今回は、リノベーションが物件の資産価値に及ぼす影響を考えていきます。※本連載は、リズム株式会社アセットソリューション事業部長の寺内直哉氏の著書、『東京1Rマンションオーナー必読! リノベーション投資入門』(総合法令出版)の中から一部を抜粋し、不動産投資におけるリノベーションの基本的な考え方や、費用対効果について紹介します。

リノベの資産価値を「収益還元法」で算出

 かけた費用イコール資産価値の上昇ではない 

 

リノベーションが資産価値に及ぼす影響を確認していきたいと思います。「資産価値」というと言葉が固いですが、要するに「リノベーションしたことによって、どのくらい値段が変わるのか」ということです。

 

単純な足し算では、元々あった物件に費用をかけてリノベーションをするので、「物件価格+リノベーション費用」がリノベーション後の価値と言えそうです。

 

しかし、賃貸物件の場合は「収益を生み出す資産」として価値をはかるため、単純に「かけた費用分だけ価値が上がる」という計算の仕方はしません。

 

つまり、リノベーションが資産価値に及ぼす影響は、単純に工事費用を物件価格に上乗せしたものとは異なり、「その物件がどれだけの収益を上げられるようになったか」によって決まってくるのです。

 

 物件の資産価値を数字で表す 

 

収益物件の資産価値をはかる場合は、一般的に「収益還元法」と呼ばれる次の計算式を用います。

 

V(不動産価値:Value)=I(営業純利益:NOI)÷R(期待利回り:Cap Rate

 

この式だけでも色々な解釈はできるのですが、ここでは「ある物件の価値は、その物件が生み出す営業純利益を、投資家が期待する利回りで割り戻したもので決定する」と読みましょう。

 

たとえば、年間100万円の営業純利益(I)を生み出す物件があるとして、そのエリアの一般的な期待利回り(R)が5%の場合は、不動産価値(V)が2000万円(100万円÷5%=2000万円)になります。

 

ここでいう「そのエリアの一般的な期待利回りが5%」とは、次のような意味です。

 

大都市の中心部と過疎化した山間部の村、それぞれの地域で、立地以外の条件がすべて同じ2つの物件があったとします。

 

物件の資産価値を考えた場合、投資家は「大都市で買うなら5%の利回りでも買う。しかし、山間部で買うなら利回り10%以上ないと買わない(10%以上あることを期待する)」という判断をします。山間部の村の物件は、大都市の中心部と比べれば色々とリスクがありそうで、競合する物件が新築される空き地も多そうだからです。

 

つまり、大都市と山間部では投資家が期待する利回りが異なるため、同じ収益を生み出していても物件の価値が異なるのです。たとえば、どちらも年間100万円の営業純利益が得られるとした場合、

 

<大都市中心部>

I(営業純利益100万円)÷R(期待利回り5%)=V(不動産価値2000万円)

 

<山間部>

I(営業純利益100万円)÷R(期待利回り10%)=V(不動産価値1000万円)

 

このように、期待利回りの違いが物件の価値に大きな影響を与えるのです。ここでは単純化するために、期待利回りの違いを「エリア」だけに限定しましたが、実際には物件の「築年数」や「構造」「管理状態」など諸々の条件によって、投資家の期待利回りは上下します。

 

そして、この式をもう少し発展的に考えると、「算出された不動産価値以下で買えるならお値打ち」ということが言えます。

 

たとえば、大都市で2000万円の価値がある物件が1900万円で売り出されていれば、“お買い得”と判断できるわけです。

 

図表は、一般社団法人日本不動産経済研究所が2017年4月に行った「賃貸住宅1棟(ワンルームタイプ)の期待利回り」について、不動産投資家を対象に調査した結果です。

 

[図表]賃貸住宅1棟(ワンルームタイプ)の期待利回り(出所:一般社団法人日本不動産経済研究所)
[図表]賃貸住宅1棟(ワンルームタイプ)の期待利回り(出所:一般社団法人日本不動産経済研究所)

