの市中病院で臨床経験を積むことができるのかは全て医局の人事で決められます。医局の人事は絶対で、医局の頂点に存在する教授は絶対君主として君臨していたのです。研究を続けながら最終的に教授を目指すというのが、出世を望むのなら理想とされたキャリアでした。
開業医は高収入ゆえ、わざと貶められていた!?
そのなかで開業医というのは、その理想とされる序列から外されてしまった人たちという見方があった時代もありました。確かに医師のヒエラルキーの頂点に立つ教授の年収はアルバイトを含めれば3000万〜4000万円になることもありますが、勤務医の平均年収は1200万から1500万円程度です。
しかし開業医の場合は年収2000万〜3000万円は当たり前、中には億単位で稼いでいる人もいます。このような収入の格差が存在するために、医局に残った人たちのなかには、大きな収入がある開業医をわざと貶(おとし)めて、やっかみから批判する人たちも多かったのです。
「開業医は医師として王道でない。金儲けばかり考えて賤(いや)しい」
というわけです。
なお、厚生労働省のデータに基づいて図表のように、医師の収入モデルを作成しました。あくまで一例ですが参考にしてみてください。
[図表]医師の収入モデル
①30代後半勤務医の場合
②個人クリニックの開業医の場合
③医療法人の開業医の場合
次回は、大学病院の中における出世コース、大学病院以外の病院の厳しい状況などについて見ていきます。
藤城 健作
ウェルス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長