本記事では、物件選定において知っておくべき「物件実質利回り」の計算方法を紹介します。※本連載はハウスリンクマネジメント株式会社代表・菅谷太一氏の著書『人口減少時代を勝ち抜く 最強の賃貸経営バイブル』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、不動産管理のスペシャリストによる「入居付け」の極意を紹介します。

不動産会社のカモにされた素人投資家の事例

 事例2  サブリースを解除できず不安な日々を過ごすZさん

 

>>R社から購入

 

Zさんは飲食業のオーナーでありながら、商社で働くサラリーマンです。とりたてて資金に困っているわけでもないのですが、飲食業で得た利益を別に運用したいと日頃から考えていました。このZさんは以前より、都内に区分所有マンションを3室持っていました。年間のキャッシュフローはほとんどないのですが、生命保険代わりという不動産会社の勧めで購入をしたのです。

 

インターネットなどの情報から、一棟ものについても最近は流行っていると聞き、区分所有マンションを紹介してくれた担当者へ、「一棟ものは扱っていませんか?」と確認したところ、新築アパートの紹介を受けました。

 

幸いにもZさんはフルローンが受けられ、また10年間のサブリースが付いているので、東京都足立区にある新築アパートを購入しました。利回りが6%、1R24世帯で、価格は1億5500万円です。

 

S銀行で年間の金利が4.5%あり、ほとんどキャッシュフローが残らないので尻込みをしていましたが、「サブリースにより10年間は月額の支払金額が保証されています。返済には問題ありませんよ!」と太鼓判を押されて購入を決断したそうです。

 

ところが購入してから1年後に、月額サブリース金額128万円の送金が遅れるようになりました。そして現在は2カ月も送金が遅れている状態です。

 

しかもその後にサブリース金額の128万円を、「115万円に下げさせてください」と告げられました。その代わり、不動産会社からS銀行へ金利交渉を行う旨の連絡がありました。

 

当然、「わずか1年で保証額を下げるなんて!」と憤って交渉しましたが相手も折れません。この一方的な条件を断ったところ、勝手にサブリース金額を下げて送金され、その3日後にはサブリース家賃改定の通知が届きました。

 

「送金も2カ月遅れてとても困っている。このままだとR社は倒産するのではないだろうか?」と不安になりました。他の管理会社に確認をしたところ、やはり倒産しかかっている話が聞き出せました。

 

新築は24世帯中6室が空室なので、サブリースが切れると途端に返済が滞ります。Zさんは管理会社からの家賃送金が遅れていることを不満に感じながらも、サブリースを解除できず不安な毎日を過ごしています。

 

以上、私のもとへご相談に来られたお客様の事例を二つ挙げましたが、このような事例は氷山の一角で、実際には数えきれないほど存在します。

 

 

前回紹介した 事例1 は不動産会社が知識のない投資家に対して「年間で200万円のキャッシュフローが貯まります!」という儲け話をきっかけに、賃貸需要のない地方物件を、あたかも10%の高利回りであるかのように見せかけてカモにしたケース(関連記事『サラリーマン大家を「破滅」に追い込む不誠実な不動産会社』参照)。また 事例2 は不動産会社と銀行が裏で組んで、「都内に新築の一棟アパートが自己資金0円で買える!」と投資家を騙(だま)したケースです。

 

いずれにしても被害者は購入を目的とした不動産投資家が大半で、空室をどのように埋めて運用していくかについて、細かい戦略を立てている投資家はほとんどいません。いくら融資が付くからとはいえ、それと運用がうまくいくかはまったく別問題なのです。

 

物件について詳細に調べ尽くし、より良い条件で取得すること、そして良い条件の不動産融資を受けること。これが不動産を取得する際の要となりますが、それ以上に高入居率での満室経営もまた、保有するうえで大切な要素になるのです。

物件選定の際は「物件実質利回り」を計算する

不動産投資をする場合は、必ず自分がイメージする出口戦略を組み立てたうえで進めなければいけません。

 

不動産会社の営業マンに物件を勧められたとしても、本当にその物件が良い案件なのかを心底理解し、そのうえで「良い!」と判断すれば取得すべきですが、そうではない場合なら購入すべきではありません。

 

本書(『人口減少時代を勝ち抜く 最強の賃貸経営バイブル』)は賃貸管理の重要性について述べていますが、賃貸管理を実施する前において良い物件を取得できるかどうかは、不動産投資に成功するか否かの80%以上を占めているといっても過言ではないでしょう。そのくらい物件選定はとても大切なのです。

