不動産投資が所得税や住民税などの節税に有効な理由
突然ですが、みなさんは自分の1年間の所得税と住民税の金額を把握していますでしょうか?
会社員の場合、税金などは給与から天引きされることから、自分の1年間の所得税、住民税の金額を把握できていない方も少なくないでしょう。
例えば、ご年収500万円、子供なし、持ち家なしの方であれば、約「39万円」の所得税と住民税がかかってきます。700万円の方は、約「70万円」の所得税と住民税がかかってきます。1,000万円の方は、「147万円」の税金を納付し、年収が5,000万円以上の方はなんと「2,000万円以上」の所得税と住民税がかかります。
「こんなにも税金を払っているの?」と思わず、ビックリされた方もいらっしゃるでしょう。
日本は累進課税制度になっていますので、このように、収入の金額が高ければ高いほど、所得税、住民税の金額も増えていくのです。つまり、年収が高い方ほど、税金を多く払い手取り額の伸び率が少ないのが現状です。
[図表1]給与に対する所得税と住民税
そこで、せっかく稼いだお金を少しでも手元に残したいと思い、いろいろな節税方法を探しているうちに、不動産投資にたどり着いた方も多いでしょう。
とは言え、具体的には
●なんで不動産投資は節税できるのか?
●節税の仕組みがわからない
●不動産投資を活用したシミュレーションが知りたい
など、知らないことだらけの方も少なくないです。
今回は、お金のプロである私が、上手な不動産投資と節税についてご説明します。ぜひ、最後までお読みください。
1、なんで不動産投資は節税に有効? 不動産投資の仕組み
よく「不動産所得で赤字を作って税金を安く抑えた」なんて話は聞いたことはありませんか?
私が思うには、不動産投資には大きく以下3つの税金を安くすることができると考えています。
●所得税・住民税
●贈与税
●相続税
では、それぞれについて説明していきます。
2、所得税・住民税
まず最初に、所得税・住民税について説明していきます。
不動産投資には、様々な経費を計上することができることから、家賃収入より多く諸経費の計上ができれば、不動産所得は赤字になることができます。
例えば、年間の家賃収入が120万円の物件をご所有の場合、1年間で計上できる諸経費が150万円の場合、「△30万円」の赤字計上することができます。
(1)なぜ、赤字計上の場合節税ができる?
こちらの記事の冒頭に、日本は累進課税制度になっているとの説明があったと思いますが、つまり、所得がどんどん加算していく仕組みになります。
不動産所得は赤字の場合、給与所得などの収入と「損益通算※」することができるから、給与から天引きされた税金を、確定申告することによって、還付を受けることができます。
※「損益通算」とは利益と損失を相殺することです。
(2)比較シミュレーション
それでは、具体的に節税の効果を見ていきましょう。
こちらでは、「ご年収500万円の場合の所得税・住民税のケース」と「年間の不動産所得は50万円の赤字で、損益通算した場合の所得税・住民税のケース」を比較してみました。
[図表2]比較シュミレーション
上記のシミュレーション表を見ていただければ分かりますが、ご年収が500万円の場合の所得税、住民税は約39万円に対して、不動産所得が50万円赤字の方は、所得税、住民税が約29万円となり、年間で約「10万円」節税となりました。
つまり、不動産所得の赤字を給与所得と合算できる(これを「損益通算」といいます)ことによって、総所得が少なくなり、1年間の所得税、住民税を節税できるのです。
(給与所得+不動産所得-所得控除)×税率=所得税
住民税についても基本的には、所得金額をベースに計算されるので、所得に応じた税金がかかります。
なお、株やFXなどの金融商品は「損益通算」をすることができないので、つまり、不動産投資のみ活用できる節税方法と言えるでしょう。
(3)不動産所得に計上できる諸経費とは?
不動産所得を赤字計上するには、諸経費を漏れなく計上することが大切です。
以下にて、一般的に不動産所得に計上していいと言われている諸経費をピックアップしましたので、ぜひ参考にしてみてください。
●仲介手数料
●不動産管理費
●減価償却費
●不動産取得税
●修繕費
●登録免許税
●固定資産税
●火災保険
●交際費
●(勉強するための本や新聞などの)図書費
●借入金の利息
●(物件の下見、打ち合わせなど移動時の)交通費
●(PC、携帯などの)消耗品費
●(税理士、コンサル会社などに依頼したの)コンサルティング費用
などの諸経費が発生します。
この中で、一般的に費用の金額が大きいものは「減価償却費」、「不動産取得税」、「登録免許税」、「修繕費(大規模な修繕の場合)」です。これらが大きく発生すると不動産所得が赤字となるケースが多くあります。
3、贈与税
続いて、贈与税についてみてみましょう。
(1)そもそも贈与税の計算方法とは?
