持分なしの医療法人へ移行は、出資持分の放棄が前提
スムーズなクリニックの事業承継には、持分ありの医療法人から持分なしの医療法人への移行が重要になります。ただ、出資持分は財産権であるので放棄したくない、という人も多く、なかなか移行するのが難しいというのが実情です。持分なしの医療法人へ移行するには、出資持分の放棄が前提になっているからです。
ただし、医療法人の出資持分を出資者が全員放棄した場合、これを出資者から法人への贈与とみなし、法人に贈与税を課税するという動きもありましたが、これは新認定医療法人に認定されることで、贈与税も猶予されることになりました。
出資金の全てを創業者である理事長が所有していれば、持分放棄への意思決定も早くなります。しかし、兄弟姉妹や親戚が出資者として名を連ねているなど出資金を放棄する場合でも、そのまま事業承継をする場合でも大きなリスクがある場合もあります。
また、親族に後継者がいない場合は、将来、クリニックのM&Aをする可能性もあります。その場合は持分があったほうが選択肢は広がる可能性もあります。持分があった方が良いのか、それとも放棄した方がいいのかを良く検討し、対策することが必要になるでしょう。
なお、持分のない新認定医療法人に移行した後も、移行後から六年間は認定要件を維持しなければ、要件を満たせなくなったときに今まで猶予をしていた相続税や贈与税を一括して払わなければならなくなります。
したがって、要件を満たせるのかどうか、六年間は維持できるのかどうかを事前に検証する必要が出てきます。前述したように、「法人関係者に特別の利益供与をしないこと」が要件の一つとして挙げられていますが、その場合でも、どこまでそのことが求められるのかが明らかになっていません。医師会のなかでは他の特定医療法人の事例を検証しながら移行ができるかどうか事前調査をしているところもあるようです。
このような状態ですから、持分なしの医療法人への移行計画の認定は思うように進んでいません。厚生労働省が調査している「種類別医療法人数の年次推移(平成29年3月31日現在)」によれば、医療法人数5万3000件のうち、持分あり社団医療法人(経過措置型医療法人)は約4万件もあり、8割近くが残っています。
移行が進まない現状を踏まえ、認定期間の延長が決定
このような現状を踏まえて、移行計画の認定期間を延長することが決まりました。
[図表]持分なしの医療法人への移行計画
〈新認定医療法人の認定要件〉
①移行計画が社員総会において議決されたものであること
②出資者等の十分な理解と検討のもとに移行計画が作成され、持分の放棄の見込みが確実と判断されること等、移行計画の有効性及び適切性に疑義がないこと
③移行計画に記載された移行期限が三年を超えないものであること
④運営に関する要件(役員報酬等が不当に高額にならないような支給基準を定めていること、法人関係者に対して特別の利益を与えないこと等)を満たすこと
〈運営方法〉
①法人関係者に対し、特別の利益を与えないこと
②役員に対する報酬等が不当に高額にならないような支給基準を定めていること
③株式会社等に対し、特別の利益を与えないこと
④遊休財産額は事業にかかる費用の額を超えないこと
⑤法令に違反する事実、帳簿書類の隠ぺい等の事実その他公益に反する事実がないこと
〈事業状況〉
①社会保険診療報酬等(介護、助産、予防接種含む)にかかる収入金額が全収入金額の80%を超えること
②自費患者に対し請求する金額が、社会保険診療報酬と同一の基準によること
③医業収入が医業費用の150%以内であること
最終的に新認定医療法人への移行については医師個人では専門的な知識を問われることも多いので、専門家に相談しながら進めるのが良いでしょう。
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藤城 健作
ウェルス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長