今回は、リノベーションの費用対効果について振り返るとともに、資産形成においてリノベーション投資をどのように考えるべきか見ていきます。※本連載は、リズム株式会社アセットソリューション事業部長の寺内直哉氏の著書、『東京1Rマンションオーナー必読! リノベーション投資入門』(総合法令出版)の中から一部を抜粋し、不動産投資におけるリノベーションの基本的な考え方や、費用対効果について紹介します。

リノベーションによる費用対効果

ここまで中古物件をリノベーションすることの費用対効果について、事例を交えながら見てきました。ここで、項目ごとの整理と補足をしておきたいと思います。

 

①空室期間の減少

 

「空室損」は、賃貸経営で発生するであろう空室期間を年換算した数値です。物件のリスク度合いを反映しますので、エリアや構造ごとに空室損の目安を調整する必要があります。

 

東京ワンルームマンションでは、平均入居期間を約3年、入替時の空室期間を約60日で想定し、年間家賃の5%くらい(60日÷<365日×3>)を空室損として試算することが一般的です。

 

その一方で、当社が施工し一定期間に入れ替えのあった41戸分のリノベーション物件では、その多くで空室期間が短縮されたという結果が出ています。

 

その平均入替期間は28.2日となっており、長い空室期間でも2カ月。早いものでは、退去後のクリーニングが済むと同時の入居といったケースも出ています。

 

また、募集開始から入居申し込みまでの日数が少ないことも、リノベーション物件の特徴です。

 

早い物件では退去の1カ月以上前から申し込みが入り、室内の確認を待たずに入居が決まるという事例もあります。リノベーション物件に対する人気の高さを伺えるエピソードと言えるでしょう。

 

先ほどのリノベーションを購入に見立てた場合の販売図面では、空室期間が60日から30日に短縮される効果を「空室損の圧縮」分として家賃に反映しています。

 

②運営費の比率低下

 

ここまで、不動産投資は長い視野で捉える必要があることを度々述べてきました。

 

管理費や修繕積立金などの「運営費」は、築年数の経過などで徐々に上がる性質のため、長期の賃貸経営において収益に少なからぬ影響を及ぼします。

 

建物の「ライフサイクルコスト」(LCC)という考え方があります。

 

これは、建物の竣工から解体されるまでの期間にかかるコストを計算したもので、一般的には建設費のおよそ3~4倍のコストがかかると言われています(図表1)。

 

[図表1]建物のライフサイクルコスト
[図表1]建物のライフサイクルコスト

 

ライフサイクルコストは、建物の管理方法や修繕計画次第でコストが増減したり、建物の寿命が大幅に変わります。

 

適切かつ定期的なメンテナンスを行うことで、資産価値の低下を防ぐことにつながりますが、その反面、管理費や修繕積立金といった運営費が上がることも考慮しておく必要があります。

 

また、近年の人手不足による人件費の上昇によって、壁紙張替えなどの内装費も値上がりしています。リノベーションを先送りにして安価なリフォームを繰り返す限り、そのようなコストの上昇も収益を圧迫する要因になります。

 

こういった運営費の上昇要因は、区分マンションのオーナー個人がコントロールできない部分です。

 

第10回(関連記事『東京23区内1R物件「リノベーション」の最適なタイミングは?』)でお伝えしたように、家賃が同じ10万円の物件で、25m2の東京ワンルームと50m2の地方物件でともに管理費などの運営費がアップしたとしたら、収益性で厳しくなるのは50m2の地方物件です。

 

なぜなら専有面積が大きく運営費比率が高い地方物件は、運営費が値上がりする際の絶対額も大きなものになるからです。

 

さらに、このケースで、25m2の東京ワンルームをリノベーションで12万円の家賃にアップさせたとしたらどうでしょう。運営費が上がるというネガティブなインパクトはさらに小さくなるはずです。

 

つまり、運営費そのものを圧縮しようとするのではなく、リノベーションによって家賃単価を高くし、家賃にかかる運営費の比率を低く抑えることが、将来の運営費アップに対抗できる数少ないソリューションだと言えるのです。

 

③減価償却による節税効果

 

これまでも何度か触れてきましたが、リノベーションの費用は「減価償却」の対象となり、節税に一定の効果があります。

 

減価償却とは、建物や設備などが年月の経過によって老朽化し、その価値が減っていく割合を一定の額や率などで算出した「経費」として扱い、所得や利益を圧縮できる仕組みです。

 

不動産投資における減価償却は、税金対策として避けては通れないテーマですが、同時に、理解することがなかなか難しいルールでもあります。

 

そこで、もう少しわかりやすく説明してみましょう。

 

たとえば、似顔絵を描く商業アーティストが、似顔絵を非常にうまく描ける「魔法のペン」を100万円で購入したとします。

 

このペンは非常に高価ですが、製造した職人の説明ではそのままでも5年間使え、部品交換などのメンテナンス次第では10年以上使用できるという優れものです。

 

このペンを使って似顔絵を量産し、年間100万円を売り上げたとしたら、確定申告の「所得額」はいくらになるでしょうか?

