発達障害の子どもたちは、多くの才能を秘めているにもかかわらず、ときに「問題児」として扱われます。自尊感情が傷つき、自己肯定感が低くなりがちな子どもたちにとって、身近な養育者からの「言葉がけ」はとても重要です。本記事では、子どもの自己肯定感を高める「言葉がけ」について見ていきます。

「一番の理解者」として側にいることが重要に

褒めるということにも通じますが、言葉がけによって子どものセルフイメージをよくすることも大切です。

 

私に発達障害の傾向があるというのは前述の通りですが、私が小学生の頃は、ASDやADHDという病名もなく、発達障害は世の中にまったく知られていませんでした。

 

しかし、私が幼い頃から、母は私が周りの子どもと違うということに気づいていたようです。小学生になったばかりの頃、こんなことがありました。

 

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ある朝、授業が始まる前に先生が、

 

「体育館に移動しますよ」

 

と言い、周りの同級生たちが一斉に立ち上がって移動を始めました。突然のことに何が起こったのかと、私は動揺しながらも一緒に移動を始めました。ところが、階段の踊り場にさしかかったところで、立ちすくみ、涙が止まらなくなりました。なぜそんなに不安になっているのか自分でもわからないまま、しくしくと泣きだしてしまったのです。

 

もし、あのとき先生が、

 

「今日は月に1回の朝礼の日だから、みんな体育館に移動しますよ。30分経ったら、また教室に戻ってきて授業をしますからね」

 

と言ってくれたら、あんな風に不安に駆られることはなかったように思います。

 

小学生の頃の私は、周りの人が当然のようにやることに、いちいちつまずいていたのでした。

 

作文の時間には、こんなこともありました。

 

先生が「遠足のことを作文に書きましょう」と言うので、原稿用紙に向かいました。しかし、遠足の日のことを思い返すと、あんなこともあったし、こんなこともあったな、と詳細に思い出すことはできましたが、それらはとりたてて書くほどのこともないように感じられました。そうやって原稿用紙を前に思案しているうちに、あっという間に時間が過ぎていきます。

 

真っ白な原稿用紙に向かって考え込んでいるだけの私を見かねて、先生が

 

「何でもいいから、遠足のときにあったことを書いてごらんなさい」

 

と言いました。仕方なく、その日にあったことをつらつらと書き、自分では納得がいかないながらも、その作文を提出しました。

 

後日、返却された作文を見てみると、「カラスウリが光っていました」というところに線が引かれて、丸がついていました。先生は私の作文のその箇所を評価してくれたのです。

 

しかし、私にはその部分が評価された理由がさっぱり理解できず、なぜここがよかったのだろう、と余計に混乱してしまいました。

 

そんな調子だったので、正直なところ学校に行くことは苦痛でした。自分だけが理解できないルールに則ってクラスメートたちが行動していて、みんなが正しくて自分は異質だという感覚があったからです。その違和感を誰もわかってくれないというつらさもありました。

 

そんな私に向かって、母は

 

「あなたはいい子。あなたはすばらしい」

 

と言い続けてくれました。その母の存在があってこそ、今の私がいます。

 

発達障害の子どもが現代日本で暮らしていくためには、多くの場合、生きづらさを抱えながら生きていかなければなりません。そんなとき、お母さんをはじめ身近な養育者が自分の一番の理解者として側にいてくれたら、こんなに心強いことはないのです。

 

それぞれの子どもによって、生きづらさの種類は違いますが、自尊感情が傷つけられ、自己肯定感が低くなりがちなのは同じです。

ポジティブな「セルフイメージ」を定着させる

発達障害の子どもと接するときに大切なのは、その子の人格を否定しないことです。発達障害によって引き起こされる行動が、世の中のルールに合っていないのであって、その子自身が悪いのではありません。子どもはセルフイメージの通りになります。

 

子どもにとってのセルフイメージは、親のかけた言葉でつくられていきます。

 

片付けられない子どもに対して「片付けができないなんて、だらしない」という言葉を投げかけ続けると、どうなるでしょうか。子どもの中で、自分は「片付けのできない、だらしない子」なのだというイメージが定着し、本当にだらしない人間になってしまいます。

 

では、どうしたらよいのでしょうか。

 

まず、子どもができる範囲を見極めたうえで、何をどうするのかを明確にして「これを片付けてね」と伝えます。そして、お願いしたことができたら「片付けが上手ね」と褒めます。これをくり返していくと、子どもの中で、自分は片付け上手なのだというセルフイメージができあがり、片付けのできる子になっていきます。

 

同様に、突然走り出してしまう子どもに対して「こんなところで走り出すなんて、ダメ!」と言っても、子どもは走ることをやめません。「自分はこんなところで走ってしまうダメな子」というイメージが定着するだけです。この場合、適切な言葉がけは「歩こうね」というものです。

 

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これは子どもに対してだけでなく、大人に対しても同じです。

 

どうしても子どもを叱るときに手が出てしまうというお母さんに、「1回頭を叩くごとに、脳細胞が100万個死ぬそうですよ」というようなアドバイスをしても、ほとんど効果はありません。その場では「それは大変ですね。叩かないようにします」と納得しても、お母さん自身の中に「私は子どもに手を上げる怖いお母さん」というセルフイメージが凝り固まっていて、理屈ではその行動を変えることはできないのです。

 

一番効果的なのは、お母さんが子どもにやさしく接している姿を見かけたときに、すかさず「やさしいお母さんですね」と伝えることです。すると、最初は「私がやさしいお母さんだなんて。そんなことないですよ」と言いながらも、度々「やさしいお母さんですね」というメッセージを伝え続けることで、お母さんの中で「私はやさしいお母さん」というセルフイメージが強化されていきます。

 

お母さんが子どもを叩かなくなると、子どももニコニコしてよい子になります。お母さんが幸せなら、子どもも幸せになります。そうするとお母さんは、「うちの子はいい子なんです」と言い始めます。そして、気づいたときには、子どもに手を上げることのない、やさしくておおらかなお母さんになっていきます。

 

そんな変化を、この25年の間にたくさん見てきました。

 

発達障害の子どもを育てるお母さんは、日々必死に奮闘しているでしょうし、子育てに疲れ切って、毎日ピリピリしているかもしれません。でも本当は、子どもへの愛に溢れたやさしいお母さんであるはずです。

 

発達障害の子どもたちの才能を花開かせるためにも、愛情深い本来のお母さんであるためにも、「あなたはすばらしい」という言葉がけを意識してみてください。

 

 

大坪 信之

株式会社コペル 代表取締役

 

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    本連載は、2018年12月4日刊行の書籍『「発達障害」という個性 AI時代に輝く――突出した才能をもつ子どもたち』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

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    大坪 信之

    幻冬舎メディアコンサルティング

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