贈与税とは、他人から財産を無償で受け取った時に、受け取った方が納める税金のことです。
(もらった財産の価額-110万円)×税率-控除額=贈与税
上記の110万円は基礎控除となっていて、110万円以内の贈与であれば贈与税はかかりません。
また贈与税は、1年間(1月1日~12月31日)の間に、贈与によりもらった財産の価額の合計により税率が異なってきます。
[図表3]贈与税の税率(20歳以上の者が祖父母や父母から受け取った場合)
(2)なんで不動産投資は贈与税の節税ができるのか?
不動産を贈与した場合、その価値はいったいいくらでしょうか?
贈与財産の価額は、購入金額ではなく、法律で定める「相続税評価額」により算定します。
この「相続税評価額」は、時価で評価される現金などに比較して、不動産は2~3割程度少なくなりますので、その分贈与税の節税につながります。ただし、不動産を購入した直後に贈与を行うと、明らかに贈与税を少なくする行為ととらえられるので注意が必要です。
また、不動産を贈与すると、「登録免許税」や「不動産取得税」がかかります。この二つの税金を合わせると贈与財産の約5%の税金が発生するので、そのコストも加味しなければなりません。
(3)金融商品などを生前贈与したときと不動産の贈与税の比較シミュレーション
以下にて4,500万円の現金で贈与されたケースと4,500万円と販売されて、2,700万円と評価された不動産にて贈与されたケースの贈与税について比較してみましょう。
①現金4,500万円の贈与を受けたケース
(4,500万円−640万円)☓55%=2,123万円
②4,500万円と販売されて、2,700万円と評価された不動産の贈与を受けたケース
(2,700万円−265万円)☓45%=1,095万7,500円
※「登録免許税」や「不動産取得税」は考慮しておりません。
③結果
現金で贈与と受けるより、不動産で贈与受けた方が約「1,000万円」の税金を節税することができます。
4、相続税
最後に、相続税についてみてみましょう。
(1)そもそも相続税の計算方法とは?
相続税の計算は、以下4つのステップで計算します。
●STEP1:遺産の総額の把握
●STEP2:課税遺産総額の算定
●STEP3:相続税の総額計算
●STEP4:各相続人にかかる税額の算定
以下にて具体例を交えながらご説明します。
相続する人が妻と子供2人(長男、長女)の場合
STEP1:遺産の総額の把握
まず遺産の総額を把握します。
計算式:「遺産の総額=財産-負債」
で計算します。
●財産となるもの:預金、土地、建物、株式、生命保険(非課税限度額あり)など
●負債となるもの:借入金、葬儀費用など
具体例)
●財産:預金7,000万円、土地5,000万円、建物3,000万円
●負債:借入金200万円
●資産の総額:1億4,800万円
STEP2:課税遺産総額の算定
次に遺産の総額から基礎控除を引いて課税遺産総額を算定します。
計算式:「基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数」
具体例)
●1億4,800万円-4,800万円(3,000万円+600万円×3人)=1億円
※課税遺産総額が0円以下の場合相続税は課税されません。
STEP3:相続税の総額計算
STEP2で計算した課税遺産総額を、法定相続分(妻1/2、長男1/4、長女1/4)で分けたと仮定して相続税額の合計を計算します。
具体例)
妻:5,000万円×20%-200万円=800万円
長男:2,500万円×15%-50万円=325万円
長女:2,500万円×15%-50万円=325万円
課税合計:1,450万円
[図表4]相続税率
STEP4:各相続人にかかる税額の算定
相続人ごとに相続税を計算します。
●妻:1,450万円(相続税の総額)×1/2-配偶者の税額軽減(最低1億6,000万円以上)=0円
●長男:1,450万円(相続税の総額)×1/4=362万5千円
●長女:1,450万円(相続税の総額)×1/4=362万5千円
●相続税合計:725万円
仮に、法定相続分以外の割合で相続した場合、それぞれが受け取る財産の割合に応じて相続税を按分します。
(2)なんで不動産投資は相続税の節税ができるのか?
