高利回りをうたう、地方の一棟収益物件への投資。融資が厳しくなったことから、以前のように一般の会社員では投資が難しくなりました。しかし過去の書籍などを読み、高利回りの一棟収益物件を求めてくる投資家が後を絶たないといいます。本記事では株式会社SRコーポレーションで不動産コンサルティングを行う高澤啓氏が、高利回りを推しにしている一棟収益物件に潜む落とし穴をについてみていきましょう。

アパート投資で儲かるのは、一部の富裕層だけ

・ワンオーナーであるため、建築、解体、リフォームなど、自身の意志のみで決定できる

・区分登記をしない分、同じ立地でも区分マンションより価格が安くなる

・まとめ買い状態のため、区分マンションよりも利回りが良い物件が多くなる

 

このような理由から、地方の一棟収益物件(多くはアパート)を不動産投資の第一の選択肢に入れて考える投資家がいます。

 

ところが、2018年に顧客を巻き込んだ過度な融資を引き起こした悪徳業者と金融機関による不祥事が原因で、一棟収益物件への融資に積極的だった金融機関が、金融庁からの指導などにより、一棟収益物件に対する融資を停止、または制限をしました。結果、以前のように地方の高利回り物件を購入できない時代になったのです。

 

そういった背景もあり、現在は都心の区分マンションが再度人気を博しています。それでも当時のやり方を模した書籍や、そういったやり方で投資を始めようとうたうセミナーに参加して、地方の一棟収益物件でキャッシュフローを作り出したいと考える投資家がいまだに存在しています。

 

誤解を招かぬよう説明すると、「潤沢な自己資金を保有している方」は今でも地方の一棟収益物件を購入すること自体は可能です。

 

ではどういった方が「潤沢な自己資産を保有している」と見られるのか、というと、一般的には3,000万円以上の資産を保有する投資家は、比較的優遇されるケースはあります。 また、物件価格の2割以上を自己資金に充てる投資家などは、潤沢な自己資産を保有していると見られるケースが多いです。

 

つまり地方の一棟収益物件に関して、自己資金のない投資家は、年収が1,000万円以上あったとしても、地方の一棟収益物件を保有することができないことになります(地方で無理なら、当然、都心でも保有することはできません)。これは年収が2,000万円でも3,000万円でも同じことがいえます。

 

そして当然かもしれませんが、自己資金を2割以上入れて賃貸経営をするわけですから、毎月の収支はプラスに転じ、キャッシュフローを生み出すということになります。

 

そして賃貸経営がうまくいけば、預金よりも家賃収入が毎月入ってくるといったメリットを受けることができます。

 

リスクをきちんと説明しない業者もまだまだいる
リスクをきちんと説明しない業者もまだまだいる

一棟収益物件のキャッシュフローに潜むリスク

そもそも不動産投資の成功への大前提として「賃貸需要があって初めて利回りは成り立つ」という事実があります。ここの大前提を大きく見誤っている投資家が後を絶たないので、まずしっかりと覚えておきましょう。

 

よく区分マンションではなく、地方の一棟収益物件を選ばれる投資家が口を揃えていうのが、「区分は空室が起きると家賃収入が0円になるけど、一棟で8戸部屋があれば、仮に1戸空いても、他の部屋の収入で回るから一棟が良い」といいます。

 

でもよく考えてみてください。一棟で融資の引ける物件は地方で高利回りの物件ですが、あくまで満室想定利回りが高いだけで、そもそもの賃貸需要が高いわけではありません。

 

賃貸需要がある場所は、人口が増えている東京以外では数えるほどしかありません。賃貸需要の高い都心の区分マンションの空室期間と、地方の賃貸需要の低い一棟収益物件の空室期間とでは、どう考えても都心の方が短いはずです。

 

これから先の人口は、東京区部で横ばい、地方は人口減少の一途をだどっていきます。そのような現状のなか、空室率でいえば、地方の一棟収益物件のキャッシュフローというもの自体が近い将来、崩壊する可能性を大いに秘めているということです。

