発達障害の子どもたちは、多くの才能を秘めているにもかかわらず、ときに「問題児」として扱われます。そのため、周囲からの理解が満足に得られず、生きづらさを感じてしまうことも少なくありません。しかし、幼少期に適切な接し方をしてあげることで、生きづらさは軽減され、隠れた才能に開花することもあるのです。本記事では、子どもの隠れた才能を引き出す「接し方」について見ていきます。

自尊感情を育てるために必要な「3つのポイント」

前回ご紹介したように(関連記事『エジソン、モーツァルト…偉人たちを支えた親の行動とは?』参照)、発達障害があったとされる偉人はさまざまな分野に存在し、枚挙にいとまがありませんが、彼らの生い立ちから共通点を見出すことができます。母親をはじめとする身近な養育者が、幼少期に同じような対応をしているのです。その対応は次の3点に集約できます。

 

●その子のありのままの姿を受け入れ、「あなたはすばらしい子だ」と認めること

●秀でた才能を持っている部分を見極め、それに没頭できる環境を整えること

●やりたくないことや苦手なことを強要せず、好きなことを思う存分やらせること

 

そのような環境で育った発達障害の子どもたちには、自尊感情が育まれます。そして、好きなことに没頭できた結果、偉業を成し遂げているのです。

 

発達障害の子どものエネルギーの使い方は、「選択と集中」です。自分が好きなことだけにエネルギーを集中的に使うからこそ、並外れた成果を残すことができるのです。発達障害の偉人のエピソードをたどってみると、寝食を忘れて、自分のエネルギーを可能な限りすべてつぎ込む傾向がよく見られます。

 

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前述のエジソンは、30分ほどの仮眠を1日数回、合計3時間程度しか取らず、ほぼ24時間体制で仕事を続けていました。そのため、「エジソンの研究所の時計には針がない」という噂が流れるほどだったといいます。

 

医者の野口英世も発達障害だったといわれていますが、彼は寝食を忘れて研究に没頭するので、アメリカ人の研究者から「二十四時間男(トウェンティフォー・マン)」というニックネームをつけられたそうです。

 

歴史に刻まれるような業績を残せるのは、そんな特性を持った人物なのです。

 

発達障害の子どもたちは、身近な養育者によって自尊感情が育まれ、才能を伸ばせる環境を与えられれば、将来、世界に名を馳せる偉人として業績を残す可能性を秘めた逸材なのだといえます。

特殊な計算能力、並外れた記憶力をもつサヴァン症候群

発達障害の人の中には、驚くべき能力を持っている人がいます。それは、特殊な計算能力や、並外れた記憶力、芸術領域の能力などで、ときに「天才」と呼ばれるほど突出している人もいます。このような人たちは、サヴァン症候群といわれ、発達障害にともなって見られることが多いとされています。

 

たとえば、映画『レインマン』のモデルとなった、キム・ピークという人物がいます。彼は会話もまともにできず、論理的な思考もできないのですが、なんといってもケタ外れの記憶力を持っていました。

 

とにかく何でも記憶したがるので、彼の父親は毎日図書館に連れて行き、書物を片っ端から覚えさせていったのだそうです。やがて図書館にある本、約9000冊をすべて丸暗記してしまいました。

 

覚えるべき本が図書館になくなってしまうと、今度は野球のスコアを丸暗記するようになります。そして、図書館で週に1回、子どもたちを相手にその内容について何でも質問に答えるという時間を持っていました。

 

子どもたちは面白がって、「この日のこの試合の○○という選手の第3打席は?」などと質問します。すると、キム・ピークは「二塁打だよ」というふうに、よどみなく答えたといいます。

 

ドラマ『裸の大将放浪記』のモデルとなった画家の山下清は、「日本のゴッホ」と呼ばれるほどの芸術の才能の持ち主で、同時に抜群の記憶力を持っていました。

 

彼は手ぶらで旅行に出て、帰ってきてから時系列に沿ってできごとを思い出し、克明な日記を綴っていました。絵を描くときにも同様で、現地で写生することはなかったそうです。写真のように風景を頭の中に記憶して、それをもとに、帰宅してから描いていたというのです。彼は英語がまったくできなかったにもかかわらず、絵の中に英語の看板が描かれていることがあったので、疑問に思った人が尋ねると、「こんな模様の看板でした」と答えたというエピソードが残っています。風景をどれほど細部まで詳細に脳内に写し取っていたかがよくわかります。

 

ほかにも、驚くべき能力としては、素数を億の単位まで言えたり、ある日付を言えばその日が何曜日かを即座に答えられたり、時計を見ずに正確な時刻を秒単位まで答えられたり、などが挙げられます。また、一度オペラを観劇すれば、すべての曲を口ずさんだりハミングしたりすることができる少年がいたという報告もあります。

 

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このように、ふつうの感覚では不可能だと思えるようなことをいとも簡単にやってのけるのが、サヴァン症候群の人たちです。

 

アメリカの心理学者であるバーナード・リムランドの報告によれば、5400人の自閉症の子どもを対象に調査した結果、そのうちの531人、つまり約10人に1人程度の割合に何らかの特別な能力があったとされています。

 

サヴァン症候群の研究者であるトレッファートは、サヴァン症候群を次の三つに分類しています。

 

一つめは「断片的才能(splinter skills)」です。電車やバスの時刻表を丸暗記したり、地図や歴史上の事実を正確に記憶したり、スポーツ関連のデータやナンバープレートなどを記憶したりといったものがこれにあたります。どれも驚異的な能力ですが、そこに創造的な内容は含まれません。

 

二つめは「有能サヴァン(talented savant)」です。音楽や美術、その他の特定の領域でケタ外れの能力を持っており、高度で著しい特徴があるものです。

 

三つめは「天才的サヴァン(prodigious savant)」です。いわゆる「天才」とされる人々で、突き抜けた才能を持つ、非常に稀なタイプです。

 

サヴァン症候群の人々が持つ能力は、常識で考えると人間業とは思えないようなものばかりです。しかし、発達障害の子どもたちのなかには、そういった才能を隠し持った子どもがいるのです。

 

 

大坪 信之

株式会社コペル 代表取締役
福岡大学 人間関係論 非常勤講師
一般社団法人徳育学会 会長
日本メンタルヘルス協会公認カウンセラー

 

本連載は、2018年12月4日刊行の書籍『「発達障害」という個性 AI時代に輝く――突出した才能をもつ子どもたち』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

「発達障害」という個性 AI時代に輝く──突出した才能をもつ子どもたち

大坪 信之

幻冬舎メディアコンサルティング

近年増加している「発達障害」の子どもたち。 2007年から2017年の10年の間に、7.87倍にまで増加しています。 メディアによって身近な言葉になりつつも、まだ深く理解を得られたとは言い難く、彼らを取り巻く環境も改善した…

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