相続財産の価額は、贈与税と同じく「相続税評価額」により算定します。
この「相続税評価額」は、不動産は現金で贈与した場合に比べて2~3割程度少なくなることから、相続税の節税となります。
(3)現金などを相続したときとの贈与税の比較シミュレーション
現金による相続税と不動産による相続税の比較を見てみましょう。
[図表5]法定相続人が妻と子供2人のケース
つまり、不動産の相続税評価額が2,000万円下がったことにより、相続税が140万円少なくなりました。
なお、借地や借家などの場合に、更に相続税評価額を引き下げられるケースが多くあります。
自分に適した節税か、デメリットも検討した上で対策を
5、だれでも節税できるわけではない! 失敗したケースは?
では、不動産投資をすればだれでも節税ができるのでしょうか?
実は、そうではないケースもあります。
以下にて失敗したケースを3つご紹介しますので、参考にしてみて下さい。
(1)相続税対策を重視し不動産を購入したケース
上記にも書きましたが、現金や金融商品で相続するより、不動産の相続税課税額が安くなります。
しかし、中には評価額4,000万円しか出ない物件を8,000万円で販売される物件もあります。確かに8,000万円の現金で相続するよりかなり税金が安くなりますが、そもそも4,000万円の価値しかない不動産を8,000万円で買ってしまうことになりますので、かなり損をしてしまったと言えるでしょう。
(2)税金対策として土地活用で失敗したケース
土地活用して、需要がない地域にアパートを建ててしまったケースも少なくありません。確かに相続税対策などにはなるのですが、そもそも空室期間が長かったり、家賃収入が少なくなるので、相続税の節税効果以上に損をしてしまうことがあります。
(3)所得が増えすぎて所得税率が高くなってしまった
不動産投資が順調に進み、複数の物件を所有した場合、不動産所得が多くなり所得税率が高くなってしまう場合があります。所得が5,000万円となれば約40%の税金が発生することとなり高い税金を払わなければなりません。この場合の対策として、最初から法人で不動産を所有する必要がありました。
6、法人設立は節税に効果的? 法人のメリットとデメリット
所得税を節税する対策として、法人を検討されている方も多いのではないでしょうか。
しかし、法人設立のメリット・デメリット、どのタイミングで設立したほうがいいのか、そもそも自分には法人設立する必要があるのか悩まれている方少なくないでしょう。
以下にて法人設立について書いていきますので、法人設立を検討されている方は参考にしてみてください。
(1)法人で物件購入する際のメリット
法人で物件購入すると、以下2つのケースに該当したときメリットがあると言えるでしょう。
①所得税率+住民税>法人税率のケース
所得税と住民税は、税率が15~55%と所得に応じて税金が上がっていきます。一方で法人にかかる税金は税率の上がり方が緩やかで、おおよそ26~33%となります。所得が多い方にとっては、法人で購入したほうが、税金が少なくなるケースがあります。
②相続税の負担を減少させるケース
相続が発生した際、個人で不動産を所有していると、不動産に対して相続税が発生しますが、法人で不動産を所有していると、法人の株式に対して相続税が発生します。
この時、法人を介すことで相続税が少なくなるケースがあります。これは、相続税の土地の評価方法と、法人株式の評価方法が異なるからです。
(2)3つのデメリット
一方、個人と比較して、法人にした場合だと以下のようなデメリットが挙げられます。
①社会保険への強制加入
法人を設立すると社会保険への加入が強制的に行われます。社会保険料は給与額の約30%かかるため、国民年金、健康保険に加入している場合に比べてその負担額が大きくなります。
②毎年一定の税金が発生する
法人では、利益に関係なく毎年7万円(資本金1,000以下、従業員50名以下、東京都に事業所が1か所の場合)の税金がかかります。一方、所得税、住民税は毎年5千円とその差6万5千円分税金の負担が大きくなります。
③法人化による諸経費が発生する
法人を設立する費用として、株式会社の場合、最低でも約20万円の費用がかかります。これに司法書士に設立を依頼した場合の費用や印鑑代などを加えると約25万円かかってきます。
7、不動産投資を活用した節税の本質とは?
不動産投資の本来の目的は、有効な資産形成の一つです。短期的な節税だけにとらわれてしまうと、長期的に見た場合、節税以上の損失をするケースがあります。重要なのは、不動産投資によって、資産額を増やすことです。そのためには、キャッシュバランスを考えた長期的な賢い節税対策が必要です。
まとめ
今回は不動産投資を活用した節税について書きましたが、いかがでしたでしょうか。
記事を読んでいただければ分かりますが、不動産に関連する税金は非常に複雑で、ここではすべてを書きれません。同じ不動産を購入しても、その方の置かれている状況で税金が大きく変わってきます。
ご自身の状況に応じてどんな節税対策ができるのかは、よく検討しましょう。