相続税・贈与税の納税猶予などの特例措置が延長に
平成29年度の税制改正においてクリニックの事業継承をする際、相続税や贈与税の納税猶予などの特例措置の延長が施行されました。これがいわゆる「新認定医療法人制度」です。新認定医療法人制度は、平成26年度の税制改正で創設された認定医療法人制度の要件を見直し、延長したものになります。
通常、持分ありの医療法人の出資者が亡くなると、その出資持分に対して相続税が課税されたり、出資者が持分の割合に応じて払い戻し請求を行ったりします。
ちなみに、持分ありの医療法人とは、出資者が出資した割合に応じて法人の資産を払い戻すことができる法人のことです。持分は出資額に応じて所有することができる財産権なので譲渡したり、売却したりすることができます。
たとえば、出資金が400万円あり、そのうち100万円を出資した人は、この法人の純資産のうち4分の1を払い戻すことができます。持分は権利であり、相続や譲渡をすることができます。
2006年以前までは持分ありの医療法人しか設立できませんでしたが、2006年の医療法改正で医療法人の非営利性を徹底するために、持分ありの医療法人の設立ができなくなり、持分なしの医療法人しか設立できなくなりました。
持分が相続税法上、相続財産として高い評価を受けることになれば、持分ありの医療法人への出資者には高額の相続税が課税されたり、高額な出資をした人による持分の払い戻し請求が発生する可能性が高くなります。
医療法人の場合、大半が現金資産であることはほとんどなく、設備や不動産などの形であることが多いものです。このため、納税資金を確保するためには、それらの設備や不動産を売却することになり、そうなれば医療法人自体の存続自体が危ぶまれてしまいます。そこで、持分なしの医療法人への移行を促すために、新しい認定医療法人制度が創設されたのです。
認定医療法人制度によって持分のない医療法人へ移行した場合、出資者の相続に関わる相続税や出資者間のみなし贈与税は猶予・免除されます。
しかし、原則として医療法人には贈与税が課税されます。医療法人の贈与税も非課税とするためには高い要件を満たさなければなりません。
ただ、新認定医療法人制度では医療法人に対して贈与税は課されないことになりました。その代わりに認定要件が加わったのですが、その要件も以前に比べるとハードルが低くなったと言われています。
認定要件をクリアするための「3つのポイント」とは?
ただし、以前よりもハードルが低くなったと言われていますが、新認定医療法人の認定要件をクリアするためにはさまざまな条件をクリアしなければなりません。大きくは次の三つの要件がポイントになるでしょう。
まず、第一のポイントです。従来の非課税要件(特定医療法人を想定した要件)では、役員報酬が3600万円以下と制限されていました。新認定医療法人制度はこの点において「不当に高額なものとならない」という基準となりましたが、役員報酬の額は3600万円以下にしたほうがいいのではないかと考えられています。
第二のポイントが「法人関係者に特別の利益供与をしないこと」という認定要件の場合、メディカルサービス(以下、MS)法人や役員との取引を指したものになりますが、MS法人との賃貸借契約や、医療法人からオーナーに対する多額の貸付金などどのように整理されるのか事例が少ないため、新認定医療法人に移行したくても、すぐには認定されない可能性があることです。
第三のポイントが、新認定医療法人の認定要件のなかに、毎会計年度の末日における遊休資産額は、直近に終了した会計年度の損益計算書に計上する事業(医療法第42条の規定に基づき同条各号に掲げる業務として行うものを除く)に係る費用の額を超えてはならないこと(医療法施行規則附則第57条の2第1項第1号のニ)という要件があります。
事業に使っていない資産が法人のなかにあると良くないということです。この遊休資産のなかに不動産などが入る可能性があるということになります。
大きくはこの三つが注目されています。
移行計画の認定制度が実施されるのは、平成29年10月1日から平成32年9月30日の間の三年間です。相続税の納税資金が足りない場合、または出資した人による持分の払い戻し請求が発生する場合などは、とりあえず認定制度を利用して納税の猶予を行って、その間に納税資金を確保する方法が良いでしょう。
ただし、社会保険診療等に係る収入が8割を超えるなどの条件があるので、自由診療が収入の大部分を占めている医療法人によっては使えない可能性もあるので注意が必要です。
藤城 健作
ウェルス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長