勤務医の年金や退職金は少なく、将来安泰とは言えない
医師の働き方は最近、多様化しています。従来の大学病院の医局に残り続けて、キャリアを形成するという選択肢だけではなく早期の開業を最初から目指す医師や勤務医でも、より多くの臨床経験を積みたいという理由から、市中病院で働く医師も増えてきています。
なかでも最近のトレンドは株式会社で起業する医師が増加したことでしょう。医療現場や旧態依然とした医療制度を変えたいという熱意を持って、起業を目指す医師が増えています。そうした背景には、起業を後押しする大学が増えているということもあり、金融機関や商社が医療や健康といった分野への投資を推し進めているという動きもあります。
たとえば、慶応大学医学部では、医療ベンチャー企業を100社創出するということを目指して、2017年から優れた技術を表彰するコンテストを開催しています。医師として現場に立つだけでは、解決できない問題を起業という手段で解決したいという思いを抱く医師が増えたことで、コンテストは大変な盛り上がりを見せているようです。
しかし、選択肢が増えたことで、多様化時代に特有の悩みも増えています。学術研究を極めたいと医局に残る選択肢を選んだとしても、収入は低く将来は不安な事もあるでしょう。
また、市中病院に勤務する道を選んだとしても、昨今は病院を取り巻く医療環境が大きく変化しています。なかには経営に失敗して倒産をする病院も出てくる可能性があります。病院の経営難によってリストラされたり、給与が減ったりしてしまうということも考えられます。
そうでなくても勤務医の年金や退職金は少なく、将来安泰とは言えないのが現実です。そして、クリニック開業や株式会社の起業を目指すと言っても、100%成功するという保証はどこにもありません。開業・起業にはリスクはつきもので、失敗することもあり得ます。組織をつくるのではなくフリーランスで医療に取り組むとしても、仕事が回ってこなくなる可能性はついて回ります。
もし、「医療現場や医療制度を変えるために、ボランティアで自分の全てを捧げる」といった自己実現のための決意があっても、先立つものがなければ当然、実現できません。
別軸の収入源を生み出す資産を所有し、リスクヘッジを
では、どうすればいいのでしょうか?
そこで私がお勧めしているのが、研修医が終わった年から勤務医をいつでも辞められる準備を始めることです。いつでも辞められる準備を始める、というのは資産形成をなるべく早く始めるということです。医業と別軸の収入源を持つのです。
医業は労働収入です。別軸の収入源は不労所得になります。たとえば、不動産を持って家賃収入を得る、というような仕組みを作っておくのです。医業と別軸の収入源を持つことは、勤務医として働き続ける働き方にも有効ですし、開業や起業をするときにも有効です。
特にクリニック開業当初は売上が安定しないことが多く、院長がすぐに給料を取れるとは限りません。不労所得があれば自分の生活もクリニックの経営も安定し、なにより精神的にとても楽になります。
ある開業医Aさんは開業当初、病院からの収入はゼロでした。なぜかというと、保険診療は入金が二カ月後になるからです。しかし、Aさんは別軸で収入源を持っていました。保有する収益物件からの家賃収入です。この収入によって自分の給料を補填していました。
Aさんが不動産投資をスタートしたのはちょうど30歳。開業した45歳の時には物件購入時のローンを完済しており、家賃収入だけで年間1000万円以上に到達していました。
おかげでクリニック経営による収入が芳しくなくても、家賃収入によって資金繰りなどに支障を来さず、安定して経営を続けることができたのです。不動産投資には他にもメリットがたくさんあります。たとえば、資産性の高い収益物件にはそのものに担保価値があることです。所有物件を担保に開業資金の融資を受けることもできます。いざという時には収益物件の一部を売却して現金化することも可能なのです。
このように別軸の収入源を生み出す資産を所有することで経営のリスクヘッジになり、心に大きな余裕が生まれます。自分の医院が提供するサービスをさらに拡充するためにリスクをなくし、攻めの一手を打つこともできるでしょう。
藤城 健作
ウェルス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長