 

逆にいえば、物件選定を間違ってしまうと、物件の出口は損切(そんぎ)りしかないのです。そして物件の選定で間違っていたことに気がついた場合は、損切りを一刻も早く行わなければ傷(損失)はどんどん深くなっていきます。

 

それでは物件選定を間違わないためにどうすればよいのでしょうか? いくつかの要素について説明していきたいと思います。

 

ネットのポータルサイトを閲覧して物件を探す人がいれば、不動産会社を何軒も回って物件を紹介してもらう人もいることでしょう。いずれも取得のきっかけでありますし、どちらが良いとも言いきれないのですが、実質利回りがどれくらい良いのかを考えることが重要です。不動産投資において、表面利回りと物件実質利回りはまったく違うものです。

 

まずは、表面利回りの計算式からご紹介します。

 

表面利回り=満室想定家賃合計÷物件購入額×100

 

となります。

 

これは手残り(最終的に手元に残るCF)を推し量るうえで重要な役割を果たしているとはいえず、取得を検討できるかどうかの最初の指標に過ぎません。一方で物件実質利回りに関しては、物件を取得してキャッシュフローが回るかどうかを考えるうえでとても大切です。

 

続いては、実利回りの計算です。

 

実利回り=(年間収入-諸経費)÷(物件価格+取得諸経費)

 

この計算では表面利回りの計算から抜けている保有中の諸経費を加味することで、キャッシュフローが表面利回りと比較してどの程度の誤差が生じるのかを判断できます。

 

実利回りは、退去に伴う保有中にかかるであろう修繕費、受取家賃に対する平均入居率を加味した掛け目(担保となる不動産評価に対する融資限度の割合)、家賃下落、そして税効果などの要素が抜けており、そのため物件実質利回りと実利回りでは大きな乖離(かいり)がある可能性もあります。

 

私が考える物件実質利回りは以下のような計算になります。

 

物件実質利回り=(年間収入-諸経費)×平均入居率(%)×家賃下落率(%)÷(物件価格+取得諸経費)×100

 

ただし、次の条件とします。

 

・戸あたり1Kで5000円、ファミリーで1万円の退去修繕積立ができる

・退去後の広告料、フリーレント等の経費として1Kで5000円、ファミリーで1万円の経費積立ができる

・大規模修繕積立として1世帯あたり3000円の修繕積立ができること。中古であっても大規模修繕済みの物件を取得するのが望ましい

・管理会社がすべての入居者に保証会社加入を義務付けし、未回収家賃がないことが前提

 

 

融資選択は「返済比率60%以下」であることが重要

次に融資選択についてですが、最も重要な要素としては、返済比率が60%以下であることが必須条件です。銀行融資はその人の属性、及び物件によっても異なりますので一概にはいえませんが、良い融資を受けるためには、属性が良いことと、金融機関が評価する物件であることが重要です。

 

前述したSスキームの業者は、販売だけを目的にしているケースが多いため、返済比率(額面年収に対して融資の年間返済額が占める割合のこと)の高さを、サブリースなどを隠れ蓑にして無視しています。サブリースについて詳しくは後述しますが、「家賃保証をするから、返済比率が高くてもいいだろう」という理屈です。

 

サブリースは永遠ではありません。もしサブリースが切れた際には、毎月、自身の給料から持ち出しとなります。そうしたリスクを考えると、ローン返済を軽く設定しておくのはとても大切です。すでに物件をお持ちの方は、自身の物件が前述の条件に合致した物件であるのかを考えてみてください。そして、条件に合致していない物件を保有されている方は、借り換え、一部繰り上げ返済などを検討ください。

 

しかし、不動産は保有中にコストをかけることで、変えられないものと、変えられるものがあります。変えられないのは「立地」「日当たり」「一部屋の広さ」「駐車場の確保」。そして変えられるのは、「外装」「間取り」「設備」「内装」です。

 

いくらコストをかけても変えられない部分についてはどうしようもありませんが、手を入れることで見違えるように競争力が増す物件もあります。

 

次回以降で、そのノウハウを解説していきます。

 

 

菅谷 太一

ハウスリンクマネジメント株式会社 代表取締役 宅地建物取引士/液化石油ガス設備士/丙種ガス主任技術者

 

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