 

そして必ずしも1戸、2戸空くとは限らないのです。 というのも、たとえば大学付近の学生向けのアパート・マンションの場合、競合も多く、3年生時でキャンパスが変わることによる退去や、卒業を機に退去することも往々にしてあります。その際、まとめて4戸、5戸空いてしまい、万が一タイミングが合わずに空室が発生してしまった場合、向こう一年近く数部屋の空室が長期間続くケースもあります。

 

すると、当初はキャッシュフローを生み出していた収支も、支払いの方が多くなり、マイナスが大きくなります。

 

その際には、区分マンションの比にはならないほどの、出費を被る可能性も出てきます。それは区分マンションと違い、そもそもの借入額が大きいことが原因で、一般のサラリーマンでは支払えないレベルの金額の支払いになり、泣く泣く自己破産をした投資家もいます。

 

高利回りの地方の一棟収益物件は総戸数10戸でプラス収支ラインが2部屋分くらいです。2035年の地方人口は2019年現在の約90%なので、空室率10%以内の好立地でギリギリ、それ以外のエリアだと、今後15年以内にマイナスキャッシュフローに転じていく可能性が高まります。

 

さらに空室が続くようになると、売却を検討する投資家が多いのですが、地方の一棟収益物件は、先述した通り、現在でさえ融資が厳しいなか、築年数がさらに古くなり、現況利回りも落ちている状態で、第三者に売却することは大変難しい状況です。

 

そうなってしまったら負の死産を抱えたまま、マイナスのキャッシュフロー生活に陥ってしまうリスクがあるので、注意が必要です。

「付帯設備の故障・修繕」に数百万円の出費を覚悟を

空室による毎月のマイナスキャッシュフロー以外のリスクとして挙げられる代表的なものが「付帯設備の故障・修繕リスク」です。 これは場合によっては、マイナスキャッシュフローより恐ろしい結末を迎えるケースもあります。

 

付帯設備の故障・修繕リスクについては、業者側から購入時に説明されることが少ないようです。では、一棟収益物件にはどのような付帯設備の故障・修繕リスクが潜んでいるか、見ていきましょう。

 

(1)給湯器

通常、給湯器の寿命は10年といわれています。そして交換費用はメーカーにもよりますが、工事費用を含めて10万円する場合があり、同時に壊れる可能性を考えると、大きな出費になります。しかも入居者責任になることはまずないので、早急な交換を必要とします。

 

(2)エアコン

給湯器と同じくらい修理交換頻度が高い出費として代表的なものとなります。コストとしては商品にもよりますが、1Kタイプ用で工事費含め4万円~という価格帯です。故障しても入居者責任になるケースは少なく、一棟収益物件の場合は同時交換のリスクが高まるので、注意が必要です。

 

(3)共有部分設備

区分マンションと違い、地方の一棟収益物件には管理組合が存在しないため、修繕積立金を積み上げておらず、共有部分の破損などはすべてオーナー自身で修繕する必要があります。 キャッシュフローが出ていたとしても、自身で積立をしていないと、大きな出費になる可能性があります。特に、外壁塗装や屋上防水は、一棟収益物件の生命線でもあるため、定期的な修繕が必要となります。

 

その他にも、集合ポストやごみ置き場、階段や廊下などの塗装も数百万円単位のコストがかかりますので、注意が必要です。他にも固定資産税や不動産取得税等も大きな金額になることが多く、コストリスクが付きまとうのが一棟収益物件であることを覚えておきましょう。

 

これらを理解したうえで、地方の一棟収益物件で不動産投資をやろうと考えている方は、時間とお金を使う覚悟をもって取り組むことが重要です。

 

本連載は、株式会社エワルエージェントが運営するウェブサイト「Estate Luv(エステートラブ)」の記事を転載・再編集したものです。今回の転載記事はこちら

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