まず当たるべき金融機関は「公庫」
秘訣9/35 融資の一行目は公庫で無担保・無保証で借りる
一口に金融機関といっても、世のなかにはさまざまなタイプの金融機関があります。
大別すると民間の金融機関と政府系金融機関の2つがあります。前者がおなじみの都市銀行、地方銀行、さらに信用金庫や信用組合で、後者が公庫になります。
これから開業する会社や個人事業主がまず当たるべき金融機関はどこかというと、公庫です。次いで、借りやすさでは信用金庫や信用組合、そして地方銀行、都市銀行の順番になります。
なぜ公庫が創業して間もない社長にオススメかというと、その理由は公庫の成り立ち、役割にあります。
政府系金融機関と呼ばれるとおり、公庫は政府が100%出資する金融機関です。その役目は、民間の金融機関では融資を受けることが難しい個人事業主や中小企業をサポートすること。政府が管轄する貸付専門の金融機関として、国の政策の下、中小企業へのセーフティネット貸付や創業支援などで、日本経済の下支えをすることがミッションとなっています。
公庫の融資先の内訳を見ると、大半が従業員10人未満の個人事業主や中小企業で、1社あたりの平均融資額は600~700万円程度。毎月2~5万件ほどの融資を実施しています。金利水準は1~2%台と低く、資金をはじめ経営リソースが乏しい小さな会社の力強い味方となっています。
無担保・無保証人の特例措置「新創業融資制度」
公庫の特徴は借りやすさだけではありません。創業時に公庫から融資を受けるべき理由は他にも大きく2つが挙げられます。
一つ目が、創業時に、無担保・無保証で利用できる融資制度として「新創業融資制度」「中小企業経営力強化資金」の2つの制度が用意されていることです。
国を挙げて企業の開業率アップが目標に掲げられるなか、政策に従って、金利の優遇や制度の拡充も年々、推進される傾向にあります。
それぞれの内容について、見ていきましょう。
1「新創業融資制度」
「新規開業資金」「女性、若者/シニア起業家資金」などの新創業融資制度(H30年8月24日付)を利用する際の無担保・無保証人の特例措置です。融資限度額は設備資金と運転資金の合計で最高3000万円、設備投資をしない企業であれば1500万円が上限となります。
しかし、3000万円という上限額は、支店の担当を経て、その後、本店を通過した最大値です。大半は支店決裁で決定するため、その支店枠は1000万円となります。
金利は基準利率で2.26~2.85%になりますが、各融資制度の特別利率の条件を満たしている場合には、金利優遇を受けることができます。例えば、女性、35歳未満・55歳以上に該当し、「女性、若者/シニア起業家資金」を利用する際には、特別利率(特利A)が適用され、1.86~2.45%となります。その他、技術・ノウハウなどに新規性が認められた場合も金利が優遇されます(特利B)。
どちらにしても、銀行のカードローンなどが最低5%前後の金利と考えると、好条件の金利水準といえます。
返済期間については、運転資金で最長7年以内、設備資金は基本10年以内となります。そのうち、金利のみの返済でよい据え置き期間は2年以内となっています。
もし、1000万円を年利2%、5年返済で借りたとしたら(据置期間なし、元金均等)、支払利息総額は50万8306円。月にすれば、返済すべき利息は8500円弱程度。利息を事業が立ち行かなくなった場合の保険料と考えるならば、金利水準もリーズナブルです。
「新創業融資制度」を活用するには、次の3つの要件を満たす必要があります。
1つ目が、創業の時期です。新しく事業を始める人、あるいは事業を始めてから個人の場合、2回目の確定申告の前まで、法人ならば2回目の決算前であることが条件となります。
2つ目が、雇用創出、経済活性化、勤務経験についての要件です。次に挙げる3つのうち、いずれか1つを満たす人が対象となります。
●雇用の創出を伴う事業を始める人(雇用を生む事業であること)
●技術やサービスなどに工夫をこらし、多様なニーズに対応する事業を始める方
