今回は、設備資金の融資を受けるために必須な、適切な見積もりのポイントを見ていきます。※希望を持って起業しても、会社の6割は1年で倒産するという厳しい現実があります。経営者の多くは借入に対しネガティブなイメージを持っていますが、創業時期の厳しい状況を乗り越え、長期にわたって安定した経営をするためには、創業直後からの借り入れが不可欠です。本連載では、中小企業が潤沢な融資を受ける秘訣を紹介します。

必要性、使途、妥当性をクリアにすることが重要

 秘訣6/35   設備資金の融資は、相場観を踏まえ数値の根拠をクリアにする

 

設備資金と運転資金の2つの事業資金では、借りやすさに大きな違いがあります。

 

どちらが多く借入れがしやすいかというと、前者の設備資金です。別の言い方をすれば、設備投資がない会社は、創業時に資金を多く借りにくいというのが実態です。

 

同じ事業に必要な資金なのになぜ差があるのかというと、理由はシンプル。設備投資のほうが、使い道が明らかだからです。

 

前回あげた設備投資、運転資金の項目ラインアップ(関連記事『信用情報に「キズ」があると、融資審査は門前払いなのか?』参照)を見ても、内外装費やテナント契約金は、見積もりの提出が求められるため、自ずと使用用途・金額も明確になります。一方、創業後にかかる仕入れ、人件費や外注費、広告宣伝費などは、業績次第で増減するため、当初の想定より大きく変わってくるケースもあります。

 

金融機関に融資を受ける際には、「何にいくら使うために借りるのか」の根拠が必ず求められ、使途が不明なものに対しての融資は認められません。

 

大前提として、設備資金にせよ運転資金にせよ、事業のために必要なお金しか借りることはできません。投資や私的な用途での融資は不可です。

 

よって、創業から時間を経て「業績が好調」「手元資金が潤沢にある」といった例外を除けば、上限額の範囲内で使途に合わせて必要かつ妥当な額だけ融資を受けられるというのが原則です。

設備資金は「世間の相場」と「自分の経験値」から勘案

では、設備資金を見積もる上でのポイントを見ていきましょう。

 

1 事業を始める際に必要であること

設備資金は開業前、あるいは開業直後に購入するのが一般的です。

 

2 設備資金の支出の裏付け資料を用意

内外装費や店舗の保証金などは見積書を用意しましょう。備品などは、ECサイトなどの価格表でも構いませんので、何か裏付けとなる資料を添付するのがベターです。

 

金融機関によっては、領収書の提示、支払いも融資の入金口座からの振込みが条件となります。

 

3 設備投資の効果を示す

投資によって、その資産が売上につながる根拠が必要となります。高額な医療機器や最新の機械設備、ソフトウェアなどを購入する場合は、その効果をわかりやすく示す資料を別途用意するようにしましょう。

 

4 資産ごとの金額の妥当性を示す

世間の相場を大きく超えるような設備投資を見積もっても、そのとおりに融資を受けるのはハードルが高くなります。

 

融資担当者は、数多くの案件を見ていますので、世間の相場観とも照らし合わせ、金銭的に妥当なのかを判断します。

 

例えば、内装工事については、業種によって異なることもありますがおおよそ坪単価30~50万円が妥当とされています。それよりも内装費を高く見積もるなら、なぜその必要があるのかを説明する必要があり、説得力が求められます。

 

妥当な額は借りる人の属性によっても異なります。例えば同じ飲食店を開く場合でも、星付きのレストランで修業し、年収1000万円程度の総料理長が好立地で内外装に凝った高級レストランを開くのと、脱サラの初心者が立ち飲み屋を開くのでは、設備投資プランも変われば、必要と認められる資金も変わってきます。融資額の目安も当然、変わってきます。

 

もちろん、自己資金の額によって融資額も変わりますが、経験値に沿わないような家賃が高いテナントを借りようとしてもリスクが高いと判断され、希望する融資額が認められないケースが出てきます。ターゲットとする顧客層や想定メニュー、客単価との整合性にも留意する必要があります。

いい物件は“仮押さえ(仮申込み)”で融資に臨む

また、融資を申し込む際には、開業地、店舗ビジネスならば借りる店舗が決まっていることが大前提となります。

 

しかし、首都圏ではいい物件の争奪戦は熾烈を極め、立地によっても保証金や家賃が大きく異なります。自己資金が潤沢でなく、開業資金の多くを融資で賄いたい場合は、まずは専門家の助けも借りながら自分がどの程度の借入れができるかどうか目安をつけてから、動く方が効率的といえます。

 

さらに、融資が決まる前に、物件を押さえておきたい場合、まずは仮契約、あるいは必要に応じて手付金だけ打っておきましょう。融資が決まってから契約という段取りにしておけば、万が一、融資がうまくいかなかった場合のリスクを抑えることができます。

 

公庫から融資を受ける場合には、融資が確定した後に、物件の契約をしてもよいのですが、民間の金融機関から融資を受ける場合には、既に物件の契約をしていなければ基本的に融資を受けることはできません。

 

100%融資に成功する!という完璧な準備をしてきた方であればよいのですが、融資に少しでも不安がある方は、まずは物件を仮押さえ(仮申込み)をしていただき、融資が確定してから不動産を契約すべきでしょう。つまり、リスクを軽減させて進めたい! という方は公庫から資金調達するという選択肢しかありません。

 

最後に注意点として、民間の金融機関の場合、借りたお金が振込まれる前に、振込み用紙に記載させられ、融資が受けられた瞬間に、設備を購入する予定の会社へ直接振り込まれます。

 

やっぱりこの設備は不要だった!とならないようにしっかり計画してください。設備資金に対する融資について、民間の金融機関に比べ、公庫は厳格ではないため、設備の購入先の業者の変更も可能ですし、想定よりも多少安く購入できたとしても問題がないこともあります。

 

ただし、基本的には、計画どおりに設備を購入しなければならないと考えてください。

 

 

田原 広一

株式会社SoLabo 代表取締役

 

独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方35の秘訣

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田原 広一

幻冬舎メディアコンサルティング

6割の会社が起業から1年で廃業!? 資本金400万円の会社を経営している著者が、創業して3年の間に複数の金融機関から8200万円もの融資を受けてきた実績を元に、中小企業でも高額の融資を受けられる秘訣を公開。 大切な会社を…

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