 

これによると、やはり全国の主要都市に比べて、東京に対する期待利回りがワンランク低いことがわかります。

 

ただ、実際に福岡と東京で賃貸経営をしている私個人としては、「もう少し期待利回りに差があるべきでは?」という感想を持ちました。

 

この調査結果は1棟ものの物件が対象であり、私が持っている区分とはまた事情が違うと思いますが、専有面積あたりの家賃の違いや、それに伴う運営費比率の違いを考えると、「東京と福岡の差が1%だけというのは…」という印象です。

 

私が所有している福岡の物件は過去3年間に2度退去があり、合計で90万円を超える内装費が発生しました。たまたまそういうタイミングでもあるので、イメージ的にそう感じるのかもしれませんが、逆に、市場の期待利回りの差が1%程度であれば、東京の物件にお買い得感を感じてしまいます。

 

 状況によって見える資産価値の動き 

 

期待利回りの説明が少し長くなりましたが、もう一度、収益還元法で不動産価値を算出する式に戻りましょう。

 

V(不動産価値:Value)=I(営業純利益:NOI)÷R(期待利回り:Cap Rate

 

この計算式によって、一見当たり前とも思えるさまざまな状況が、なぜそうなっているのかを読み取れるようにもなります。参考として、いくつかのケースを挙げておきます。

 

①景気が良いと不動産価格は上がる

 

「景気が良くなると不動産価格は上がる」という、当たり前の状況をこの式で考えてみましょう。

 

景気が良くなると、「物件は今後値上がりするだろう」と期待する投資家が増えるため、これまで東京ワンルームなら期待利回りが5%でなければ買わなかった投資家が、4%でも購入するようになります。

 

なぜなら、将来的に物件を値上がりして売却益を得られるなら、運用中の期待利回りが低くても求めている利益が得られるからです。

 

その結果、収益還元法の分母にある期待利回り(R)の数値が下がり、不動産価値(V)が上がるというわけです。

 

この説明のスタートラインが「景気が良い=物件の値上がりに対する期待」ですので、鶏が先か卵が先かといった感もありますが、「物件の値段がいったん上がり出すと(または下がり出すと)、その勢いは投資家によって加速しやすくなる」と読み取ることもできそうです。

 

②ファンドがフリーレントを採用する

 

一般投資家は、賃貸募集時に入居者がなかなか決まらないと、通常は家賃を下げて様子を見ると思います。

 

一方で、投資ファンドなどでは、家賃を一切下げない代わりに、数カ月間の家賃を無料にする「フリーレント」という手法で、積極的に入居者をつけようとします。それはなぜでしょうか?

 

投資ファンドは、2~3年といった短期の物件売買を繰り返すことで、利ざやを稼ぐのが一般的です。

 

実は、単に家賃を下げて空室を埋めてしまうと、先ほどの計算式の分子にある営業純利益(I)を下げることになり、収益還元法の不動産価値(V)も落ちてしまいます。

 

これは、高値で売却をしたいファンドにとって、非常に都合の悪いことです。そこで、フリーレントという一時的に収益がまったく入らない状況を作ってでも、見た目上の営業純利益(I)を下げないようにしているのです。

 

ファンドの取り扱い物件は住居系に限りません。新しいオフィスビルなどが、半年~1年間といった極端なフリーレントをつけて募集されていることがあるのは、こういった事情からでしょう。

 

③金利が安いと不動産価格が上がる

 

2017年から徐々に見直しの姿勢は出始めていますが、各金融機関は引続き低金利の融資を積極的に行なっています。融資金利が低いと投資家の期待利回りも下がります。なぜなら、投資家が求める「利回り」とは、単純な物件の利回りではないからです。

 

投資家にとって重要な利回りとは、物件の利回りから資金の調達金利を差し引いた「イールドギャップ」と呼ばれるものです。

 