●前職と同じ業種の事業を始める方で、その企業に継続して6年以上勤務経験があるか、その企業と同じ業種に通算して6年以上携わった経歴を持つ人。
3つ目が、自己資金が創業資金総額の10分の1以上あること。ただし株や不動産ではNG。現預金に限ります。上限の1000万円程度の融資を目指すなら、最低でも100万円は貯めておくべきでしょう。
当然ですが借りる資金の使い道は事業に限ります。投資やプライベートでお金に困っているというケースはNGです。
融資の上限額が高い「中小企業経営力強化資金」
2「中小企業経営力強化資金」
新創業融資制度よりも融資の上限額は高く、事業資金を最高7200万円(設備資金2400万円+運転資金4800万円)まで借りられます。
ただし、無担保・無保証人の融資の場合は、上限額が2000万円に決まっており、金利は特別利率2.11~2.50%が適用されます。中小企業の会計指針を適用している会社の場合、そこから金利がさらに0.1%下がります。女性や、34歳未満・55歳以上の方が金利の優遇が受けられるのは、先の新創業支援制度と同じです。
同制度を利用できるのは以下の条件に当てはまる方です。
●経営革新または異分野の中小企業と連携した新事業分野の開拓等により市場の創出・開拓(新規開業を行なう場合を含む)を行おうとする方
一見難しい条件のようですが、要は市場の創出ができればOK。どんな事業にも当てはまります。
●自ら事業計画の策定を行い、中小企業等経営強化法に定める認定経営革新等支援機関による指導および助言を受けている方
これは、認定支援機関という中小企業庁から認定を受けた専門家をとおすことが条件となります。詳しくは最終回で紹介しますが、融資の際に認定支援機関をとおすことで、同制度を利用できるほか、さまざまな特典があります。私の会社も認定支援機関の認定を受けています。
安い金利&融資額が増える可能性があるのはどの制度?
では、どちらを、どう選ぶべきかというと、新創業融資制度は創業2期(年)以内という条件を満たす会社、個人事業主のみが申込みできる制度です。その他の条件を満たせば、自分自身で電話をして申込むことも可能なので、自分ですべて手続きをしたいと考えるならばこちらを選ぶことになります。
これに対し、中小企業経営力強化資金は創業7年以内の事業者が申込みは可能です。ただし、認定支援機関をとおさないと申込むことはできません。
新創業融資制度は、支店決裁権が1000万円。
中小企業経営力強化資金は、支店決裁権が2000万円。
公庫には、支店決裁権という考え方があり、創業2年以内の方は上記が支店のなかで解決できる融資金額となります。支店のなかで解決できない場合には、本社決裁となりますが、創業2年以内で本社決裁まで進むケースはほとんどないため、支店決裁権が上限額だ!とお考えいただいてよいでしょう。
支店決裁権で比較した場合、新創業融資制度に比べ、中小企業経営力強化資金を利用した方が多く借りることが制度上可能になります。また、新創業融資制度に比べ、中小企業経営力強化資金の方が、金利が安くなることがあります。
つまり、中小企業経営力強化資金を利用することで、金利が安くなり、かつ、借りられる額が増える可能性があります。
公庫のメリットとしては、他の金融機関に比べてスピード感を持って決裁が下りることも挙げられます。平均して2~3週間ぐらいで審査結果が分かり、申込みから融資されるまでの期間を含めると1カ月~1カ月半程度になります。その他の金融機関、信用金庫の場合、手続きも複雑になり、融資実行までに一般的に2カ月~3カ月程度がかかります。
[図表]無担保・無保証で利用できる創業融資制度の金利について
もう一つ、最初に公庫で融資を受けるメリットとして、一度目の融資の審査にパスし、きちんと返済している場合、他の金融機関からの評価が上がり、その後、信用金庫などからの借入れがしやすくなることが挙げられます。
一回目の借入れを公庫で実践し、しっかりと借入れに成功させることが、将来に民間の金融機関からの借入れの布石にもつながるのです。
田原 広一
株式会社SoLabo 代表取締役