医局に頼らず、自分でキャリア形成する医師が激増中
医師のキャリアを取り巻く環境が激変しています。これまでのように医学部を卒業後、医局に所属してその後のキャリアを形成するという選択肢以外に、自ら主体的にキャリアを形成する人も増えてきました。
そうなった最も大きな要因は、2004年からスタートした新研修医制度(新医師臨床研修制度)でしょう。
この制度ができる前は、新人医師は慣習的に母校の特定の科(医局)に所属し、研修を受けるのが一般的でした。研修後のキャリアプランも医局主導で立てられることが多かったため、医局に所属し、組織人として生きることが医師のキャリアのいわば王道だったのです。
しかし、新研修医制度の施行以降、医師のキャリアに対する医局の影響力は大きく低下。この改革では、新人医師は特定の科目に属さず、多数の科をローテートしながら、経験を積むことが法律によって義務付けられました。
さらに、研修は自分が卒業した大学病院だけでなく、厚生労働省の認定を受けた一般の病院でも受けることが可能になっています。
結果、症例数が多く治療技術を学ぶことができる大都市の病院に研修に行くなど、研修医が医局から離れ、自由に研修先を選ぶことができるようになりました。そして制度が施行されてから14年が経ち、自分のキャリアは医局に頼らず自分で形成するという考え方は、もはや当たり前になってきています。
そのようななかで、早期に開業を目指す医師が増えています。1996年には8万7909あった一般診療所の数は、2016年には10万1529に到達。20年間で1万3620施設も増加することになりました。この背景には、医師の収入の問題が大きく関わっています。
2016年度の厚生労働省「第21回医療経済実態調査」によると、病院勤務医の平均年収は1452万1856円なのに対して、開業医(一般診療所の院長)の平均年収はおよそ2788万505円となっており、開業医は勤務医のほぼ倍の収入があるのです。当直制度による長時間労働や医療事故による罰則の厳格化などによって、勤務医としてキャリアを歩んでいくリスクが高まるなか、自分の裁量で働きやすく、かつ収入も倍になるということで、かつてない開業ブームが起こっています。
安易な開業で大きな失敗をしてしまうケースも
しかし、このように早期に開業を目指す人が増える一方で、安易な開業で大きな失敗をしてしまうケースも少なくありません。
開業には何かとお金がかかるものです。物件の敷金や礼金、機器への投資、スタッフの雇用などの初期費用に加えて、自分の収入も確実に確保しなければなりません。また、人口減少社会の到来によって患者数自体も減少しています。
勤務医として得ることができている安定収入を捨てて開業するのには、大きなリスクが伴います。さらに、自分が重い怪我や病に罹って働けなくなる不安もあるでしょう。
筆者はこれまで開業医の経営や節税コンサルティングに従事しており、数百件に及ぶ医師の業績アップや節税戦略立案のサポートを手がけてきました。数多くのコンサルティングの経験から導き出した答えは「開業を意識して資産形成をできるだけ早くスタートする」ということです。
多くの勤務医の方々は、日々、休みを削りながら過酷な医業に従事しています。このため、資産形成に費やす時間はなく、その高い収入の大部分を納税することになっています。これでは将来は不安のままで、開業どころか定年後の生活も危うくなってしまいます。
そこで、若いうちから資産をつくるという意識を持って、少しでも自己実現のために投資してほしいというのが筆者の考え方です。
いざ開業となった時、何らかの理由で勤務医を辞めなくてはならなくなった時、そんな時に自分の収入がゼロの状態で始めるのと、収益が生まれる資産がある状態から始めるのでは大きな差が生じます。
着実に資産形成を行って、いつでも勤務医を辞められる環境を整えておく。これが低リスクで開業をスタートできる秘訣とも言えるのです。
ただし、資産形成ビジネスについては、医師をターゲットとした悪質な業者もいるのが事実です。医師の特殊な事情を考えずに、闇雲に提案をして、資産ではなく、負債を負わせる業者もいます。そのような業者を見分けるには、正しい情報と知識を身につけることが重要なのです。
藤城 健作
ウェルス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長