築20年以上の物件はリノベーションを考えるべき
リノベーションのタイミング
所有物件をリノベーションする際の「最適なタイミング」について考えていきましょう。築20年を超える物件には水回りの突発的なリスクが隠れています。また、東京23区なら家賃をアップさせる幅が大きく、鉄筋コンクリート造はリノベーション後の耐用年数もかなり長く見込めます。
以上のことを踏まえて簡単に言ってしまうと、「築20年を超えた物件はタイミング的に、“いつでもリノベーションするのに適している”」ということになります。
他にも次のようなタイミングは、リノベーションを行う良いきっかけになるかもしれません。
①老朽化によって、設備を交換する必要があるとき
第1回(関連記事『市場価値が低下した不動産を「復活させる」方法とは?』)で述べたように、エアコンや給湯器といった設備の耐用年数は、建物よりずっと短いため、定期的に更新する必要があります。そのタイミングに合わせてリノベーションすることで、設備の更新費用を個別に行うよりも節約できます。また、リノベーション費用を融資でまかなう場合は、設備交換費用も含めて長期のローンを組み込むことも可能です。
②入居者の入替えに苦戦するようになったとき
築年数が経つにつれ、徐々に空室期間が長くなったり、家賃を下げざるを得なくなることがあります。現在の入居者を募集したときに客付けで苦戦したのであれば、次の退去時にはリノベーションを検討すべきかもしれません。
③長期入居していた賃借人が退去し、リフォームが必要なとき
一般的に、長期入居者が退去した場合は、オーナー負担の原状回復費用が高額になりがちです。そのタイミングに合わせてリノベーションすることで、リフォームの費用をリノベーションに回し、無駄を省くことができます。原状回復のリフォーム費用は、たとえ数十万円かかったとしても現金払いが原則となります。一方で、リノベーションという投資の場合は、金融機関の見方が異なりますので、ローンを使える可能性が高まります。
工期の目安は2カ月半だが延長リスクも考えておく
工期の目安は?
次は、リノベーションの工事期間(工期)を見ていきましょう。
スケルトンリノベーションでは、室内をほぼすべて撤去解体してスケルトン状態にし、一から新しい空間を造り上げますので、それ相応の時間を費やすことになります。
基本的な工期は、現地調査を開始してプラン決定~着工まで約2週間、着工から完成内覧まで約2カ月間を要し、併せて2カ月半が目安になります。リノベーションの大まかな流れは図表のとおりです。
[図表]リノベーション工事の流れ
ここで注意すべきことは、マンション一室のリノベーション工事の場合、事前に管理組合へ届け出をする必要があることです。工事開始前の何日前までに届け出るかはマンションによるのですが、1カ月以上前という場合もあります。ひどい場合には、理事会の承認が必要で、その理事会が2カ月に1回しか開かれないといったケースまでありました。
リノベーション工事において、このような届け出のプロセスを避けては通れません。プランが確定したらスムーズに工事を始められるよう、入居者が実際に退去する前から、色々と準備を進めておく必要があります。
もう1つ押さえておきたいのが、「工期が延びる」というリスクです。
リノベーションする物件は同じものが2つとないため、フローリングや壁を撤去するなど、実際に解体を始めてから判明する事実が少なくありません。
新しい空間のプラン作成は、入居者退去後の現地調査や新築当時の資料などで行いますが、床下の給排水管の動線がどのようになっているかの詳細までは確認できません。解体後に、当初想定していたバストイレやキッチンなどの水回りレイアウトが難しいことが判明して、プランを一からやり直すこともあります。
また、解体中にバストイレを仕切る壁がブロック壁であることが判明し、工事の続行に理事会の承認が必要となり、多くの時間を費やしたケースもありました。
他にも、マンションという集合住宅の工事の場合は、近隣住戸との調整も必要となります。通常は平日の日中は工事が可能ですが、夜型の仕事をしている方が隣り合った住戸などにいると、午前中は工事不可にされるケースもあります。そうなると当然、工期も長引いてしまいます。
工期が延長された場合は、募集開始も後送りになり、空室の期間が延びることにつながります。
施工をする側で色々と工夫もできますが、工期延長リスクをゼロにすることはできません。リノベーションを行う際には、入居者の退去連絡が入ったら、速やかに意思決定や準備を進めていくことが重要です。
節税効果を意識したリノベーションのタイミングは?
リノベーションと節税効果
工期の目安が2カ月半となれば、リノベーションに伴う空室期間は、3カ月程度を見る必要があります。一時的とはいえ、その間は家賃が入らないことになります。
不動産投資を「リタイア後の収入源」と考えている方は、余力のある現役のうちにリノベーション工事を行うのが良いかもしれません。空室期間中の穴埋めを本業からの収入で賄うこともできますし、減った収入に応じて、所得税や住民税を安く抑えることができるからです。
詳細な説明は省略しますが、不動産所得は総合課税の対象として、給与所得と合算することで課税額が決まります。たとえば、現在のおおよその税率が所得税20%、住民税10%の方であれば、空室で年間20万円家賃が減ったとしても、減った収入のうち30%は税金が安くなるという形で還元されます。税金をしっかりと支払っている現役中は、税率の合計分が家賃保証として自動的に付帯されているようなものだと理解しましょう。
また、リノベーションにより付加される減価償却費も所得を圧縮し、納める税金を安くする働きをしてくれます。
リノベーション工事期間中の空室によるマイナス軽減と、減価償却による所得圧縮効果を最大限に活かすためには、現役中のリノベーションがおすすめです。
さらに、現役中であれば、リノベーション費用の捻出をローンでまかなうという選択肢も追加されます。
<POINT>
●築20年を超えた物件は、タイミング的にリノベーションに適している。
●リノベーションの工期は、現地調査から完成内覧まで約2カ月半が目安。
●リノベーション費用には節税効果があるので、現役中に行うのが得策。
東京23区でワンルームマンション経営を行っている場合、現時点では、目に見えて空室に困っていたり、家賃がどんどん下がっているということはほとんどないと思います。それが「東京」という特別な市場を選んだ恩恵でもあるわけです。
ただし、長期的な視点で考えた場合、徐々に古くなっていく物件が、いつまでも手放しで安泰なわけではありません。ここまでお伝えしてきた内容は、以下のとおりです。
●築20年を超える物件には、隠れた水回りリスクがある
●マンションの耐用年数は、80年程度までは考えられる
●素材にこだわることで、経年に応じて魅力を増していく空間を造ることが可能
●東京23区では、バリューアップした結果を家賃に反映させやすい
●リノベーションは、税務面にも影響を与える
以上を踏まえると、ここまでお伝えした「築20年を超えた物件はいつでもリノベーションに適している」というよりは、「築20年を超えた物件は、なるべく早くリノベーションするのが良い」ということが言えるのではないでしょうか。
私自身の12年間、450戸を超えるリノベーションの経験から、特に大切だと思えることを包み隠さずお話ししました。ぜひ、今後の参考にしていただければと思います。