調達金利が下がれば、その分、イールドギャップである利ザヤを取りやすくなりますので、物件に対する期待利回りは下がります。「期待利回り(R)が下がると、収益還元法の計算式における分母の数字が小さくなるので、不動産価値(V)が上がる」という仕組みです。

 

逆に金利が高くなれば、期待利回りは上がって物件の価格は下がる方向へ振れることになります。

リノベは「営業純利益と期待利回り」の両極で効果あり

 リノベーションによる正味価値の向上 

 

では、リノベーションによって物件の価値がどのくらい上がるのかを確認してみましょう。

 

リノベーションによる不動産価値の向上は、2段階にわたります。なぜなら、不動産の価値は、営業純利益(I)を引き上げることと、期待利回り(R)を引き下げることの両方で高めることができるからです。

 

V(不動産価値:Value)=I(営業純利益:NOI)÷R(期待利回り:Cap Rate

 

リノベーションによって家賃がアップし、営業純利益(I)を引き上げられることは、これまで見てきたとおりです。

 

さらに、リノベーションすることによって内装や設備が新しく生まれ変わり、将来的な水回りのリスクや家賃下落リスクが軽減されることで、期待利回り(R)も押し下げることになります。

 

もともとは、築20~30年のどこにでもあった普通の物件が、表向きからは見えない床下の給排水管まで含めて一新され、室内の内装材はこだわられたものになり、将来の修繕コストまで低く見積もれるのです。

 

これで期待利回りが下がらなければ、おかしな話です。たとえば、75万円の家賃を見込める物件を1500万円で購入したとしましょう。

 

すると、この投資家は「75万円÷1500万円=期待利回り5%」の買い物をしたわけです。そして、数年後に入居者が退去したタイミングで400万円のリノベーションを実施し、営業純利益(I)が25万円増加した場合、計算式は次のようになります。

 

<投資家の出資額>

500万円+400万円=1900万円

 

<営業純利益が引き上げられた後の不動産価値>

75万円+25万円)(営業純利益:NOI)÷5%(期待利回り:Cap Rate)=2000万円(不動産価値Value

 

この段階ですでに出資額を100万円超える2000万円の資産価値があると、市場で評価されることになります。

 

さらに、リノベーションによってリスク度合いが低下するため、市場での期待利回りが下がります。ここでは、物件に対する期待利回りが0.5%下がったとしましょう。

 

<投資家の出資額>

1500万円+400万円=1900万円

 

<期待利回りが引き下げられた後の不動産価値>

(75万円+25万円)(営業純利益:NOI)÷(5%-0.5%)(期待利回り:Cap Rate)≒2222万円(不動産価値:Value)

 

これらの数値は、期待利回りの低下度合をどの程度で試算するかによっても変わります。実際の市場でその金額で売買されるかは別として、机上ではこのような計算となることを知っておいてください。

 

リノベーションが資産価値に及ぼす影響は、単純に工事費用を物件価格に上乗せしたものとは異なるのです。

 

<POINT>

●収益物件の資産価値は、その物件の収益性とリスク度合いで計る。

●リノベーションは、物件の収益性とリスク度合い両面に影響を与える。

●リノベーションは、その工事費用を上回る価値を物件にもたらす。

 

 まとめ 

 

最後に、リノベーションの費用対効果をまとめてみましょう。

 

●賃貸入替時の空室期間を短縮させ空室率を低減

●運営費を変化させることなく家賃を上昇させる効率性

●費用全額が減価償却などの経費対象となる税務面の強み

●交換を前提としない内装材による将来的な修繕費抑制

●純収益向上、期待利回り低下から生じる正味価値向上

 

いかがでしょうか。リノベーションすることで、その費用以上にさまざまなメリットが生まれ、物件そのものの資産価値も向上します。

 

「現状維持」という“待ち”の賃貸経営では、徐々に収益性が下がり、資産価値も低下していきます。

 

「リノベーション」という“守り”“攻め”の両面を持ったツールを使い、収益性と資産価値を上げて、将来的なリスクにも十分に対応できるよう、積極的に行動することをおすすめします。

 

 

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