今回は、リノベーションによって、家賃アップが見込める地域について考えていきます。※本連載は、リズム株式会社アセットソリューション事業部長の寺内直哉氏の著書、『東京1Rマンションオーナー必読! リノベーション投資入門』(総合法令出版)の中から一部を抜粋し、不動産投資におけるリノベーションの基本的な考え方や、費用対効果について紹介します。

スケルトンリノベーションにかかる費用とは?

 リノベーションは「投資の機会」 

 

東京ワンルームマンションのリノベーションでは、スケルトン施工で内装材にもこだわることで、消費税込みで400万円前後の費用がかかります。既存のエアコンや給湯器を利用するか、角部屋や最上階か、界壁がブロックかどうか、エレベーターがあるかなど、物件のタイプや面積によって費用にある程度の差は出ますが、おおよそこのくらいの予算と考えていいでしょう。

 

図表1は、スケルトンリノベーションを行った物件の一例です。築23年のマンション3階にある24平米のワンルーム、場所は世田谷区の三軒茶屋です。

 

[図表1]スケルトンリノベーションを行った物件の例

 

スケルトンリノベーションによって、水回りのレイアウトも含めて新たな空間を造り上げた結果、8万5000円だった家賃が、2万円アップの10万5000円に引き上げられています。

 

このケースを利回りにたとえれば、リノベーションの費用に対して、年10%を超える収益を得られることになります。これは家賃アップとともに、空室損が小さくなること、運営費が変動しないこと、減価償却費といったリノベーションの費用対効果をすべて数字に換算した結果です。

 

適正に管理されている築20~30年の中古マンションであれば、短く見積もっても30年以上は耐用年数が残っていることになります。本格的なリノベーションを施すことは相応の出費を伴いますが、30年以上にわたって年10%を超える収益を生み出す、優良な「投資の機会」と考えれば、決して高いものではないのです。

リノベーションの狙い目は「家賃相場が高い」エリア

 東京23区の家賃弾力性とは 

 

費用対効果以外にも、リノベーションの大きなメリットとして、賃貸経営に対する漠然とした不安感を払しょくできるという「安心感」を挙げることができます。

 

「入居者が退去した際に空室がいつまでも埋まらない」「築年数に応じてジリジリと家賃が下がっていく」といった不安が一掃されます。事故が起これば100万円以上の出費となる水回りの修繕リスクも一気に解消されます。

 

さらに、「長きにわたって得られる家賃のアップ」という付加価値が加わると、これはもう、「リノベーション」という名の立派な“投資”です。

 

ただし、この家賃アップは、物件の立地次第で大きく差が出ます。つまり、「全国どのエリアでも、リノベーションによって大幅な家賃アップが可能」というわけではないのです。

 

それでは、どういったエリアで家賃アップを見込めるのか、順を追って確認してみましょう。

 

まずは、わかりやすい例として、不動産・住宅情報サイトの「ライフルホームズ」が集計した、東京と福岡における単身者向け物件の家賃相場を見てみます(図表2)。

 

[図表2]単身者向け物件の家賃相場

※2018年月現在 出所:ライフルホームズ
※2018年月現在
出所:ライフルホームズ

 

2018年1月の時点では、東京都内で最も人気があるエリアは新宿区であり、家賃相場は9万3000円です。これに対し、福岡市中央区の家賃相場は4万9700円となっています。同じ人気ナンバーワンを比べても、東京と福岡では、家賃相場に4万円以上の開きがあるのです。

 

ここでは、「家賃相場」と「募集されている家賃の幅」の関連性に注目してみましょう。

 

実は、「家賃相場が高いエリアでは、募集されている家賃の幅も広い」という傾向があります。

 

先ほどの新宿区と福岡市中央区で、30m2未満の物件における家賃の幅をそれぞれ確認したところ、結果は次のようになりました。比較のため、共に定期借家や家具付きなど、特殊事情の物件は対象外としています。

 

<新宿区>最低4.2万円~最高14.9万円

<福岡市中央区>最低2.2万円~最高7.3万円

 

家賃相場の高い新宿区では、募集されている家賃の幅は約10万円、福岡市中央区では約5万円でした。つまり、家賃相場の高い低いと、実際に募集されている家賃の幅には、関連性が確認できるのです。

 

新宿区内で30m2未満の単身者向け住居が、かたや4.2万円、かたや14.9万円で募集されているのは、築年数や専有面積、最寄り駅からの距離、周辺環境や建物グレードの違いといった、物件の価値を構成するさまざまな要因によるものです。一言でまとめるなら、「入居者に提供する居住空間の価値」と言えるでしょう。

