掛金が全額控除の対象になる「小規模企業共済制度」
前回の記事、『クリニックの経営…「MS法人」設立で得られる5つのメリット』で触れた「小規模企業共済制度」について少し補足しておきます。小規模企業共済制度とは生活資金などをあらかじめ積み立てておき、個人事業を廃業したときや、法人の役員を退任したときなどの生活資金を支給するための共済制度です。小規模企業共済法に基づき、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している制度です。
ポイントは、小規模企業共済の掛金は全額控除の対象になるということ、満期で支払われる共済金は、一括受取の場合は退職所得扱いになり、所得税の課税額が半分以下になるということ。分割受取の場合は、公的年金等の雑所得扱いになり、控除額が通常の雑所得と比べて非常に有利であるということです。
これらのメリットは、事業所得を節税するため活用しない手はありません。
ただし、デメリットとしては、掛金が非常に低いということが挙げられます。掛金の月額は、1000円から7万円までの範囲(500円刻み)で自由に選ぶことができます。
前述した通り、全額が「小規模企業共済等掛金控除」として課税対象となる所得から控除されます。
毎月の掛金の限度額が7万円なので、7万円×12カ月、年間で84万円まで全額控除とすることができます。
利益の調整に応用できる「中小企業倒産防止共済制度」
中小企業倒産防止共済制度(経営セーフティ共済制度)とは、取引事業者が倒産することによって、中小企業が連鎖倒産に陥ることを防ぐ目的で設立されました。実際に取引事業者が倒産した場合は倒産した会社の売掛金分を貸付けするという制度になります。
掛金は5000円から20万円まで(5000円単位)で自由に選択することができます。月額20万円に設定すれば、一年間で最大で240万円まで掛金を掛けることができます。倒産防止共済は、一年分は前納できるので、決算期の直前に今期は利益が出過ぎてしまうと判明したときには、共済に加盟して一年分を一括して支払うことで、全額を経費に計上することができます。
使い勝手のよい共済ですが、掛金は最大800万円しか積み上げできないので、毎年240万円を積んでいくと、三年四カ月で限度額に到達してしまうということです。
解約をして再び入り直し、節税を繰り返すという方法が一般的ですが、覚えておかないといけないのは、解約返戻金はすべて利益となるということです。800万円の利益は法人税の最高税率がかかる金額ですから、解約したときの利益の節税方法を考えておかないと、節税目的で積み立てた意味がなくなってしまいます。注意したいところです。
開業医の相続対策の基本は、生前贈与とMS法人の活用
これまで見てきたように開業医の年収は年間で5000万円以上になることも多く、開業医のなかには総資産が10億円を超える場合も珍しくはありません。
若いうちはキャッシュリッチであってもあまり問題になりませんが、年を重ねて相続を考えなければならないようになると、資産の内の現金比率が高いことが深刻な問題になることがあります。相続評価が大きくなってしまい、非常に高い相続税が課税されるのです。正しく相続税対策を行わなければ、納税資金が足りなくなり、納税のために代々継ぎたい、大切にしたい不動産を売却して納税資金を確保しなければならない、ということが起きるかもしれません。
また、親が医療法人を所有している場合、持分ありの医療法人の場合も多いものです。医療法人の持分は株式会社の株式のように利益の配当ができないので、評価が膨らんでいきます。しかも、医療法人の持分は換金性が低く、分割がなかなか難しいものです。
開業医の家庭は、こうした問題に何も対処せずにトラブルの種を放置したまま相続を迎えるケースが少なくありません。多額の相続税を課税されないためには何らかの相続税対策を考えておくべきでしょう。
具体的には、相続の基本である生前贈与とMS法人を活用した相続税対策を検討に入れておきましょう。
藤城 健作
ウェルス・コンサルティング株式会社 代表取締役社長