 

かなり大雑把な計算ですが、もし、このペン代100万円の全額を、その年の「経費」として扱うことができれば、所得額は差し引き0円となり、この年に支払わなければいけない税金も0円になります。

 

ただし、この場合、1年目は税金を払わずに済むのですが、2年目からは出せる経費がなくなって所得額が増え、支払う税金も高くなりそうで心配です。また、まだまだ何年も使える魔法のペンなのに、買った年だけの経費にしかできないのは、少しおかしい気がします。

 

そこで、税法上のルールでは耐用年数2年以上、かつ一定額を超える金額については、減価償却の対象となる「資産」として扱い、決められた耐用年数に応じて、分割して費用計上する決まりになっています。

 

ちなみに、ここでいう耐用年数とは、あくまでも決め事としての年数で、マンションなどの建物や魔法のペンが実際に使える期間とは異なります。

 

仮に、魔法のペンの耐用年数が5年と定められているとしたら、100万円を5分割して、毎年20万円ずつの減価償却費を計上することで、初年度は図表2のような所得額になります。

 

[図表2]減価償却費
[図表2]減価償却費

 

リノベーション費用も、この魔法のペンのように「資産」として扱われ、新しい空間を造るのにかかった費用は、耐用年数に応じて分割計上することになります。

 

細かい説明を追加すると、リノベーション費用のうち、既存の室内を解体撤去する費用は一括の「経費」として計上し、新たな空間の間仕切りや床、壁などにかかった費用は「躯体(くたい)部分」、新たな給排水管や電気配線などを含む設備類は「設備部分」として、それぞれの耐用年数に応じて減価償却していくことになります。

 

減価償却の魅力は、一気に経費化して所得をゼロにするのではなく、毎年分割して経費化することで、「耐用年数の間は一定の節税効果を得られる」という点です。

 

つまり、リノベーションすることで家賃を引き上げる一方、税務上は引き上げた家賃から相応の経費を差し引くことができ、私たちの手取りとなる実質的な利回りを一定以上のレベルに保ってくれるのです。

 

ここで強調しておきたいのは、リノベーションと物件購入との違いです。物件購入の場合でも、減価償却費は定められた年数に応じて計上することができます。

 

ただし、物件購入では、物件価格の全額が減価償却費の対象とはなりません。

 

なぜなら、物件における購入価格の内訳は「土地代」と「建物代」に分かれているものの、減価償却の対象にできるのは「建物代」のみだからです。これは、土地そのものは経年によって価値が減少しないことから、そもそも減価償却の対象にならないためです。

 

たとえば、2000万円の物件を購入したとして、内訳が土地代1000万円、建物代1000万円だとすると、減価償却の対象にできるのは建物代の1000万円のみです。

 

一方で、リノベーションについては、その費用をすべて減価償却等の経費とすることができます。

 

つまり、リノベーションしたことでアップした家賃と、物件を買ったことで得られる家賃とは、私たちの手取りの家賃になる際に、税金の引かれる割合が違ってくるのです。

 

たとえば、先ほどの事例のように、年間24万円の家賃を得られる410万円の物件を実際に買い、土地代と建物代の内訳が半々だったとすると、今後、減価償却で毎年経費化できる金額の基礎は建物代の205万円のみです。

 

一方で、年間24万円の家賃がアップするリノベーションを410万円かけて行った場合は、丸々410万円を減価償却等の経費にすることができるわけです。

 

そういった税務面でも、リノベーションによる“投資”は、物件購入との比較で優れていると言えます。

 

先ほどのリノベーションを購入に見立てた場合の販売図面では、この減価償却の割合が高い効果も家賃に反映しています。

物件購入と所有物件リノベーションの共存

「物件購入」と「所有物件のリノベーション」は、どちらも投資ということに変わりはありません。収益の「スケール」(規模)としては物件購入の方が有利ですが、その一方、「利回り」という点で見れば、圧倒的にリノベーションの方が優秀だと言えます。

 

資産規模を拡大させるためには、お互いのメリットをうまくミックスして経営すべきです。

 

つまり、「いい物件を買えるチャンスがあれば物件購入で」、「所有している物件のリスクを排除し、物件の“稼ぐ力”を鍛え上げたいときはリノベーションで」、といった具合です。

 

物件を増やすことに加え、そこにリノベーションをうまく組み込めば、純資産拡大のサイクルはさらに強固なものになります(図表3)。

 

 [図表3]純資産拡大サイクル×複数戸×リノベーション

[図表3]純資産拡大サイクル×複数戸×リノベーション
 

「家賃アップ」だけでリノベーションを判断しない

 リノベーションの意義とは 

 

ここまでは主に、リノベーションを通じて家賃がアップする仕組みをクローズアップしてきました。

 

しかし、家賃アップだけを前提に、リノベーションの可否を判断すべきではありません。

 

特に築年数が経過すると、家賃下落や水回り、運営費の上昇といったさまざまなリスク、内装や設備のコスト増など、さまざまな課題が増えるため、大幅な家賃アップを見込めなくてもリノベーションする意義は大いにあるのです。

 

図表4は、東京23区内でリノベーションしたワンルームにおける家賃アップの一例です。

 

[図表4]東京都内でリノベーションした家賃アップの例(2017年現在)
[図表4]東京都内でリノベーションした家賃アップの例(2017年現在)

 

物件によって、家賃アップが3万円になった物件がある反面、もともとリノベーション前の家賃が高かったなどの理由で、1万円以下のアップに留まっている事例もあります。

 

“攻め”として想定する家賃アップの幅が小さくても、これまでお伝えしてきた“守り”としてのさまざまなメリットも加味し総合的に判断した上で、リノベーションを実施すべきケースは多々あると言えるのです。

 

<POINT>

●リノベーションを物件購入に見立てると、その利回りは相当程度高い。

●物件購入とリノベーションでは、その出資額に対する減価償却の割合が異なる。

●物件購入とリノベーションの組み合わせは、資産形成サイクルをより強固にする。

 

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