 

入居者は、自分が住む部屋の価値に対して家賃を払います。「価値がある」と感じれば高い家賃を、そうでなければそれなりの家賃しか払わないのです。そして、価値の違いがどれだけ家賃に反映されるかは、そのエリアで募集されている家賃の幅を見ることでわかります。なぜなら、家賃の幅が広いということは、部屋が提供している価値の違いがそれだけはっきりと家賃の違いに表れているということだからです。

 

少しわかりにくいので、極端な事例で考えてみましょう。たとえば、募集されている30m2未満のすべての単身者向け住居の家賃幅がたったの5000円しかないエリアがあったとします。

 

そういうエリアでは、新築だろうが築20年だろうが、駅徒歩1分だろうが徒歩15分だろうが、どの部屋を選んでも家賃の差は5000円しかないということです。つまり、こういうエリアでは、「部屋の価値の違いが家賃に反映される幅が小さい」ということがわかるのです。

 

そして、オーナーにとって大切なことは、価値の高さが家賃に反映される度合いが大きいエリア、つまり「元々の家賃の幅が広いエリアでは、部屋の価値を高めたときに家賃をアップできる幅も大きくなる」ということです。

 

「駅からの距離」という価値は変えることはできませんが、「部屋の居心地の良さ」という価値を変えることはできます。リノベーションという形で「部屋の価値」を引き上げたときに、家賃をアップできる余地が大きいのは、やはり「元々の家賃の幅が大きく家賃相場が高い東京である」ということが言えるのです。

 

さらに同じ東京都内でも、都心と多摩地域などの郊外とでは大きな開きがあります。やはり、東京23区や吉祥寺周辺の家賃相場が高く、家賃の幅も大きいため、リノベーションによって家賃アップを実現しやすいエリアと言えるのです。

 

 膨大な物件データからわかること 

 

東京と福岡の比較では、不動産ポータルサイトで家賃の幅を確認しました。次に、東京都内での比較をもう少し分析的に、家賃の幅を「標準偏差」という形で確認してみましょう。

 

標準偏差とは、受験生におなじみの「偏差値」と親戚のようなもので、簡単に言えば、「平均値との差のばらつき具合」です。この説明だけではイメージをつかみにくいですが、これまで解説した「家賃のばらつき度合いを表す数値」と理解していただければ大丈夫です。標準偏差の数値が大きければ大きいほど、募集家賃の幅が大きいことを示しています。

 

図表3は、当社が2018年1月に作成したもので、東京都内における16万9000件もの単身者向け賃貸データから、都内の主要な292の駅について、駅別の平均家賃と標準偏差との関係を示しています。横軸が駅別の平均家賃、縦軸が標準偏差を表します。

 

[図表3]都内主要292駅における駅別平均家賃と標準偏差の関係

 

グラフからは、平均家賃と標準偏差の間にきれいな正の相関関係があることがわかります。つまり、東京と福岡を比べたときと同じように、平均家賃が高い地域ほど、募集家賃の幅も広い傾向にあることが読み取れます。東京都内で家賃相場が高いのは23区なので、募集家賃の幅が広いのも当然23区ということになります。

 

一例として、東京23区の平均と、多摩地域である京王相模原線の「南大沢駅」を比較してみましょう。

 

●東京23区平均家賃 8万2874円  標準偏差 1万4692円

●南大沢駅平均家賃 5万1379円  標準偏差 7965円

 

ここでも標準偏差の数値が示す細かな意味は割愛しますが、この比較でも平均家賃の高い低いと、それに伴う「家賃のばらつき度合いを示す」標準偏差の関連性を確認できます。

 

そして、平均家賃の高い東京23区が、特に募集家賃のばらつき度合いが大きい、つまり高い価値が家賃に反映されやすいということがわかります。

 

もちろん、家賃のばらつきが少ないエリアだからといって、バリューアップが家賃にまったく反映できないということではありません。

 

しかし、ばらつきの大きいエリアであるほど、価値を高めた度合いを収益に変換できる可能性が高いのです。

 

リノベーションを検討する際には、「東京23区のような家賃相場の高いエリアほど、家賃を上げやすい」という点をぜひ押さえておいてください。

 

<POINT>

●リノベーションは相応のコストを伴うが、優良な「投資」の機会でもある。

●家賃相場が高いエリアは募集家賃の幅も広く、家賃アップの余地が大きい。

●リノベーションで家賃アップを実現しやすいのは、東京23区である。

 

 

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